第15話
俺たちは今ダンジョン最深部を目指している。現在地下一階にまで辿り着いた。
ピチャ……
「キャー!血です!血が降ってきました!」
レベッカの肩がビクッと上がった。どうやらレベッカの頭に血が落ちたらしい。
「ここで騒然な戦いがあったんだな」
和がポツリと呟いた。
確かに辺り一面血まみれだ……それなのに死体が一つもないなんておかしい……。もしかして食べられたのか?
「本当に遅れてスタートして良かったわね」
不謹慎ながらも詩織が噛みしめるように言った。
「ああ、でも序盤から辺り一面に血が噴き出すほどの戦いをしてるとなるとダンジョン最深部到達無理じゃないか?」
「そうだなでもやばくなったら屑の瞬間移動か俺の透明化で逃げられるから俺らは大丈夫だろ。行こうぜ」
「そうだな」
「私とレベッカちゃんは?」
俺たちは詩織を無視して再び進み始めた。少し歩いた先には人がいた。
「あれって……」
「あれ?お前ら馬車の……ってそれどころじゃないんだ!助けてくれクガが……」
イシダは重傷を負ったクガを介抱している。
「何があったんだ?もしかしてあそこの血はクガのか?どんな魔物と戦ったんだ?」
と、和が何故かクガを心配した。
「確かにあの血はクガのだが魔物のせいじゃないんだ。実は……」
「回想入るな、面倒くさい。」
俺はイシダを止めようと口を塞ごうとした。
クガが怪我したことも気になるがとっとと僧侶から回復魔法を受けろよ。
話は一時間前に遡る……。
チクショウ!強行突破しやがった……。
一時間前
大勢の冒険者はダンジョンに入りトラップに気を付け、慎重に行動している。
「フッ!貴様ら!ダンジョンは慎重にやってるとトラップによって詰み状態になってしまうので入ると同時に最深部に向かって走るのが鉄則だ。生きたいやつは俺について来い!」
と、勢いよくクガは走り出した。
「あっ!待ってくれよ」
「セノ早く走れ、置いて行かれるぞ!」
セノとイシダはクガを追いかけ、走り出した。
「ああいけねえ確かにその通りだぜ。久しぶりで感が鈍ってた」
「当たり前すぎて忘れてたぜ。あいつは優秀だな皆あいつについて行けばこんなダンジョン余裕だぞ」
と、大勢の冒険者はクガを追いかけ走った。
「はぁ……はぁ……賢い……やつらだな……うわ!」
クガはたった数秒しか走っていないとは思えない程息が荒れていた。そして階段で躓き階段の上からボールを転がしたかのように、転がり落ちた。
「クガー!」
セノは階段を駆け下り、クガに駆け寄った。セノの目にはクガが横たわり、血まみれになっている姿が目に映った。
「おいセノ離れるぞ、ここにいたら他の冒険者たちに踏み潰されちまう。」
イシダはセノと一緒にクガを離れたところに運んだ。
ここで元の時間に戻る。
「クソ馬鹿じゃねえか!」
和はクガに罵声を浴びせた。
普通血まみれのケガ人にそこまで言うか?鬼畜だ、この男は鬼畜の男だ。まあ、言いたくなる気持ちは理解できるが……。
「何言ってんだお前ら!クガさんは偉大なでっけぇ男なんだぞ!」
イシダは和の言葉に憤慨し、頭を掻きむしった。
「でも天井の血は何だったんだ?階段でコケただけなら天井の血はおかしいぞ」
俺はクガが偉大であることを否定してもイシダの耳には届かないと諦めて、嘆息交じりに質問した。
「それはこいつが恥ずかしいからってすさまじい戦いがあったと思わせるために天井に血を塗ったんだ」
俯いて答えた。
うわぁクッソ小さい男……。
「なぁそれより僧侶はいないのか?クガを治してほしいんだ」
セノは両手を広げ俺達を仰ぎ見た。
「それなら詩織がいる。」
俺は詩織を指差した。
「え~……、仕方ないわね。ほら怪我したところ見せなさい」
詩織はクガに近寄りしゃがみ込んだ。
「ここだ」
セノはクガの頭を指差した。
やっぱり頭が悪かったんだな。これで詩織が治したら、あの面倒くさいのも失くなって欲しい。
「OKそれじゃいくわよ」
俺は目を疑った。詩織は突如手に持っていたお酒を口に含みクガの頭に吹きかけたのだ。その光景を見たイシダとセノは言葉を失い、口だけがパクパクと動いている。
「おいバカなにやってんだー⁉」
「信じられねぇ相手は怪我人だぞ⁉」
俺に続き和が詩織に罵声を浴びせた。
は⁉このバカが何をしようとしてるんだ?バカなのか?こいつは義務教育で血まみれの人には酒を吹きかけてはダメだと学ばなかったのか?
「何よ?助けて欲しいって言うから酒で消毒したんじゃない?」
詩織は悪いことをした自覚が無いのか、胸を張って自信満々に答えた。
「そうじゃなくて僧侶のお前に回復魔法で治してほしかったんだろ」
俺は理解してない詩織に苛立ちを感じて首元を掻きむしり、本来必要のない説明をした。
「それなら早く言いなさいよ」
両手の掌を上に向けて揺らした。
早く言えってそれしかないだろバカが。
「私回復魔法使えないわよ」
人差し指で自信を指差しとぼけた面で答えた。
「ハアァー⁉お前今なんて言った?なんて言ったんだー⁉」
俺は詩織の胸ぐらを掴み思いっきり揺らした。
ただでさえ役立たずなのに回復魔法使えないって、このバカは何の役に立つんだー⁉
「ちょっと待って言うから手を放して」
俺の手を掴み胸ぐらから剥がした。
「だから私は回復魔法が使えないって言ってるのよ」
悪びれもせず呆れたように溜息を吐きながら答えた。
「回復魔法が使えないだー⁉お前僧侶だろ?僧侶が回復魔法使えないってなんの役に立てるんだよ⁉やっぱりお前帰ったらジョブチェンジしろ。剣道強いんだから冒険者か戦士になれ!」
と、力強く詩織を指差した。
「何言ってるのよ。前衛なんて危険な仕事やらないわよ」
こいつ危険が嫌で僧侶選んでたのかよ。前は二日酔いを治すためとか言ってただろ。
「じゃあ回復魔法が使えない僧侶がどうやって役に立つんだよ!」
「回復魔法が無くてもバフ魔法や防御魔法が使えるじゃないのよ!」
「うるせぇ!バフ魔法なんて短時間しか効果ないのに滅茶苦茶疲れるゴミ魔法だろ!」
「でも防御魔法があるじゃない!」
「防御魔法は魔法使いの俺と屑でも使えるぞ」
「でも……」
詩織はついに言葉に詰まった。
回復魔法が使えない僧侶と剣技最強の前衛職どちらが良いかという答えの分かりきったディベートだに勝利しても全然嬉しくねえな……。
「三人とも落ち着いてください」
俺と詩織の間に割って入り止めた。
「じゃあ詩織お前は意地でもジョブチェンする気は無いんだな」
「そうよ」
「なら分かった勝負だ、この任務でお前が大活躍したらジョブチェンしなくてもいい、ただし活躍できなかった場合は即ジョブチェンな!」
「いいわよ、回復魔法が使えない僧侶が役に立つって分からせてやるわ」
まんまと引っかかったな、このバカがよぉ‼今日はもう戦闘をしないお宝を探すだけ、つまり僧侶としての活躍は不可能なのだ。フハハハ!ざまあみろ、マヌケ!
「それじゃあ行くか」
俺たちは気を取り直し、再び歩き出した。
「待ってくれクガを助けてくれ」
その言葉で全員ピタリと足を止めた。
忘れてた……面倒くさいな……。
「ダンジョン出て僧侶に頼めばいいだろ。」
和がダンジョンの入り口のほうを指差した。
「それもそうだな、サンキュー」
クガを抱えてダンジョン出口に向かった。
「あいつらどこまで馬鹿なんだ……?」
俺は手を顔に当て首を振ってやれやれと呆れた。
「本当ですね」
レベッカにここまで言わせるなんて……、あいつらもう流石だな。
今度こそ俺たちは気を取り直しダンジョン最深部に向かって歩き出した。
三十分後……
「なあマップで見る感じこの奥で今回参加した全冒険者たちが戦ってるがどうする?」
俺は巨大な扉の前で立ち止まる振り返った。
「は⁉なんでだよ。ダンジョン入る前に屑のマップで確認した時もそこにいただろ」
「このダンジョンのボス部屋なのでしょうか……?」
L字にした人差し指と中指を顎に当て斜め上を見た。
ボス部屋か、危険だよな。ボスが倒されるまでここで待つか……、でも全滅するかもしれないのに見捨てるのもなぁ夢見が悪いよな、どうしたものかな……。
「入って助太刀しましょうよ」
迷わず元気な声で提案してきた。
危険だ、作戦が思いつくまでは一時待機しよう。
「ちょっと待っ……」
「そうね、入りましょう。」
俺の言葉を遮り詩織が扉を開けた。
このバカ!まだ作戦を思いついていないのに……、それにしてもさっきまで危険が嫌で僧侶選んだくせにどういう風の吹き回しだ……?
「どうしたんだ?危険なのは嫌がってたのに」
「活躍する方法が思いついたんだろ」
そういうことか和よく覚えてたな、この賭けはかったと思ってたから忘れてた。
「その通りよ、レベッカちゃんは危ないから私の後ろに隠れてて」
やばいこいつに活躍されると困る……、なんとか邪魔しなければ。
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