第10話
「はー…はー…危なかったわ、あと少しで完全に飲み込まれていたわ」
詩織は息切れを起こした。
詩織はギリギリのところで正気に戻ったらしい、俺には正直意味が分からない、母性に飲み込まれるって言葉そんなに普及している言葉なのか……ってずっと関係ない話だな。
「話が進まないから黙ってろよ。どうしてレベッカはあいつらと揉めたんだ?」
「実は…」
場面は三十分ほど前の闘技場に変わる。
レベッカがきょろきょろと見渡しながら立っているところにダズ達三人が近づいて来た。
「どうしたんだ?嬢ちゃん?」
と、ダズは物腰柔らかく言った。
「どこかのパーティーに入れて貰うために来たのですが人に中々声を掛けられなくて……」
と、レベッカは不安そうなか細い声で言った。
「そいつは大変だな。そうだ俺達と勝負してもし勝てたらパーティーに入れてあげるよ」
「本当ですか?」
レベッカの表情が明るくなった。
「ああ、ただし俺達が勝ったら嬢ちゃんの物を一つ貰う」
突如としてニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべた。
「えぇ……、その賭け事のようなことは私やったことがなくて……。」
レベッカは負けた時のことを考え不安になり下に俯いた。
「大丈夫だって負けてもたった一つ失うだけだから、それにここでやらないと一人でここに立ち尽くして帰るだけになっちゃうよ?」
目力を込めて表情が怖くなっていった。
「それは困ります…分かりました、勝負します!」
レベッカは覚悟を決めて前を向いて答えた。
「いいね」
「嬢ちゃん頑張ってくれよ」
ジェイが優しくレベッカの肩を叩いた。
「仲間になれるって信じてるぜ」
カルロスが右手でグッドサインをした。レベッカは二人の行動を応援と感じ勇気が湧いて来た。ダズとレベッカはステージの上に移動してレベッカが挨拶しようと頭を下げたその時……。
「キャプチャー!」
ダズはお辞儀をしていたレベッカに拘束スキルで奇襲を仕掛けた。
「きゃあ!」
レベッカは手足を縛られ体勢を崩し倒れた。ダズは腰につけていた剣を右手で抜き一振りでレベッカの首を真っ二つに切った。
「俺の勝ちだな、じゃあその金のペンダントをよこせ」
と、ダズは薄気味の悪い笑みを浮かべた。
「お辞儀中に不意打ちなんて卑怯ですよ。それにこれは家宝なのでお渡しすることは出来ません」
レベッカは闘技場ステージ横から姿を現して言った。
「それはダメだろ嬢ちゃんルールに無いことでいちゃもんつけるなんてさ」
と、ジェイが一歩一歩レベッカに向かって詰め寄った。
「素直に渡しなよ。そんな大事なもの持ってるならそもそもこの勝負を受けるなって話だろ?」
と、カルロスはレベッカの背後に一歩一歩詰め寄った。レベッカはじりじりと詰め寄られるたびに恐怖心が高まった。
「ジャッジゴーレムやれ」
ダズはレベッカを指差しジャッジゴーレムに命令した。ジャッジゴーレムは抵抗するレベッカから無理やりペンダントを奪い取りダズに渡した。
場面は元の俺達が話し合っている控室に戻った。
「ここから先は皆さんも見た通りです」
え?ダズって人あんな偉そうにして強そうなのにやること不意打ちってダサいな。
「そういうこと、お姉さんに任せなさい。絶対に取り返してみせるわ」
と、詩織はレベッカの手を取り目を見て言った。
「相手は随分と卑怯ですね真面目に勝負をすればあなた達ではまず勝てないでしょう」
と、ローレンさんは壁に寄りかかり頬杖をついて言った。
ローレンさん随分とハッキリと言ってくるな、もっと優しくオブラートに包んで言って欲しいものだ。
「相手が卑怯だろうとそうでなくても真面目に戦うつもりは無いからそこは大丈夫です。それじゃあ作戦会議だ。」
俺達は五人で輪を囲んで話し始めた。
「作戦も何も相手の戦い方がわからないぞ。三人全員剣を持っていたから冒険者か戦士かぐらいしか見当がつかないぞ」
和が開口一番に言った。
「確かにどんなスキルを使うのかわかれば対策が取れるのだがレベッカスキルまでは見てないのか?」
「拘束スキルを使っていました。だからダズさん達の職業はハンターか荒くれ者だと思われます。」
「ハンター?荒くれ者?聞いたことのない職業だな。」
あの酒場のマスター面倒くさいからって説明を省いてやがったな。
「説明不足でしたね。冒険者職は変化するのです。変化するとその職によってステータスが上がりその職のスキルが覚えられるようになります。」
ローレンさんが俺達の分からないところを補足説明してくれた。
「え?でも俺は魔法使いですけど盗賊のスキルの透明化を使えますよ。」
確かに和の言う通り和は魔法使いでありながら盗賊スキル使っているな。
「たまにそういう人もいます。逆に職についてもその職用のスキルを使えない人もいます。」
ローレンさんが言った。
「荒くれ者やハンターのスキルって他には何がありますかお兄様」
レベッカがローレンさんに尋ねた。
「すまないレベッカ荒くれ者やハンターは闘技場に来ることは基本的に無いから分からない」
お兄様⁉確かに見た目似ているなとは思っていたけど本当に兄妹だったんだ。だったらローレンさんもっと怒れよ、妹が酷い目に合わされたんだからさ……ローレンさんドライだな。
「そうですか」
「まあこっちは取られて困るものは無いし気楽に順番だけ決めるか」
俺と和と詩織はより小さな輪を囲んだ。
「私一番。一番に勝ってレベッカちゃんの家宝取り返していいところ見せたい!」
と、詩織は小学生のように元気に手をあげて言った。
絶対それ本人がいる目の前で言ったら意味なくなると思うんだけど、バカなのか?
「なら和は二番いってくれ。作戦がある」
俺は和の顔を見て言った。
「了解だ、屑。」
俺達は小さく囲んだ輪を解いた。
「本当に巻き込んでしまって本当に申し訳ありません」
再びレベッカは、俺達の目の前に来て深々と誤った。
「別に良いよ、年上は年下を守らないといけないからな」
憧れの人の受け織の言葉を俺は言った。
「その通り、気にしなくていいのよ。ただ戦うのに使うからレベッカちゃんの剣借りてもいい?」
「どうぞ」
レベッカは快く腰につけていた黄金の剣をレベッカに手渡した。
場面は闘技場ステージ横に変わる。ダズ、カルロス、ジェイの三人は長椅子に座って話している。ダズが俺達に気が付いた。
「やっと来たか、一番手は俺だ」
カルロスが立ち上がって言った。
「雑魚じゃん、ハァー、レベッカちゃんにかっこいいところ見せたいから強そうなのと戦いたかったのに……、仕方ないわね」
と、詩織は対戦相手がダズパーティーの中で一番弱そうな男と分かりため息交じりに頭を掻いて言った。
なんでこいつは相手を無駄に怒らせるんだ、勝てるからって調子に乗り過ぎだ。
「てめ……」
「ここで怒るな、今から戦うんだからステージの上で分からせてやればいいだろ」
ダズが半歩前に出てカルロスの顔の前に腕を伸ばして発言を制止した。
「その通りですな、兄貴。やっぱ兄貴は天才だ。」
どこがだ、バカ。ここで怒ったお前がバカすぎるだけだろ。
カルロスと詩織は闘技場ステージ上に移動し数メートル距離を取った位置で対峙している。
「世間知らずな田舎者らしいから教えてやるよ。まずお互いにお辞儀をするんだぜ」
「詩織さん勝てるのでしょうか僧侶は攻撃魔法を苦手としています。いくら私の剣を貸したとはいえ僧侶がアタッカー職業の人に勝てるとは思えません」
闘技場ステージ横で緊張感に耐えられなくなったレベッカが俺の顔を見て言った。
「そうです僧侶がアタッカー職業に勝ったという話は一度も聞いたことがありません」
ローレンさんもレベッカに便乗する形で俺に尋ねた。
「大丈夫、あいつは勝つよ」
俺は自信満々に答えた。
確かに詩織のことを知らない人からしたら不安だろう、だがしかし俺と和はあの顔だけアル中女の強さをよく理解しているから微塵も不安は無い。
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