第9話

 俺は東条屑。幼馴染の居眠り運転によって死んだ俺達は地獄行きを避けるため異世界に転生した。


 俺と詩織と和は現在ギルドの机を囲う様に座り話している。


「さっき受付のお姉さんに聞いたんだけど闘技場があるらしいから行ってみない?」


 闘技場か……、こいつがニヤニヤしている時点であまり気が進まないな。よし、金が無いから断ろう。


「ダメだ、今日も任務だ。絶賛金欠で無一文なんだから」


「それなら必要ない昨日俺が詩織から一万ギラ借りてカジノに行ってきてから今は三十万ギラある」

 和は限界までギラの入った袋を机の上に出した。


「またギャンブルしてたのかよ、まあそれなら行くか」


 本当にこいつは……、この前は十万ギラギャンブルして大負けしていたのに……本当に救えないな。


「やった!」

 と、詩織はガッツポーズをした。


 こいつ普段は戦いたがらないくせになんで闘技場に行きたがるんだ?何か隠してるな、不安だ。

 俺達はギルド中からと闘技場に移動した。


 ここらで一つ探りを入れてみるか。


「でもどうして闘技場に来たかったんだ?」


「へ⁉ま…まあ別に特別な理由は無いわ」

 詩織は滝のような汗を垂らしながら言った。


 何という分かりやすい奴なんだ……。もう少し努力して誤魔化せよ。


「剣道関連だろ詩織はいつも剣道に関連のこと知り合いに知られること嫌がってるからな」

 和が言った。


「そっか。ごめん言いにくいこと聞いちまったな」

 俺は手を合わせて謝った。


「別にいいわよ」


 怒らないだと……、本当に何を企んでいるんだ?


「剣道関連のこと知られることが嫌なんじゃなくて和の妹ちゃんに強いと思われるのが嫌なだけなんだけどね」

 詩織はボソッと小声で呟いた。


「でも闘技場なんて争いのないこの国で何のためにあるんだ?」


 そこに男が近づいて来た。見た目は輝くような金髪に深く透き通るような蒼色の目をしている。見るからにボンボンのような服装だ。


「それは相手の使うスキルを見て実際に習得するか決めるためです。要はスキルポイント節約のためです。」


「へぇーライセンスに書いてあるスキル覚えるか悩んでいるときに覚えている人と戦って実際どんな感じか見れるってことか便利だな」


「まさにその通りです。そしてもう一つ理由があって冒険者ポイントというものがあってそのポイントを道具と引き換えるなど複数の用途に使えるためポイントを集める手段が決闘というわけです。」


「へぇーなら積極的に参加したほうが良そうだな」

 と、和が俺の顔を見て言った。


「ここで会ったのも何かの縁です。一戦どうですか?」


「いいですよ。」

 俺は快諾した。


 この人は優しそうだし俺が初心者ってことも理解してるからきっと負けてくれるだろう。楽してポイントゲットだぜ!


「私の名前はローレン・ノースです」

 ローレンさんは手をへその前に添えて、お辞儀した。


「俺は東条屑」

「俺は西宮和」

「私は南詩織」


 俺に続くように二人も自己紹介した。俺はローレンさんに案内されてステージに上がった。


「まずルールですが決闘ではお互いの合意が必要です。ステージ外からの攻撃は禁止です。違反した場合はジャッジゴーレムが違反者を取り押さえます。決闘では自分の感覚を共有したゴーレムを使って戦います。だからどんな怪我を負っても大丈夫です。そして両者がステージに上がった時点で決闘開始です。最後にマナーですが最初にお互い頭を下げて後ろに三歩進みその後対戦開始です」

 決闘にもマナーってものがあるのか、面倒くさいな。


「それではよろしくお願いします。」

 と、ローレンさんはお辞儀した。それに合わせて俺もお辞儀した。


「フレア!」

 俺は杖先からローレンさん目掛けて火の玉を放ったしかしローレンさんは高く飛び火の玉を躱した。


 え?初心者の俺に勝たせてくれるわけじゃないのか?だとしたらやばいな。


 ローレンさんは右手で剣を抜き、

「エンチャントフレア」

 と、左手の人差し指と中指を立て刀身をなぞりに言った。なぞったそばから剣は炎を纏った。

「フライングスラッシュ」

 と、ローレンさんは剣を屑の方角に振ると炎を纏った斬撃が飛び屑の胴を上下に二つに斬った。屑のゴーレムが粉々に砕けた。そして闘技場ステージ横に屑の姿が現れる。


「熱い!痛い!やばい、死ぬ!マジ死ぬ!」

 俺は地面でのた打ち回った。


 熱い!熱い!熱い!痛い!痛い!痛い!この人俺が初心者だからポイント渡そうとした訳じゃないのかよ!


「大丈夫か?」


「怪我こそしてないものの全然死ねる」


 大丈夫そうかそうじゃないか一目で分かるだろ、バカ!


「アハハハハ!普段私を囮にしてる罰よ!」

 と、俺を指差して笑う。


 そういうことか俺を熟練の冒険者と戦わせることが目的だったのかこのクソ女が!必ず、必ずこの痛み以上の苦痛を与えてやる!


「すいません大丈夫ですか?」

 ローレンさんはステージ上から俺に駆け寄ってきた。


「ま……まあ大丈夫です」


 大丈夫な訳ねえだろ、こっちは初心者冒険者なんだよ。頭使えよ!


「返してください大事なものなのです」

 どこからともなく女性の声が聞こえてきた。


「ダメだよ~お嬢ちゃんルールはルールだからさぁ勝負の結果だから諦めなよ」

 今度は男の声だ。声からしてこちらに向かってきているのが分かる。


「そんな勝負も何もあんなの卑怯ですよ」


「知らねえよ。ちゃんと考えなかったお前が悪いんだろ?」

 ここで初めて声の主の女性が見えた。女性の見た目は十七歳ほどで輝くような金髪に深く透き通るよう綺麗な蒼色の目、見るからにボンボンのような服装をしている。どうやら女の子は俺達に気が付いたようだ。


「……あのすいません助けてくれませんか?」

 女の子は俺達に助けを求めてきた。


 うわ……、面倒くさいな。この人確かに金持ってそうだけど子供助けたって大した恩返ししてくれないだろうし。


「喜んで」

 詩織は反射的に答え、女の子のもとに走った。


「ちょっと待てよ」

 詩織は俺の静止を聞こうとしなかった。


「兄貴どうします?」

 男三人組大中小の小が俺を無視して話を進めた。


「いいぜ、三人がそれぞれ一対一の決闘をするルールは闘技場と同じだが勝った側は負けた側からなんでも一つ貰う」

 と、大中小の中が分かりやすく指の本数で表現した。


「ちょっと待て、俺はまだやるとは言ってない」

 今度は無視されないように大きな声で言った。


 勝手に話を進めようとしやがって、こんなチンピラ関わらないのが一番に決まってる。


「何言ってんの?あんな可愛い娘助けない訳ないでしょ」


「その通りだ、美人を見捨てようとは男の風上にも置けないぞ」


「なんでなんだよ。俺たちは駆け出し冒険者だぞ?勝てる可能性より負ける可能性のほうが断然高いだろ」


「だけど負けても失うものがないだろ?失うものが無いっていうのはギャンブルにおいて無敵状態なんだよ。ノーリスクハイリターンだからな」

 と、俺の左肩に手を置いた。


 確かにそうだが、チンピラに負けて有り金全部取られたら今日宿に泊まれなくな……。そうかその手があったな。


「確かにそうだな…分かったその勝負受けよう」


「決まりだな、俺はダズだ」

 大中小の中のダズは顎を出し見下すように見てきた。


「俺はカルロスだ」

 大中小の小のカルロスはポケットに手を突っ込みオラオラ揺れなながら下から見上げてきた。


「俺はジェイだ」

 大中小の大のジェイはムキムキで圧倒的肉体美をしている。三人とも俺達と同じくらいの歳の見た目で同じ黒髪黒目だ。


 ジェイはでかいしムキムキだな、ジェイとだけは戦わないようにしよう。


「俺は屑だ。こっちの男は和だ。そしてこっちの女が詩織だ決闘の前に作戦を話し合いたいから少し時間をくれ」

 と、俺は和と詩織をそれぞれ指差した。


「いいぜ、せいぜい考えるんだな」

 ダズがニヤニヤして言った。


 ムカつく顔だな、後悔させてやる。


「ご迷惑をかけてしまい申し訳ありません。私はレベッカです。」

 と、レベッカが深々と頭を下げた。


「ハァハァレベッカちゃん歳は?」

 詩織は真面目な顔して聞いた。


 キモッ!何でこいつ息が荒くなってるんだ?そういえば女神が何か言ってたな、何だったっけ?


「え?十七です」


「ビンゴー‼可愛いわねレベッカちゃん私のことは詩織お姉ちゃんもしくは詩織姉って呼んで」

 と、詩織は後ろからレベッカに抱き着いた。


 ダメだ、これは完全にダメだ。変態だ、これは世にはなってはならない紛うことなき生粋の変態だ。


「え?は?招致しました」

 レベッカは眉を寄せて分かりやすく困惑している。


「詩織暴走するな、自分を強くもて母性に飲み込まれるな!」

 と、和はレベッカに抱き着いている詩織を引き剥がす。


 俺は目を細め困惑の表情を浮かべた。


 母性に飲み込まれるって何なんだよ、聞いたことない言葉の組み合わせだな。


「はー…はー…危なかったわ、あと少しで完全に飲み込まれていたわ」

 詩織は息切れを起こした。


 詩織はギリギリのところで正気に戻ったらしい、俺には正直意味が分からない、母性に飲み込まれるって言葉そんなに普及している言葉なのか……ってずっと関係ない話だな。

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