第44話

「やだ、待って」


先日の逢瀬が台風でダメになって以来ずっと会えていなかったからか、和弘は麻由子が助手席に乗るなり抱き締めてキスをし、スカートの中に手を入れた。


「やだ、待たない」


和弘は車を発進させても、片手でハンドルを操作しながらもう片方の手は麻由子のスカートの中に入れたまま、指で広げてクリトリスを触った。そしていつも行くホテルの手前にある夜間もチェーンが掛けられない広い駐車場の横を通り掛かると、そこに入り車を停めた。そこはいつぞやした公民館の駐車場や近くの駐車場と違い、逆に360度周囲に何も無く、民家までかなりの距離があるだだっ広い場所。歩く人が例え居ても、敷地の真ん中に停めた車も麻由子と和弘の姿も、夜の暗さの中では認識出来ない。真っ暗な中、体育館二個分程の広さの中心に二人は居る。


和弘は麻由子を車から降ろすと、窓に手を尽かせて自分はしゃがむとスカートを捲り足の間に入った。遮る物が何も無い野外で、立った姿勢で和弘から舌での愛撫をされた麻由子は膝をガクガクと震わせ


「だめ…」


と言いながら和弘の頭を手で抑える。散々舌で弄ばれた後は、麻由子が跪かされ和弘のいきり立ったものを咥えさせられた。太さがかなりある和弘のものは、普通に愛撫していたら麻由子の口には半分しか入らない。和弘は少し強引に麻由子の頭を持つと、ピストンするように腰を動かし麻由子の口に出し入れした。他の男にもされた事があるが、サイズがある和弘からされると喉まで先端が届きかなり苦しい。麻由子は艶っぽい声どころか


「ぐっぅ」


と苦悶の声を上げ、和弘がペニスを引き抜いた後はだらしなく開けたままの口から唾液を垂らした。その表情が月明かりに照らされ鮮明に見えると、和弘は


「まゆ、今すっげえエロい顔してるよ」


と嬉しそうに言い、立ち上がらせると後ろから一気に根元まで挿入した。声を上げてはならないと必死に唇を噛むが、時折小さく


「あっ…」


と声が漏れてしまう。その声も、洪水のように濡れた膣の感触も、窓ガラスに突いた麻由子の手が爪を立てている様も、全てが和弘を興奮させた。やがて和弘はペニスを引き抜くともう一度麻由子を跪かせ、麻由子の口に大量の精液を放った。付き合い始めは口に射精するのも遠慮気味だったが、今では「今日は飲ませたい」と遠慮なく言い、麻由子が精液を飲み下す所を眺めては満足そうに微笑む。


「凄い場所でしてるよ、私ら」


「だって、抱きたくて我慢出来なかったんだ。会ったら晩飯食うよりホテル行くより先に、とにかくまゆが欲しくて狂いそうになった」


「そこまで情熱的に求めて貰えて、女冥利につきるよ。でもお腹空いたでしょ、今日は時間無くてご飯作って来られなかったから、何か食べに行こ」


「あ、ならモス寄りたい」


「いいよ、ドライブスルーで買って川沿いにでも車停めて食べる?」


相談し、二人はモスバーガーで夕食を買い外で食べる事に。川沿いの土手に登ると、昼は灼熱のような暑さだが夜は涼しい風が吹き非常に心地好い。二人は車止めに腰掛けながらテイクアウトで買ったものを食べた。


ただ夜風に当たりながら隣り合ってファストフードを食べ、時折言葉を交わす。たったそれだけだが麻由子は楽しいと感じる。それは相手が大好きな和弘だから。そう感じていると和弘が


「なんか、ただ座ってハンバーガー食ってるだけなのに、俺今凄い楽しい。まゆと一緒に居るといつ何してても楽しいよ」


と言ってくれて、麻由子も和弘が同じ思いで居てくれていると分かり嬉しかった。


「それにしてもまゆは俺に贅沢言わないね、高いレストラン連れて行けとか宝石買えとか。俺がファストフード行きたがっても怒らないし」


「何、ねだった方がいい?」


「はは、うん。威張れる程の月給じゃないけど、たまにはモスより高いもん食べたり記念日じゃなくたって物ねだっていいよ」


「高いものに興味が無いの。宝石は本物である必要無いし、ハイブランドも必要無い。だってGUに可愛いバッグ売られてるのに、20万30万のバッグ買う必要を感じない。指輪とかアクセサリーも大好きだけどサージカルステンレスのが一番好きなの、肌にアレルギーが起きないし丈夫だし、ピアスはボールのキャッチだから付けっぱなしても痛くないし」


麻由子は言い終えるとアイスティーを飲み、続けた。


「それに奢らせたくないのも、私の性分。私は例えかずが年収五億でも自分の食事代は払いたがる。対等でありたいから。かずには結局いつも受け取って貰えないけど」


「俺、付き合った子は今まで6人居たけど、そんな子居なかったよ。奢られるのが当然って子ばかりだし、料理出来る子も居なかった」


「その6人以外に、一晩だけとか成り行きでしちゃってズルズル続いた、みたいな交際せず体の関係だけの人は入ってないの?」


何気なく聞いたが、麻由子は後悔した。てっきり一人や二人答えるかと思ったのに、和弘からは


「そういう関係になった人は今まで誰も居ない、交際した人が6人」


と返ったから。そして当然のように麻由子にも、麻由子が危惧したように「麻由子は?」と同じ質問が返る。よもや正直に「あなたと交際しながら2人の男とそうなりました」と答えるわけにもいかず、麻由子も


「私も無いよ、交際したのは3人かな?」


と、夫の祐志、和弘、大輔、良介の時点で4人なのにそれより以前の交際相手は切り捨て、かつ和弘より少ない人数を答えた。こうなるとあまり詳しく聞かれたくないのは麻由子の方なので、話題を変えようと適当に「この川とかも、何か釣れたりするのかな」と振ってみた。すると和弘が携帯を取り出し


「へえ、この川手長海老が釣れるらしい!釣り場になってないかな、土手降りて見に行っていい?」


と、川の近くの散策に乗り気になり出した。そして麻由子は釣りの話題を振った事を、経験人数を聞いた事より後悔した。麻由子の今日の服装は左右どちらにもスリットの入ったロングスカートにバックストラップのヒールパンプス、いつぞや山登りに行かされた時のように、川の前に生い茂る背丈程もある雑草の中を歩いて突っ切るような探検になど向いてるはずも無い格好をしている。が、麻由子の服など気にもせず、釣り場探しという楽しい目標を得た和弘は車のトランクから懐中電灯を取り出すと


「ちょっと下降りよう!ここで一人で待つのは夜だし危ないから、まゆも一緒に来て!」


と嬉しそうに言った。だったらあんたが履いてるミリタリーパンツとレザーシューズを私に履かせて、あんたがスリットスカートとヒールパンプスで草むら入りなさいよ…。麻由子は喉元までそう出掛かったが飲み込み


「わ、私はこんな格好だから草むらの手前まででいいかな」


と申し出た。


「いいよ、なら麻由子に懐中電灯あげるから持ってて。俺は頭に付けられるライトもあるから」


そう言う和弘から懐中電灯を渡され、夜中の川手前の舗装コンクリートを歩く。和弘とじゃなかったらこんな場所のデートは逆に出来ないだろう、と麻由子は思わず笑いが漏れた。そして自分じゃなかったら、怒り出す女も居るだろうとも。釣りはあくまで自分の趣味でしか無いが、相手が嫌がっているかは関係無い。自分が楽しければ相手も楽しいと疑わない所は、もう何度も経験している。それにまるで子供のように無邪気に振る舞う和弘が、麻由子にはやっぱり可愛くて仕方なかった。さすがに蜘蛛もカマキリもお構い無しに草むらに突進する和弘の真似は、虫が大嫌いな麻由子にはとても出来なかったが。

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