第37話
「あー、すげぇ気持ちいい」
和弘の声に呼応するように、麻由子は吸い付く強さや舌を這わせる速度を微妙に変える。やがて和弘は
「まゆ、降りて」
と言い麻由子を車外に出させると、車の窓に手をつかせスカートを捲りその場で後ろから麻由子を犯すように抱いた。街灯から離れているとはいえ、ここは駐車場の端。以前おおっぴらに外で出来たのは、民家が周囲に全く無い公民館の駐車場だったから。ここは暗いが民家が近い、麻由子は絶対に声を出さないよう必死に和弘が果てるまで我慢した。
「ごめん、どうしてもまゆの中でイキたくなっちゃって」
「それだけ私を欲しいって強く思ってくれたなら、嬉しい」
車の中に戻り身支度を整えた和弘は、麻由子を抱き締めると
「欲しいよ、いつもまゆと会ってると勃ちっぱなしじゃん。でもそれだけじゃないよ、いつも会いたいし話したい、抱き締めて欲しい。あとまだまだ色んな場所にデートにも行きたい」
そう言って耳にキスをした。抱き締められれば幸せと心底感じ、唇が触れれば触れられた場所が熱くなる。麻由子はやはり和弘を愛していた。それでも、こんなに愛してはいても麻由子は和弘との再婚は望まない。
今和弘が自分を愛でてくれているのは、不倫の恋だからでしかない。たまに短時間会うだけだから一番綺麗に装った自分を見せるだけでいいし、一番美味しい部分だけを楽しめる。これが結婚し共に生活する相手になれば、寝起きの姿も見せなくてはならないし必ず今以上の言い合いも増えるはず。そういう部分を見せずに済む今のままを麻由子は望んだ。このまま、自分という存在があるから子供の為に嫌な結婚相手との生活も仕事も耐えられる。自分がそうであるように、和弘にもそうあって欲しい。
ただ、彼は嫌いと言いながら女房を抱きそれをわざわざ自分に宣言までした。その上まだ無神経な物言いで麻由子が別れたいという気にさせる。麻由子の膣の奥には大輔が出した精液も残っている、他の男にも抱かれたばかりの体で和弘にも抱かれるのは、麻由子の愚かでささやかな和弘への抵抗だった。わざわざそれを口に出す程、和弘のように阿呆ではないが。
世間の認識は、不倫をする女は熟女AVの印象のように全ての男を虜にするような妖艶な美女ばかりという認識だろう。そうではなく、一般では逆に虫も殺さぬような顔をしながら貞淑な振りをしたごく普通の主婦の方が、えげつない不倫をしているものだ。まるで自分のように。麻由子は娘の学校の参観日に出席しながら
(ここに並ぶママ達にも、不倫しているのは必ず私以外にも一人二人居るわよね)
などと考え、頭の中で笑った。そして娘の参観日に何を考えているのだ、とも思い直し再び前を向こうとした麻由子は思わずまた頭の中で
(早速、不倫ママ居たわ)
と言い、今度は表情までニヤリとなった。視線の先、開け放された外廊下から麻由子に向かい手を振っている恵美の姿が目に入ったから。
「何ニヤニヤしてっかと思ったら、そんな事考えてたのぉ?(笑)」
「で、考えてたら恵美が目に入った」
恵美の子は下は6年生だが上は中学三年、今日は仕事の都合で出られるか分からないと言っていたので一緒には来なかったが、間に合ったらしく途中から恵美も参観に出て、ついでに麻由子に会いに一年生の教室にも寄ったらしい。二人は廊下を歩きながら談笑しており、一旦帰って麻由子が車を置いたら恵美の車に乗り換えお茶しに行く事に。
「で、この前くれた意味深なLINEは何だったの?」
麻由子はフルーツの乗ったワッフルにフォークを入れながら恵美に聞いた。数日前恵美と交わしたLINEは相変わらず晋司の愚痴がメインだったが、最後に「でも、最近晋ちゃんとは別の人と付き合ってもいいかなと思ってる」という言葉があった。寝しなで深く追及しないままだったので麻由子は今聞く事に。恵美はルイボスティーを一口飲むと
「それがね、最近仕事の関係で仲良く話すようになった人がいるの」
と話し始めた。
「で、その人がうちの会社に来る度私に話しかけてくれて、LINE交換して…今度食事に行きませんかって」
「あっちは付き合いたい気満々じゃない」
「でも私まだ、晋ちゃんを切りきれてないしさ…そもそもその人13歳も下なの」
「まだ30!?やるじゃん恵美」
「話すのは楽しいんだけど、さすがに13歳下だと聴いてた音楽とか微妙に噛み合わないから年齢差感じる」
その点4歳の差の和弘とは、流行りも聴いてきた曲もそこまで違いは無いので噛み合わない事は無かった。ただよく考えたら自分が高校一年生の時、和弘はまだ小学5年生。今の年齢なら問題無くとも、女子高生が小学生を食っているとなれば話は違い問題かも、などとも麻由子の脳裏に過った。それを言うなら女子高生の時相手はまだ二歳だった、恵美の方が大問題になるが…。
恵美の言い寄られている相手の事を聞くうち、自分のカップの飲み物が無くなったので麻由子は恵美に声を掛けた。
「私ドリンクバー取ってくる、一緒に行く?」
「あ、私も行く」
連れだってドリンクバーの前でカップを片手に何を飲むか迷っていると
「江藤さんですよね?」
と自分に声を掛ける者が居た。振り向いて見るも、麻由子はその人物に覚えが無い。アッシュに染めたミディアムヘア、エビスのワイドジーンズにSupremeの真っ赤なトレーナーというやや派手な出で立ち、捲った袖からはトライバルのタトゥーが見えている。
「あ、普段は帽子だから分かりませんか?」
と言われ笑顔になった時、麻由子はやっと思い出した。
「ドライバーさん?えっと…関さん!」
「そうです、仕事場では挨拶くらいしかしてないし、普段着だから分からないですよね」
と、会話している麻由子を見た恵美は邪魔をしないようそっと自分だけ席に戻った。
「お友達と来てるんですか?俺は弟と。あそこに居る俺より太ってるガラ悪いのが弟です」
「ガラ悪いとかは無いけど、確かにお顔似てますね」
「俺も普段着だとあんまり上品じゃないんです」
「似合ってますよ、でも仕事してる時と雰囲気が違うから分からなかった」
「本当はこんなナリのに話し掛けられたら迷惑かな、とも思ったんです。お友達と来てるのに。でも江藤さん優しいですね、嫌な顔せず話してくれた」
「嫌なんて思わないですよ、私服が見られて新鮮でした」
「似合ってる?」
「うん」
「やった♪じゃあ、お友達これ以上待たせたら悪いんで」
麻由子の会社に出入りするトラックドライバー、関良介は手を上げると席に戻って行った。麻由子も席に戻ったが、恵美はニヤつきながら麻由子を見る。
「な、なに」
「あの彼も見た目からしてまだ30くらいだよね、麻由子もすみに置けないじゃん。麻由子こそ年下キラー」
「あのねぇ、あの人はただの仕事場出入りするドライバーさん。普段は挨拶しかしてないよ」
「へー、なんかあっちは仲良くなりたそうじゃない?」
「ないない、仕事場で顔合わせる間柄だから挨拶してくれただけでしょ」
興味津々といった恵美の注目を何とか逸らしたくて麻由子は別の話題を振ってみたが、先に帰る良介が麻由子らの席に来て「お先に」と声を掛けていったせいで、また恵美の興味が良介に戻ってしまい
「イケメンだね」と言いながら恵美が麻由子を見た。
麻由子はどう反応していいかも分からず「そうかな」ととぼけながらワッフルを頬張った。
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