第22話

「明後日空いてる?」


DMの相手は和弘ではなく大輔。まさか自分の人生の中で


「一度寝たくらいで彼氏気取りしないでくれる?」


という台詞を使うようなシチュエーションが起きるとは、思っても見なかった。実際には送らないものの、大輔からは同窓会の夜以来しつこく誘うDMが来る。その度にはぐらかしてはいるが、大輔は諦める様子は無い。和弘と終わり掛けたからといって自暴自棄になり寝た事が、こんなに尾を引くとは。麻由子はため息をつきながら返信した。


「何度言われても無理だよ、私は定期的に会う相手は欲しくない」


「助けると思ってあと一回だけ、ね?」


「本当に困る、やめて欲しい」


「ならなんで簡単に誘いに乗ったんだよ、一回したならあと一回も同じだろ?」


「こっちが困るって言ってるんだから、諦めて他の人誘いなよ」


「どうしてもまゆがいい、お願い!」


遊び慣れていて後腐れも無いだろうと思ったから軽い気持ちで乗ったのに、食い付いてしつこく離さないこんな男を相手に選んでしまい麻由子は心から後悔した。ただ未だに、わざわざ知りたくもない発言を聞かせた和弘も100%許せたわけじゃなく、発言は交際が終わるまでずっと忘れる事が出来ない。自分は女房と和弘を共有している、とはっきり聞かされた今後は、和弘と寝る度に麻由子は自分に乗る和弘の首に女房の白い両腕が絡み付く幻が見えてしまい消えないようになる。


そして交際自体、麻由子がその辛い気持ちを押し殺し“許した”上に成り立って行くようになる。


麻由子は和弘のように他の男と自分を共有させています、などとわざわざ言う程馬鹿ではない。けれどあの時受けた気分の悪さを思えば、もう一度くらい大輔と寝てやろうか、という気持ちも沸き起こった。


けれど大輔のような男にそれを許せば、地獄の果てまで追われるはず。危険と感じた麻由子は


「やっぱり無理だよ」と送り通知をオフにした。


件の和弘は持って生まれた特性からか、今では自分の発言のせいで別れかけた事など忘れてしまったかのように能天気なメッセージを麻由子に送って来ていた。仲が元通りになり嬉しい反面、もう少しは気にしろよという気持ちも沸く。そして自分をこんな目に遭わせた事に改めて恨みが募った。


だからもう、大輔は自分を誘わないで欲しい。


二人と同時進行で交際するなどあり得ない、それに大輔のような身勝手な男はいずれ麻由子の家庭も壊しかねない、だから二度目の誘いには乗れない。それも理由ではあったが本当の深層にある理由は…


これ以上誘われたら、和弘への当て付けにもう一度誘いに乗ってしまいそうになるから。和弘の発言を思い出してしまうと、大輔のDMに「いいよ」と返答してしまいそうになる。


モヤモヤしながら和弘から来た他愛ないメッセージに返信をすると、和弘から更に返信が来た。


「それと、改めてごめん。俺夫婦間でセックスレスとか信じられなくて。どこの夫婦もたいして好きじゃないけどそれは習慣みたいに、たまにはあるもんだと思ってたんだ。だから気軽に言ってしまったんだ」


この期に及んで、まだこちらを傷付ける和弘に呆れて笑いが漏れた。


今後も女房とはセックスし続けます。


という宣言まで貰った。麻由子は


「今後も女房とやり続けますって宣言を、わざわざどうも。前に伝えたはずです、私は自分が相手にもう必要じゃないと感じたらすぐに身を引く性格だと。射精する相手がいるなら、そちらと今後もして下さい。もう二度と私に会いに来ないで」


とだけ送ると和弘のLINEをブロックした。脳の特性がそうさせるなら仕方がないが、これを言えば余計に関係がこじれる、とか、言う必要が無いとか、少しは口から出す前に考える事が出来ないのだろうか。思えば前から、ADHD傾向を思わせる言動はあった。カフェで会った時に相席の同意を求めず向かいに座った行為も、こちらに同行者が居てその人間は商品を買ったりトイレに立っているだけかも知れないのに、確認すらしていない。ドライブ中目に付けばこちらの同意も無しに入ってしまったりもそう。


その悪気の無さを可愛い、と思えていた頃ならまだ良かったが、ここまで来ると好意も冷める。


和弘は自分は未読スルーを何時間でもするが、こちらの未読スルーが三時間以上になると必ず自分を棚に上げ「仕事忙しい?」「買い物中かな?」などと催促して来る。それにも既読が付かなければブロックに気付き、夜には電話が来るはず。その推測通りに夜になり着信があったが、麻由子は三回とも無視して取らなかった。これで別れる意思は伝わったはず。


麻由子は貰った指輪を外すと、今度はその場で本人に返せないので仕方なく自分のアクセサリーケースに仕舞った。


「あんなに断ってたのに、どういう風の吹きまわし?」


服を脱がせながら聞く大輔に、麻由子は


「桜井君がしつこかったから」


と答えて目を背けた。大輔は麻由子の唇に吸い付くと無遠慮に舌を入れ掻き回し


「まゆのキスの反応もたまんないんだよ、小さく声漏らすだろ?あとキスしながら腰抱くと、感じてるみたいに背を反らすのも。そういうのがさ、男の本能を物凄く刺激してますます勃たせるの。欲しくてたまらなくさせる」


と感想を言った。大輔は麻由子をストレートに誉め、自分のどういう反応が男を滾らせているのかも教えてくれる。麻由子はキスの時の反応など、わざとしているわけでは無かった。が、大輔はそれも分かった上で


「うん、わざとじゃないよね。ついしちゃう、みたいな反応だもん」


そう言いながら立ったままの麻由子をショーツ一枚まで脱がせると


「だからこそ興奮するんだ」


と言い、トンと軽く麻由子の肩を押した。麻由子はかなり肉付きは良い方、というより中年太りした体をしている。和弘にしろ大輔にしろ、太った女が好みなのだろう、じゃなかったら抱けないくらいには体格が良い。それに対し大輔は筋肉は乗っているが全体は細身な方、あまり力があるようにも見えない体だが、その体格の良い麻由子を肩を軽く押しただけでベッドに座らせた。そして押し倒して寝かせ麻由子の腕を取って押さえると、足でも麻由子の太ももを押さえ身動きが取れなくした。


「あ…」


あっという間に麻由子は大輔に組み敷かれ、動けない。昔酔った祐志にも似たような振る舞いをされたが、祐志は身長もあるが体重もあるから女を押えるのも造作がない。けれど細身の大輔にもいとも簡単に押さえ付けられ、改めて麻由子は大輔も男性で、力ではどう足掻いても勝てないのだと思い知らされた気がした。


「まゆMだろ、ちょっとレイプっぽいの興奮しない?」


「なんでMだと思ったの?」


「そりゃ昔から従順なとこあったから。で、抱いてみて確信した。ちょっとMとか俺のどツボ」


大輔が拘束を解き麻由子を愛撫する、悔しいが、やっぱり大輔の愛撫は上手くて麻由子はたちまち潮吹きさせられた。丁寧に全身を愛撫され、誘導され麻由子も大輔に口で奉仕する。やがて我慢出来ないといった表情で「だめ、まゆ、止めて、それ以上されたら出ちゃう」と大輔は懇願した。


そして挿入するとすぐ「あー、だめだ、無理」と泣くような声を漏らす。ピルで避妊が出来ているとはいえ誰彼構わず生ではさせず、大輔には避妊具は付けて貰っていた。にも関わらず、麻由子の中に入ったら大輔は二分も持たずに射精したらしい。


「あの、俺早漏じゃないからね?前回だって結構持ってたろ?」


「逆に、前回はどうして長かったの?」


「あれは前の日動画見て抜いてたから。最近忙しかったからここ数日抜いてなかったの。その状態で麻由子の極上の✕✕✕に入れたから、瞬殺されちゃった」


「極上とは、随分な褒め言葉だね」


微笑む麻由子を大輔が抱き締めた。

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