第21話
「まゆのアカウントだよな?」
そう書かれたDMの送り主のアカウント名は“daisuke1024”。麻由子もmayu0725と下の名前と誕生日を組み合わせただけ、似たり寄ったりの知り合いが見ればすぐ分かるようなアカウント名にしているからすぐに検索されてしまった。観念した麻由子が
「わざわざ調べるなんて趣味悪いよ」
とアカウントが自分のものであると認める発言をすると、大輔は
「いや、軽い気持ちでまゆインスタやってるかなーと思って調べたら、出てきちゃって。投稿に昨日持ってたバッグと同じバッグが写ってたり、スタンプで顔は隠してるけど開けてるピアスの個数とか位置も同じだったから」
と返してきた。麻由子は鬱陶しいと思いながらも、たいした内容を載せていないインスタグラムなどすぐ閉鎖してしまえる、とも思い大輔と繋がってしまった事にすぐ諦めをつけた。
「次も会おうよ」
「二人きりでは会わないよ、もう」
「つれない事言わないで、お願い」
「だめだってば」
「インスタに、俺と寝たってストーリーズあげてもいいの?」
大輔の言葉に、麻由子は喉元を掴まれたような心持ちがした。大輔はすぐに
「冗談だよ、でも本当にお願い、一回だけ会って!まゆに惚れちゃったの」
と、脅迫紛いの文を冗談だと伝えてきた。警戒しないとエスカレートするかも知れない。一度の火遊びには向かない悪い相手を選んでしまった。そうも思ったがもう遅い、麻由子は頭を抱えながらも
「ごめんね、また皆と集まって飲むならその時は会うよ」
とだけ送る。いっその事今インスタグラムのアカウントごと消し着信拒否もしてしまおうかと思ったが、共通の友達のいずれかに引っ越し後の現住所を聞けばすぐに割れる。だから連絡手段を断っても意味があまり無い。全ては迂闊だった自分の落ち度だが、もう何を悔いても遅い。モヤモヤとした気持ちのまま家族を送り家事を済ませ、正午頃今度は和弘からLINEが入った。
「今日夜、会えない?ホテルとか行かなくていい、ただ話すだけでいいから。長い時間は取らせないよ」
ここで断れば気まずい状態が続き、きっと元に戻るきっかけを失ってしまう。麻由子は素直に
「いいよ、仕事終わるの待ってるね」
と返した。その日の夜、いつものように仕事終わりの和弘の車の助手席に乗ると、和弘が抱き着いてきた。
「本当にごめん」
麻由子は身を離すと、珍しく自分から和弘にキスした。いつもは自分からする事がほとんどなので和弘は驚いていたが、やがて舌を麻由子の口内に入れて来る。麻由子は入って来るその舌を、傷が残らない程度の強さで噛んだ。そして唇を離すと笑った。
「加減はしたけど痛かったはず、だよね」
「いや、やられても文句言えないから」
「二度と悲しませないでね」
麻由子は、今度は優しく和弘の頬を撫でた。和弘は黙って頷くと、ポケットからティッシュにくるんだ何かを取り出した。
「これ、渡されてももう要らないかもと思ったんだけど…。俺の一存で捨てるわけにもいかないからずっと持ってたんだ。でもケチが付いちゃったから、今更着けたくないよな?」
言いながら、和弘があの日麻由子が外して返したアガットの指輪を麻由子の手に乗せた。
「なあ、良かったら買い直さない?また選ばせるの手間になるけど」
提案する和弘に麻由子は笑って首を振った。
「もう一回同じようなデザインと価格の指輪買ってくれるって?一体幾ら使う気なの。そんな必要無いよ、この指輪が良い。
別れかけた事も、誕生日のお祝いしてくれた日が最高に楽しかった事も、全部含めて思い出で指輪と一緒に私が持っていたい大切なものだよ。処分せず返してくれてありがとうね」
和弘は麻由子の胸に、甘えるように顔を埋めた。
「そういう優しいとこが、本当に好きなんだ」
和弘の髪質は硬く、短髪にするとツンツンと毛先が無造作に立つ。麻由子は自分の胸に和弘が顔を埋める時、その和弘の髪の先が自分の顔や肌に当たる感触もいつも好きだった。麻由子はまるで子供にするように、愛しく思いながら和弘の髪を撫でた。そして自分はやっぱり和弘が好きなのだと、心から思う。
「仲直り出来たから、今日は帰るよ。来てくれてありがとう」
「もう帰る?あまり時間無いの?」
「いや、そんな事無いけど。今日はさすがに麻由子を求めないよ、会ってくれただけで充分」
いつも車内で話をする時は、車は駐車場から少し離れた公民館の駐車場に移動させる。都心から離れた町の夜の公民館の駐車場など、ただでさえ10時を過ぎれば誰も使うどころか通り掛かる事すら無く、まして木の影が覆う一番端の駐車スペースは暗闇になり、そこに人が居てもすぐには目視出来ない。麻由子はチラッと窓の外を確認すると、和弘の股間を触った。
「あの、真面目な話してる時は勃ってなかったからね?まゆが指輪受け取ってくれてから、安心して…ああ、やっぱりまゆが好きだって思ったら」
勃起している言い訳を並べる和弘に、麻由子は
「降りて、外出て」
と言い自分も降りた。降りてきた和弘を車を背に立たせると、麻由子は何も言わずしゃがんで和弘のズボンのジッパーを下ろすと勃起したペニスを口に含んだ。
「だめだよ、俺仕事して汗かいてる」
遠慮する和弘を無視して、言葉とは裏腹にはち切れそうな程膨張した和弘のものを喉の奥まで沈め、ゆっくりと出し、ディープスロートし、上目遣いで先端を舐めた。
「やばい、すげぇ興奮してる…すぐ出ちゃうかも」
麻由子に翻弄されながら、荒い息で和弘が言う。麻由子はそんな和弘を口では射精まで導かず、途中でフェラチオをやめると公民館の階段の縁のコンクリートに座り、履いていたスカートを捲ると下着をずらした。すでに濡れたそこを和弘に見せつけるように指で広げ「入れて」と自分から誘う。暗い場所だが、月明かりが差し更に闇に目が慣れた和弘には、濡れて光る麻由子の性器も自分を誘う麻由子の顔も、しっかりと見えた。
雲が晴れ更に差す月明かりを背に受け、興奮し自分に覆い被さる和弘がまるで狼のように麻由子の目に映る。今夜の麻由子は普段とは違う自分を見せて、興奮を煽り和弘を翻弄したかった。和弘はそんな麻由子の思惑通りに興奮し、夜の野外で麻由子の足首を持って広げあられもない体勢にさせると麻由子を犯した。
人が通れば確実に通報される、そんなリスクの中麻由子は声を押し殺し快感に耐え、和弘はメスを押さえ付け孕ませようとするオス狼のように、麻由子を犯し中に射精した。
「本当やばかった…普段受け身のまゆに翻弄されたのも、外で繋がったのもめちゃくちゃ興奮した。癖になりそう」
車内に戻った和弘が、まだ荒い息で言う。麻由子はそれを聞き、身なりを整えながら微笑んだ。
「今日は私からおねだりしたかったの、どうしても」
麻由子の言い分は可愛いが、実際はそんな可愛げのある理由から誘ったのではない。全ては計算の上だった。
麻由子と和弘は和弘の職場が遠くなったせいで、会うペースが月に二回程度しか持てない。寂しさと引き換えに毎日や毎週会えない分飽きが来るのも遅く、いつまでも新鮮な気持ちが続いている。その上今日は別れ話を撤回し仲直りした直後、更には場所をわざとホテルにせずスリルを伴う野外にし、極めつけに普段受け身の麻由子が和弘を責め、自分から足を広げて和弘を求めて見せた。
これだけ普段と違う興奮材料が揃えば、和弘は獣になるはず。そして普段の優しい自分の記憶と今夜の強烈なセックスで得た快楽の記憶が相まって、和弘にとって自分はますます無くてはならない存在として脳に刻まれて欲しい。
麻由子はそんな計算をしながら、和弘を車外に誘い自分を抱かせた。つい半年前まで男っ気など皆無、ただ老けていくばかりだった中年主婦だった麻由子は、半年の間にいつしか淫靡な誘いで人間の男を誘惑するサキュバスのような真似が出来る程、心身共に艶が増していた。そしてサキュバスはラテン語の“succuba”「不倫する者」が語源と言われている。
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