第20話
祐志とも、和弘とも違う声が自分の名前を呼び、自分に覆い被さり愛撫する。四十になるまで旦那以外の男と自分がこんな風になるなんて思いもしなかったが、一度足を踏み込んでしまえば後は簡単に越えられてしまった。
一個盗むも百個盗むも同じ
盗人は盗人。
一人殺すも百人殺すも同じ
殺人鬼は殺人鬼。
一人と寝るも百人と寝るも同じ
不貞女は不貞女。
どうせ最初の一人である和弘と寝た時点で、自分は死んだら閻魔から裁かれる身となったのだ。ならもう一人増えようが同じ事。麻由子は大輔に抱かれながらそんな事を考えていた。
そしてこの歳で分かった事がある、セックスにはやはり相性があるのだ。祐志はテクニックも無ければ大きさも粗末で話にならなかった。和弘は丁寧な愛撫が心地好いしサイズ、特に太さがある。ただ一番自分の体と合っていると感じたのは大輔だった。舌での愛撫が上手くて何度も絶頂させられたし、大輔のものは太さもある程度あるが長さがある。その長いもので奥を突かれると麻由子は中でもすぐに絶頂した。
「まゆ、凄いな」
射精後ベッドに寝転んでいた大輔が、言いながら笑う。
「え…何」
「指でした時も思ってたけど、まゆの形はかなり変わってる。奥の一部が狭くなってて、更に先にも空間があるんだ。その場所まで届く長いモノ持ってるヤツは、全体も絞まる上に先っぽを更にきつく締め付けられるからたまんない」
「知らなかった」
仰向けに寝たまま答える麻由子に、大輔が手を伸ばし腕枕をした。
「今まで抱かれた男には言われなかったの?」
「きつい、と言われた事はあったけど」
「まゆの体は、男を夢中にさせるよ」
「まさかぁ、たるんだ中年の体だよ」
「謙遜してるけど、俺は良い体だと思う。おっぱい大きいし、何よりアソコの良さはちょっと他に居ない。俺、付き合って来た人数はそんなに少なく無いけど今までに居なかった。名器だよ」
「へぇ…」
自分も知らなかった、自分の女の魅力。外的要因に誉める部分は少ないとは思っていたが、思ってもみなかった内部に男を夢中にさせる部分があったとは。それを詳しく教えてくれて誉めてくれたのは大輔なので、麻由子は大輔が有り難かった。どの部分にしろ、お褒めに預かる事は嬉しい。
「あと俺、まゆの顔も昔から好き」
「ブスだよ(笑)」
「ブスどころか美人だろ、鼻が高くて目が大きい」
「昔から、東南アジアとかに居そうな顔とは言われてる。純日本人なんだけど、あまり思われない。ファッションのせいもあるのかも知れないけど」
「俺はずっと、まゆが好みだったよ。抱いたらもっと好みになった」
くっ付いて来る大輔を、あしらうように麻由子が返す。
「それは光栄だけど、寝るのは今日だけね」
「嘘だろ!?また会ってよ」
「深みに嵌まったらどこで露見するか分からないから、家庭を壊すような事はしたくないもん」
ベッドから降りてシャワーに向かう麻由子を大輔が追う。
「バラすような事しないよ、俺だって子供は居ないけど女房は居るし。まあもう4年以上セックスレスだけど」
追いかけてバックハグをして来る大輔の言葉に、麻由子は小さく笑った。
「そう、どんなに奥さんとしてようが外で抱く女にはセックスレスって言うのが、ある種礼儀よね」
正直に女房ともやってます、と外に作った女に宣言する馬鹿がどこに居る。そう思うとますます和弘に呆れてしまう。大輔は
「本当に夫婦間は営みが無いんだ。だから彼女は居たよ?でも二年前に別れてから誰も相手が居なくて、今日まゆとしたのが二年ぶりのセックス」
そう言いながらシャワーを浴びる麻由子の体を後ろから撫で回した。
「家庭はセックスレスで彼女も居なくて、久しぶりにするのにまゆの体は刺激が強すぎたよ」
再び勃起した大輔は、麻由子の手からシャワーを取り上げフックに掛けると、バスタブの縁に手を突かせて後ろから挿入した。
「やばい、やっぱりまゆ最高。なあ付き合ってよ」
大輔は身長もそこそこあるし顔も悪くない、月給も良い会社に勤めている上子供が居ないので所帯染みておらず、身綺麗にしているから歳より若く見えた。何よりセックスの相性が良い。和弘と先に会っていなかったら交際をOKしたかも知れないが、和弘とは重ねてきた思い出の数も好意の強さも違う。麻由子はこうして抱かれていても、やっぱり和弘に好意があった。
ただ、もう誰の元にも帰らないでおこう。
旦那の元にも、和弘の元にも、大輔の元にも戻らず今後は一人でいい。身を焦がすような恋を伴う不倫に半年溺れて、その相手も旦那も両方裏切るような更なる浮気もして、もう充分遊んだ。老婆になる前に、二人の男が自分はまだ女なのだと自覚させてくれた。
誰にも触れられる事無く女でなくなっていく自分と、グラスの中の溶けかけの氷を重ねて見ていたあの日の自分に「これから先の半年間、あなたの人生は劇的に変わるよ」と教えてやりたいくらい。だから思い残す事は無い。
「LINE教えてよ」
「携帯は知ってるからいいでしょ」
着替えてホテルを出て、LINEIDを聞きたがる大輔を往なしながら足早にタクシーを拾って帰宅した。普段飲まない酒を飲んだせいで少しまだ酔いが残っているのと、ヒールで遠出した事、大輔と寝た事。様々なもののせいで疲労を感じる。早く寝てしまいたいがこれだけは外さないと寝返りを打った時に痛いはず、そう思いラインストーンの飾りが付いたスイングピアスを外していると、LINEが入った。
「明日朝まで返信無かったら、諦めるよ。今までありがとう、楽しかった。それと傷つけてしまって本当にごめん」
和弘からのメッセージ、よりを戻したい気持ちと、付き合いを再開すればまた今後も無神経な発言に傷つくかも知れないから戻りたくない、という気持ちが綯交ぜになる。
悩んだ結果、麻由子は
「やっぱり、一緒に紅葉も見に行きたい」
とだけ書き送った。
「行ってくれるの?」
「無理だった、忘れようと思っても好きな気持ちが消えなかった」
「俺はもっと無理で、苦しかった。より戻してくれてありがとう」
「些細な事で怒ったりした、私が悪いの」
「違う、俺が悪い。職場でも失言のせいでトラブルがたまに起きるから、自覚があるんだ。でも二度と悲しませないって誓うよ」
「ありがと」
一通り会話を終えると、麻由子は片方の耳にまだ下がったままのスイングピアスを外すと、化粧も落とさず服もそのままベッドに身を投げた。そして今頃になって和弘と離れていた期間の寂しさが思い出されたり、もう二度と彼と会う事は無いのかも知れない、という喪失感に自分が苛まれていた事を自覚し麻由子は泣いた。
子供のように泣きながら寝てしまい、目覚めたのは朝の4時。どんなに疲れて何もしたくなくても、朝は来て課せられた仕事は待ってはくれずに麻由子の前に立ちはだかる。麻由子はまだ寝ていたい所を無理やり体を起こし、台所へ行きミネラルウォーターを一杯飲んで浴室に向かった。化粧を落とさず寝た代償は代謝の落ちた肌にしっかり肌荒れとして残り、メイク落としで洗ってもヒリヒリと痛んだ。シャワーから出たらいつもより丁寧にクリームを顔に塗り、朝食作りに取り掛かる。今日は幸い休みなので、娘を学校に送り夫を通所施設に送ったら少しゆっくり出来る。目玉焼きとウインナー、ブロッコリーとコーンのサラダ、チーズなどをワンプレートに乗せてバターやコンフィチュールをテーブルに並べ、後は飲み物を用意しパンを焼くだけ、という所まで支度を終えた頃、携帯に通知が来た。
LINEではなくインスタグラムから、DMが来た事を知らせる通知だった。
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