6. 愛は与えれば、大きくなる
〇セシールのアパートは、べランダにも、家の中にも、花がいっぱい。
最近、王子さまは花に水をやる手が途中で止まって、空を見上げていることが多い。夜になると、星を見ている。
その夜、王子さまが深刻な顔をして、セシールの部屋にやってくる。
セシールは机に向かって、何か書いている。
「セシールちゃん、手紙?」
「メモってるの。この間、クロードが言いたいことを書いてきたでしょ。だから、わたしも。書いていると、だんだんと考えがまとまってくるものだわ」
「どんな考え?」
「一度や二度、ひどいことを言われたくらいでうじうじしないで、前向きに行こうかなって」
「前向き」
「わたしもひどいこと言ったはずだけど、クロードはそのこと、全然責めなかったなって。男らしいなって」
「えー」
「わたし達、まだ若いし、パッションはあるし、ここで終わらせるのはもったいない」
「パッション?」
「そう。情熱的に、生きようかなって」
「セシールちゃん、ぼく、話があるんだけど」
「もっと花を増やしたい?バイト代はいったら、またマルシェに行こうね。今度は何の花にする?」
「セシールちゃん、ぼく、・・・・・星に帰ろうと思うんだ」
「どうしたの?わたしがクロードと情熱的に生きてみようかななんて言うから、さみしくなっちゃった?」
「ううん。セシールちゃんもいるし、きれいでやさしい花たちがいるんだもの、さみしくなんかないよ」
「じゃ、どうして」
「ローズのことがね、」
「やっぱり心配なのね」
「うん」
「前の時は、長く離れていてもローズさんは平気だったんだし、今は蜂さんの友達だっているのだから大丈夫でしょう。王子さまは星に帰ったら、また冷たくされて、傷つくだけじゃない?」
「うん。でも、ぼくにはローズへの愛があるから、大目に見るべきだってわかったんだ」
「でも、王子さまがローズと喧嘩をしないで、おだやかに暮らしていけるとは思わないんだけど」
「ぼくは今度帰ったら、ローズにちゃんと伝えたいんだ。世界中にたくさんのバラがあっても、ぼくはローズのことが見分けられるって」
「できるの?」
「ぼく、できると思うんだ。ベランダでたくさんのきれいな花を育てて、みんな同じじやないってわかったんだ。ローズはあの百本のバラとは全然違うんだってわかったんだ。ローズは世界にたったひとりのローズなんだって」
「でも、ローズさんは、きっと冷たいよ。王子さまに親切になんか、してくれないよ」
「きっとそうだね。ローズは急に変われないし、・・・・・・でも、それがローズなんだから」
「それで、いいの?」
「いつもちゃんと自分の意見をもっているのが、ローズなんだ」
「ただ好き好き言ってくれる人より、意見をもっている人が好きなのね、王子さまは」
「うん。たまには好きって言ってほしいけど、・・・・・・」
「時間がかかるよね、そういうことは」
「少しずつ近づいて、そのうちに、セシールちゃんとクロードみたく、ちゃんとお話ができたらいいな」
「クロードとわたし、まだちゃんとお話はできていないけど、したいなとは思っている。だから、メモっているのよ」
「うん。それがはじまりだよね」
「でも、王子さまがローズから苦しめられているところを想像したくないなぁ」
「ぼく、ローズからなら、苦しめられてもいいと思うんだ」
「(小声で)マゾかよ。苦しめられてもいいなんて、どうしちゃったの?」
「ここの生活は穏やかで、とても平和で、笑い声がいっぱいだ。ずうっとここにいたい気持ちはあるけど、ローズのことを考えると、帰らなくっちゃと思うんだ」
〇王子さまが紙切れを取り出す。
「アントワーヌおじさんの書いた本を読んだんだよ。そしたら、その中から、紙切れが出てきた。これ」
王子が紙をセシールに手わたす。
「愛は、与えれば、与えるほど、大きくなる」
とセシールが読み上げる。
「ぼくはローズを愛しているんだよ。まだ愛が足りなかった」
「(独り言のように)王子さまは、そんなにローズを愛しているんだ」
セシールが何か考えてる。
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