テイムができない無能のテイマー、瀕死の少女を救ったら、何故だか獣魔になっちゃった!?

紫焔の復讐者

第1話 無能の烙印を押されたなどでは無く事実として無能である 

 テイマー。

 冒険者の職のひとつ。生き物を操る職業だ。

 この職のいいところは、なんといっても本人の戦闘力に依存しないこと。筋力、魔力が少なくともやっていける数少ない職のひとつだからだ。

 まあ、逆を言えば、ある者は別の職を選んだ方が言いわけで、そちらの方が間違いなく強くなる。何せ、テイムできるモンスターには限度があるからだ。知能の高い奴、強い奴、使役できれば最強を目指せそう……なものは残念ながら仲間にできない。

 そんなわけだから、テイマーはいわば選択肢の無い奴が渋々選ぶ職業。劣等職と蔑まれている。

 モンスターを好む物好きか、才能の無い落ちこぼれしかいない、魔の巣窟というわけだ。


 さて、じゃあ僕、アルルはどうかと言えば、無論、後者だった。


「だったんだけどなあ」


 街の中で1人ごちる。

 テイマーのはずなのに、モンスターを1匹も携えていない。

 そう僕は、テイマーなのにテイムが下手くそな無能なテイマーだったらしい。


 麺のないスパゲティ。肉のないステーキプレート。例えれば事態の深刻さが伝わるだろうか。

 比喩でも無ければ、言い回しの違いでも無い。真の意味でのただの無能。


 劣等職なのに、基本の「き」すらもこなせない。だから誰もパーティーを組んでくれない。いつも1人。小さい頃、母が読んでくれた勇者の冒険譚。憧れはほど遠く日銭を稼ぐのがやっとだった。

 

「おいおい、よく見れば《無能のアルル》じゃねーか」

「ほんと、無能に相応しい猫背に、たるんだ顔。とても同じ人間には見えないわ」

「仕方無いさ、彼は彼なりに頑張っているのだろう。最も、どう頑張るか、皆目検討もつかないけどね」


 罵詈雑言がそこかしこから聞こえてくる。

決まっていつもそうだ。でも言い返す材料はひとつもない。拳を強く握りしめ我慢する以外方法は無かった。


 自分には他の人とは違う何かがあるはず。


 しかし、人は平等じゃない。

 それが現実。本当の心理。


「ほんと目障り。ろくに役にも立たないのになんでギルドをでは入りできるのかしら」

「ま、ここのマスターは人格者で有名だからね。実際、俺も依頼の斡旋助かってるし」

「あんな無能でも、使い道はある。バカとハサミは使い用ということなのだろう」

「そうかしら?」


 別のパーティーからも罵倒という名の洗礼を受ける。だが、もうへっちゃらだった。何せ僕は今のギルドで5年も冒険者をやっている。最低ランク、Fの依頼にしかありつけないが、夢を見られる分、まだ幸せだと思うことにしている。というより思わなきゃやっていられない。


「さてといい依頼はあるかなっと」


 そそくさと奥に入っては、Fランクの依頼の掲示物のある部屋へと入る。周囲は、皮や鉄装備、冒険者のいろはも知らない新人ばかり。自分が来ているのは、迷彩服。周囲に溶け込み、モンスターとの無駄な戦闘を回避する優れもの。ただの登竜門である以上仕方のないことなのだが、装備の違いで、完全に浮いている存在になっていた。


 恥ずかしい……。そんな感情が頭の中を駆け巡る。だが恥も外聞も捨てなければ明日のおまんまにもありつけない。


 戦闘力無しの人間でもありつける依頼、薬草採取。それも森の入り口付近で取れる程度の低いほぼ雑草。通常のギルドであれば換金すらしてくれない、地味な薬草を摘むのが、今の僕の仕事だった。

 掲示板の1番すみっこ。誰の目にも届かないようなところに置かれている紙を、瞬時に手に取り、こそっと隠す。

 

 これじゃテイマーというよりシーフじゃないか。思わず涙が溢れでる。しかしこれが今の現実。受け入れる以外道は無かった。


「……お願いします」

「……受理しました」


 受付嬢との無感情な言葉が飛び交う。とりあえず受領完了。今日も働く時間だ。


「では、いってらっしゃいませ」


 やはり無感情だった。

 そんな受付嬢の様子に振り返ることもなく、僕はギルドの外へと足を進めた。

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