第3話

 次の日。

 私はいつものように、家から出て学校へ行く途中。

 朝日が住宅地に差し込む中で、私は通学路を歩いてた。


 周囲には、私と同じように学校へ向かう制服を着た子や小学生が集団でいたりする。


 でも、昨日と違って通学路でユウカと出くわさなかった。

 …聞きたいことがあるのに


 でも、なんか聞きづらいことだった。

 昨日のユウカは、どうして知らない世界の出口を知ってたんだろう?

 あの家は、何?

 …聞きづらい。


 聞いてしまうと、これまでのユウカとの関係が変わってしまいそうな、 そんな気がする。

 どうしよう。

 私がそんなことを考えていると、学校が見えてきた。


 いつものように、校門を抜けて昇降口で上履きに履き替える。

 周囲には知っている子もいる。


「おはよー。」

「おはよー。」


 私は挨拶をしながら、昇降口から教室へ向かった。


 教室に入ると、ユウカはいた。


「あっ!おはよう!アヤ!」


 ユウカはいつもと変わらない笑顔で挨拶をした。


「おはよう」


 私もそう返してから自分の席へ向かう。

 ユウカも、私についてきた。


 私がカバンを机にかけて、席に座る。

 ユウカも私の席の前を陣取って、話を続けようとする。


「アヤ、今日は暗いね。なんかあった?」

「えっとね。」


 私は、そう答えた。

 どうしよう。

 ユウカに昨日のことを聞いてみるかな?

 どうしよう。

 私とユウカの話の間が空いた。

 

「あのさ?ユウカ?」


 私は意を決して話しかけた。


「なに?」


 ユウカがそう答える。


「えっと、昨日さ?その……公園から帰るとき……」


 私はしどろもどろになりながら、言葉を探す。


「うん」


 そんな私の様子を、ユウカはじっと見ている。


「あの、家があったでしょ?」

「ああ!うん!」


 ユウカは、私の言いたいことを察してくれたようだ。


「……あの家は何だったの?」

「うーんとね……」


 少し間をおいて、それからユウカは話始めた。


「あの家はね、噂にあったでしょ?見知らぬ世界にある家ってやつ!」


 ユウカは私にそういった。

 うーん、そういう噂があったのかな?

 そうであっても、何かがおかしい。


「えっと、私からみるとあの家、他の家と一緒だったし。どうして、ユウカはあの家に入ろうと思ったの?」


 私は聞いた。


「うーんとね……」


 ユウカはまたも少し間をおいて、それから答えた。


「なんというか。家が呼んでたんだよね。」

「え?」


 思わず聞き返してしまう。

 そんな私の様子を気にすることもなくユウカは話を続ける。


「あの家を見たとき、私ね、何か違うなって思ったの。」


 ユウカがそう答えた。


「……どうして?」

「うーんと、なんとなくかな?」


 ……どういうことだろう?

 私は少し考えてみたけど、よく分からなかった。


 その時、朝の会が始まるチャイムが鳴った。

 気が付くと、先生も教室の前にいる。

 

「アヤ!またね!」


 そんな私の様子を察したのか、ユウカは私にそう声をかけた。

 そして、そのまま自分の席に戻っていったようだ。


 それからの学校も何事もなく終わった。

 放課後になった。


 あれからは普段通りだった。

 だけど、朝に話したっきりで、不思議な昨日の話をユウカとはしてない。 

 理由はなんとなくだ。


 そんな放課後。

 教室の自分の席に私はいた。


「アヤー。帰ろ?」


 私にユウカから声がかかった。


「分かった。ちょっと待って。」


 私は、カバンに教科書やノートを詰めていく。

 ユウカは、私が準備を終えるのを待っていた。

 そして、ユウカと一緒に私は教室を出た。


 そのまま二人で並んで学校を出る。

 そして、いつもの帰り道を歩いていた。

 住宅地の帰り道。

 昨日みたいな不思議なことは起きていない。

 その道をトコトコと私たちは歩いていた。


「ねぇ?アヤ。」


 そんな時だ、ユウカが話しかけてきたのは。


「なに?」


 私は答えた。


「あのね。いや……」


 ユウカは何かを言いたげだった。

 でも、それを言葉にするのを避けているようにも見えた。


「どうしたの?」


 私は聞いてみた。


「……ううん!なんでもない!」


 ユウカはそう答えて笑った。

 あやしい。

 いっそのこと、あの家について聞いてみようか?

 そんな考えが私の頭をよぎった。


「ねえ、ユウカ?」


 私は思い切って聞いてみた。


「なに?」


 ユウカはいつもの調子で答えてくれた。

 でもやっぱり聞きづらいな……。

 がんばれ、私。


「えっとね。昨日のことだけど。」

「昨日?」


 ユウカは、はてなマークを出している。


「うん、その……公園で……」


 ああ!とユウカは声を上げた。

 そして、少し間をおいてから言った。


「アヤの言いたいこと分かった!」


 ユウカがそういった。

 私は思わず、言葉を口に出すことをやめてしまった。

 そんな私の様子を気にすることもなく、ユウカは言った。


「アヤ、分かった。その今日はこれから時間ある?」

「えっ、うん」


 思わず私はそう答えた。

 そしてユウカは私に言った。


「じゃあ、私の家に来て?」


 そんな訳で、今。

 私とユウカは一緒にいる。

 いつも分かれる場所で別れずに、ユウカに私はついていった。


「アヤ!あれが私の家だよ。」


 ユウカは、指で自宅を指しながら私に言った。

 二階建ての白い一軒家だ。

 壁は白い。道に面した場所から玄関や広い窓が見える。

 キラキラとした家。


 私の家と同じような家だな。

 そう思った。

 

 ユウカは、私の手を取った。

 家まで案内してくれるみたいだ。


「こっちだよ。」


 ユウカに連れられて、私は家の玄関まで来た。

 ユウカは、玄関の扉を開けて家の中に入った。

 私もユウカに連れられて、その家に入る。


「ただいまー。」

「おかえりなさい。」


 玄関でユウカがそういうと、奥のほうから女性の声がした。

 

 玄関で、私とユウカが靴を脱いでいると、人が奥から出てきた。

 奥から出てきたのは、ユウカのお母さんだろう。

 どことなくユウカに似た雰囲気がある。

 お料理の最中だったのか、エプロンをつけていた。


「ユウカ、おかえりなさい。あら。ユウカ?このお友達は?」


 ユウカのお母さんが、私に気が付いてそう聞いた。


「あっ、えっと、初めまして……私……」


 私はそう言いかけた。


「私の親友だよ!アヤって言うの!」


 ユウカが先に答えた。


「ああ!そうなのね。はじめまして、ユウカの母です。」


 ユウカのお母さんも、そう答えた。


「アヤちゃんね?ユウカと仲良くしてあげてね。」


 ユウカの母は私にそういった。


「はい、もちろんです!」


 私は、思わず大きな声で答えてしまった。

 そんな私の様子を見て、ユウカは笑っていた。


 お料理の最中だったのかな?

 エプロンをつけたままのユウカの母は、また台所に戻っていった。


 そんな様子をみながら私はユウカに続いて玄関から上がった。

 そしてそのまま廊下を歩いて行く。


「2階の私の部屋へいくよー」


 ユウカは、そう言って階段を登ろうとしていた。

 私もユウカの後をついて行く。

 2階へ上がると、そのまま廊下を歩いていく。

 ドアの前には、ユウカの部屋というプレートがあった。


 部屋のドアを開ける。


「ここが私の部屋だよ!」


 部屋の中は明るい色でまとめられた部屋だ。

 ベッド。棚。棚の上には充電中のスマホが置いてあった。

 そして、背の低いテーブル。テーブルの周りにはいくつか座布団が置いてある。

 座布団は、どれも低反発クッションみたいだ。

 テーブルの上には、本やノートが置いてある。


「ユウカって勉強するんだね。」


 私は思わず言った。

 そんな私の言葉を聞いて、ユウカは笑った。


「アヤ、私のことなんだと思ってるの?」

「うーんとね、元気いっぱいで明るい女の子!」


 私は、そう言った。


「えへへ。」


 そんな私の言葉を聞いて、ユウカは嬉しそうだ。

 …ちょっと照れているのかもしれない。


「じゃあね。アヤ、そこに座って?」


 嬉しそうなユウカは、テーブルのあたりを指してそういった。


 「うん。」


 私は、そう答えてから低反発クッションに座った。

 ユウカも私の近くに座った。


「それでね、アヤ。」

「なに?」


 私は聞き返した。

 そんな私の様子を見て、ユウカは話を続けた。


「これから言うことは、誰にも言わないでね。」


 ユウカは、真面目な顔をしてそういった。


「分かった。」


 私はそう答えた。


「……あのね……」


 少し間をおいてからユウカは言った。


「私は、幽霊なの。」

「へ?」


 思わず間抜けな声が出た。



「どういう、ことなの?」


 私は混乱して聞いた。

 ユウカが幽霊???

 足もついているし、怖くない。

 私よりも明るい雰囲気のユウカが幽霊?

 冗談かな?

 でも、ユウカは真面目に話している感じだ。

 ???

 そんな私の様子を見ながら、ユウカは話を続けた。


「常世町では、普通のことなの。」

「普通?」


 思わず聞いた。

 やっぱり、ユウカは嘘を言っていないような雰囲気だ。

 私の混乱は収まらない。

 そんな私の様子を気にせず、ユウカは話を続ける。


「常世町にはね。いろいろな幽霊がいるの。」

「えっと……じゃあ?」


 私は、もはや理解することを諦めた。

 ユウカの話を聞くことにした。


「アヤが見たあの家も、私の家のお母さんもお父さんも、みんな幽霊なの。」


 ユウカはそういった。

 もはや私の理解が追い付かない。

 そんな私の様子を見て、ユウカはさらに話を続けた。


「あのね?この町ではね、それが普通なのよ。」

「そうなの?」


 私はそう返事するしかなかった。

 そんな私の様子をユウカは見ていたようだ。


「まだ信じられないみたいだね?アヤも見たでしょ?知らない世界にあった家とか」

「うん。確かにそうだけど……うーんとね」


 私の様子を見ていたユウカがこういった。


「分かった!ちょっと待ってて!」


 そんなユウカの様子を見て、私は言った。


「えっ?あっ、ちょっと……」


 そんな私を後目に、ユウカは棚の上で充電していたスマホに手を触れた。

 ユウカが手を触れると、スマホの画面が光った。


「アヤ!ちょっとこれ見て!」


 そういって、ユウカは私に自分のスマホを渡してきた。

 渡されたスマホの画面を見ると、ネットニュースの記事。


「交通事故?」


 そんなタイトルの見出しが目に入る。

 記事の内容は、痛ましい交通事故だ。

 家族が事故で亡くなっている。

 日付は、結構前だ。


 そんな記事を読んでいると、ユウカがさらに話を続ける。


「その記事に書かれているのは、私の家族なの。」


 ユウカに言われて、私は息をのんだ。

 そして改めて記事を読んだ。

 確かに、この記事で事故にあった家族は霧島となっていた。

 ユウカの家族。

 間違いはなさそうだ。


「これはね、私が小学生の時の話なの。私は、ずっと前に事故で死んじゃったの。」


 ユウカは悲しそうに言った。

 私はそれを黙って聞いていた。

 そんな私の様子を気にせず、ユウカはさらに話を続ける。


「私とお父さんとお母さんで車に乗っていたときに大きな事故が起きて死んだの。だから……だから……。」


 ユウカはここまで言ってから、いったん言葉を区切った。


「だからね?私も、幽霊なんだ!ってちょっと言いにくかったの。」


 ユウカは、そういった。


「そっかぁ。じゃあ、あの家も……」


 私は、過去のことを思い出しているユウカに話しかけた。


「そうなの。あの家にも幽霊がいたの。アヤには見えなかったみたいだけど。」


 ユウカは、そういって話を続けた。


「あの家にいた幽霊がね。あの世界からの出口を教えてくれたの。」

「そうだったんだ。」


 私は、ユウカに言われてようやく理解できた。


「うん、この町ではね、不思議なことがよく起こるんだ!」

 

 自信満々でユウカはそういった。

 不思議なこと?

 幽霊が生活したり、知らない世界に迷い込んでしまったりすること?


「ユウカ?知らない世界に迷い込むことはよくあること、なの?」

「うん。私もたまに迷い込むの。」

「よくあることなんだ……。」

 

 そっかぁ、常世町ではよく起こることなんだなぁと私は思った。

 そんな私の様子を見ながらユウカは言った。


「でも、もう迷わないよ!アヤと一緒なら大丈夫!」

「えっ?」


 私は、そんな声を上げた。

 そんな私の様子を気にせずにユウカは話を続ける。


「だから!これからもよろしくね?アヤ!」


 そんなユウカを見て、私は思った。


「あはは……よろしくね……」


 元気いっぱいのユウカの前に、ちょっと照れちゃう。

 私は、自然と声が小さくなってしまう。

 そんな私の様子を気にせずに、ユウカは話を続ける。


「あ!あとね!」

「……まだあるの?」


 もうこれ以上驚くことはないと思っていたんだけどなぁ……と私は思った。


「うん!実はね?この町では幽霊が結構いるの!」


 そう答えたユウカの様子は少し楽しそうだった。

 そんな時、ユウカの部屋のドアをノックする音が聞こえた。


「ユウカ、入ってもいい?」


 ドアの向こうからお母さんの声が聞こえる。


「いいよー」


 ユウカがそう答えると、ドアが開く音がした。

 開いたドアから現れたのはユウカのお母さんだ。

 手には、木製のトレイ。

 その上にはコップが二つあった。


「アヤちゃん、いらっしゃい!ゆっくりしていってね!」


 ユウカのお母さんがそういって、部屋の中に入ってきた。


「ありがとうございます。」


 そんなユウカのお母さんに、私はそう答えた。


「オレンジジュースしかなかったけど、いいかしら?」


 そういってユウカのお母さんは、テーブルにトレイを置いた。

 そしてコップを一つを私の前に置いた。


「はい!ありがとうございます。」


 私はそういって、置かれたコップを手に取った。

 ユウカもトレイから自分の分のコップを取っていた。


「アヤちゃん。これからもユウカをよろしくね。」


 私の様子を見ながら、そう言った。

 そんな様子をみて、私は思わずこう答えていた。


「はい!」


 こう答えると、お母さんが笑ったような気がした。

 そして、ユウカのお母さんは部屋を出て行った。


 ユウカのお母さんも幽霊なのか。

 とてもそうは見えない。


 私とユウカは部屋のテーブルに座ってコップを片手にいろいろなことを話した。

 気がつくと、帰る時間だった。


「アヤ!また明日!」


 玄関で、そういって手を振るユウカ。

 そんなユウカに私も手を振って答えた。


「うん!またね!」


 そんな私を見て、ユウカは笑顔になった。


「じゃあね!」


 そんな私の声とともに、玄関のドアが閉まったのだった。

 ユウカの家から出た私は、自宅へと歩いて行った。


 その日。

 私は家に帰って、夕食を食べた後。

 リビングでゴロゴロしていた。


「ねぇ、お母さん?」

「なに?アヤ。」


 キッチンで食器を洗っているお母さんが聞き返してくる。

 そんなお母さんに私は聞いてみた。


「この町には幽霊がいるのって本当なの?」

「そんなわけないでしょ?アヤ。」


 即答だった。

 私に対して、お母さんは笑って言ったのだった。


 私は、お母さんにそう言われてガックリとした。

 お母さんは不思議な世界も幽霊も……、何も信じていない。

 そんな私の様子を気にも留めず、お母さんはキッチンで食器を洗っている。


「幽霊なんているわけないでしょ?もうアヤも大きくなったんだから、しっかりしなさい。」

「……うん。」


 そんな私を後目に、お母さんは話を続ける。


「それよりも!アヤ!いい加減にお風呂に入っちゃいなさい!」


 私は、しぶしぶお風呂場に向かった。




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