第2話

 朝日が窓から差し込んできて、私の目を覚ました。

 自分の部屋だ。

 天井を見上げながら、確認をした。

 まだ、この部屋が自分の部屋になって1か月も経ってない。


 ベッドに寝たまま、私は手元をゴソゴソと探る。

 スマホを手に取った。

 見ると、スマホの目覚ましアラームはまだ鳴ってない。


「よし。」


 私は、ベッドから起きた。


 私の部屋に、制服がハンガーにかかっているのが見える。

 白と黒のセーラー服。

 まだ慣れない気がする。


 私は部屋の窓をみた。

 窓を開けると、さわやかな風が入ってきた。

 空は快晴。今日も暑くなりそうだ。


 私は、ハンガーを手に取った。

 制服に着替える。

 着替え終わった私は、机の上にある通学カバンを見た。

 ランドセルじゃなくて、カバン。

 中学生になって変わったことの一つだ。


 自分の部屋にある大きな鏡を見た。

 本当に中学生になったんだ、私。

 鏡の中の自分を見ると、ちょっと恥ずかしい。


 だけど、ずっとそうもしてられない。

 私は部屋を出た。

 階段を降りていくと、リビングからいい匂いがしてきた。


「おはよう、アヤ。朝ごはんできてるわよ」


 私がリビングへ入ると、お母さんの声が聞こえた。

 お父さんは、いない。

 いつものように先に出かけたみたい。


「おはよう」


 私があいさつし返すと、お母さんが笑顔で迎えてくれた。

 テーブルの上には、トーストと目玉焼き、サラダが置いてある。

 昨日、言っていたサラダが、さっそく出るようになっていた。


「いただきます」


 私は席に着いて、朝食を食べ始めた。

 とりあえず、サラダにドレッシングをかける。

 そして口に入れた。

 …おいしくはない。


 だけど、食べた。


 朝食を終えて、洗面台で支度を整える。

 髪を整えていると、制服を着た私は、どこからどうみても中学生だ。

 だけど、まだどこか実感がないところもある。


 …こんな調子で、私も3年後に高校生になるのかな。

 ぼーっとしながら、私はそんなことを考えていた。


「アヤー。そろそろ出かけたほうがいいんじゃなーい?」


 お母さんの声が、玄関のほうから聞こえた。


「はーい。」


 私は大声でそう答えると、さっさと支度を終えて玄関へ行った。

 

「いってきます!」

「いってらっしゃい。気をつけてね」


 私は、お母さんに返事して、家を出た。

 

 朝の光が眩しい。

 住宅地の道を歩いていると、ちょっと先にユウカの姿が見えた。


「ユウカー!」


 私は大きな声で呼びかけた。ユウカが振り返る。


「あ、アヤ!おはよう!」


 ユウカが手を振ってくれた。

 私は小走りで近づいていく。


「おはよう。一緒に行こう」

「うん!」


 ユウカと並んで歩き始める。

 朝の澄んだ空気を吸いながら、ゆっくりと学校への道を進む。

 道端の花々が可愛らしく咲いている。


 新しい一日の始まりだ。

 何が起こるかな。

 そんなワクワクした気持ちを胸に、私はユウカと話しながら学校へ向かった。


 学校に着くと、校門の前には既にたくさんの生徒たちが集まっていた。

 みんな楽しそうにおしゃべりをしている。


「おはよう!」


 同級生たちの子と挨拶を交わしながら、私たちは校舎に入った。

 靴箱で上履きに履き替え、1階の教室へいく。


「おはようございます」


 教室に入ると、先生が黒板に何か書いていた。


「おはよう」


 先生も笑顔で返してくれる。

 私は席に着き、カバンから教科書を出す。

 ユウカも、自分の席で教科書を出していた。


 しばらくして、チャイムが鳴った。


「はい、みなさん。席について」


 先生の声が響く。

 朝の会が始まり、授業が始まる。

 1限目、2限目、3限目、4限目と授業が進んでいく。

 あっという間に昼食だ。


 中学生になって驚いたこと。


 お昼が、給食じゃなくて…

 素敵なカフェテリアで食べられるのだ!

 みんなは、学食っていっていたけど。


 食堂は、校舎の1階にある。

 広い空間で、壁一面のガラスからは学校の中庭が見える。

 外からは太陽の光が心地よく室内に差し込む。

 どこかおしゃれなカフェのような雰囲気がある広い場所。


 カフェのような食堂。

 そこで食べるものは、自分たちで定食や麺などを選択して食べられる。

 買う手順は、食券を買ってから、カウンターに列に並んで…

 自分の順番になったら、食券と料理を交換する。

 お店と同じだ。


 私とユウカは、食券販売機の前にいた。

 食券を買うためだ。

 食券機の前は列ができていた。


 朝とか、休み時間に買えばよかったんだけど、よく忘れちゃう。

 私の後ろに並んでいるユウカと私はおしゃべりをしながら、列に並んだ。


 次は私が食券を買う番だ。


「今日は、どれにする?」


 ユウカはそう聞いていた。


「えー、どれにしよう」


 私も、食券機の横のウインドウに置かれた、サンプル料理を目を通す。


「うーん、じゃあ私はこの日替わりランチにしよー!」


 私が即決すると、ユウカも同じのに決めたようだ。

 私たちは、食券を持って日替わり定食を取りにカウンターへ続く、列に並んだ。


「日替わり定食は、この列みたい。」


 列の横にあったトレイを取って、ユウカと並んだ。

 しばらくして、食券の代わりに日替わり定食がトレイに置かれた。

 ハンバーグ。みそ汁。ごはん。そして、サラダ。

 

「いただきまーす!」


 私とユウカは手を合わせて言った。

 それから、昼食を食べ始めた。


 ユウカは、サラダにドレッシングをかけていた。


「アヤも使う?」

「使う!」


 私は渡されたドレッシングを使って、サラダを食べやすくした。

 そのあと、私は、みそ汁をすする。


 ユウカはハンバーグにナイフを入れて、おいしそうに食べている。

 私も、ハンバーグをフォークで切り分けた。

 一口食べてみる。

 ……うん!おいしい!! ジューシーな肉汁とソースの味が口に広がる。


「アヤって、本当においしそうに食べるよね」

「……そう?」


 私はそう答えた。


「いや、アヤって本当においしそうに食べるから、こっちまでうれしくなっちゃう!」

「そうかな?」


 あんまりそんな自覚はなかったけれど……

 でも確かに、友達と一緒に食べているときは楽しいし、ご飯がおいしい気がする。


「じゃあ、ユウカもおいしそうに食べなきゃ。」


 私はそう言ってから、またハンバーグをほおばってみた。

 ……うん!おいしい!!


「そうだね、アヤ。私もおいしく食べる!」


 ユウカは笑顔でそう言った。

 それから、私たちは黙々と食事をし始めた。


「そういえば、アヤ?」


 ハンバーグも残り半分という時だ。ユウカが聞いてきた。


「ん?何?」

「この町の不思議な話って知ってる?」


 ユウカは食べるのを中断して、じっとこっちを見ていた。


「えっ?どういうこと?」

「この常世町の話。」


 私はそう聞いて、箸を置いた。


「うーん」


 少し考えてから、答える。


「聞いたことないなぁ……」

「そっかぁ、アヤはまだ引っ越してきたばかりだもんね。」


 ユウカはがっかりしたようだった。


「でもさ、その不思議な話ってどんなの?」


 私は聞いてみた。


「それはね……あっ!もう時間ないよ!」


 時計を見ると、昼休みの時間はあと5分くらいだった。

 私たちは急いで残りの昼食を食べ始めたのだった。


 それから私たちは、時間内に日替わりランチを完食したのだった。

 2人分のトレイを返却口へ持っていき、私とユウカは教室へ戻った。


 教室に戻ると、すぐに予鈴のチャイムが鳴った。


「じゃあね、ユウカ。」

「アヤ、またね。」


 私たちは、自分の席についた。


 そのまま、先生も教室に入ってきた。

 しばらくすると、チャイムもなって授業が始まった。


 私は眠気と闘いながら、授業を受けていた。

 そうしていると、午後の授業も進んでいた。



 そして、放課後になった。


「アヤ、今日はどうする?」


 ユウカが聞いてきた。


「うーん、今日はもう帰ろうか。」


 私はそう答える。


「そう、じゃあ一緒に帰ろ。」

「うん!」


 私はそう返事をする。

 そして、教室を出ることにしたのだった。

 帰り道。

 ユウカとおしゃべりをしながら帰っていた。



 私とユウカは、いつもの帰り道を歩いていた。

 夕暮れ時の柔らかな光が、住宅地の家々を優しく照らしている。

 周囲には私たち以外にも、家へ戻ろうとしている生徒がいる。


「今日も一日、疲れたー」


 ユウカは、そんなことを言った。


「そうだね。」


 私もそう答える。

 住宅地の家々は新しい家ばかりだ。

 道も新しく舗装されていて、幅も広い。

 だから、私とユウカは並んで歩くことができた。


「そうだ!アヤ、ちょっと寄り道していこう!」


 急に思いついたようにユウカが言った。

 私は少し考えてから答える。


「……いいよ」

「やったー!」


 ユウカは嬉しそうに言った。

 私たちは、途中帰る道から外れて歩き出した。

 しばらく歩くと、その先に小さな公園が見えてきた。

 もう子供たちが帰った後なのか、遊んでいる子供はいないようだ。

 夕暮れに照らされている無人の公園。

 どこか寂しそうに見えた。



「あの公園なんだけど、いいかな?」


 ユウカが聞く。私は頷いた。

 そのままユウカに連れられて、その小さな公園へと歩く。

 そんな小さな公園の中に入ると、噴水とベンチが見えた。


 ユウカは、公園にあるブランコに座った。

 私もユウカの隣のブランコに座ることにした。


「この公園はね、私が小さいころからあるの。」


 ユウカが話し始めた。私は黙って聞くことにした。


「私、この公園でよく遊んだんだ。このブランコとか、シーソーとか。」


 ユウカは懐かしそうに言った。


「そうなんだ」


 私も答える。


「うん。それと、よく砂場で遊んだりもしてたよ。ほら、砂場あるでしょ?」


 ユウカは、ブランコから立ち上がった。

 確かに遊具の奥の方に砂場があった。


 私は初めての公園なのに、どこか懐かしさを感じた。


「この公園にも不思議な話があるんだよ!」


 突然、ユウカがそんなことを私へ言った。


「えっ?どんな話?」


 私が聞くと、少し間をおいてユウカが答えた。


「…この公園で遊んでるとね、知らない世界に迷い込むんだって。」

「知らない世界?」


 私は聞き返した。


「…うん」


 ユウカは頷いて答える。

 そして、ブランコから飛び降りた。

 ユウカは、自分の足で立った。


「大丈夫。この噂が流れてるってことは、迷い込んだ人が戻ってこれた証拠だから!」


 ブランコに揺られていた私を見て、ユウカはそう言った。


「そうだね!」


 私はそう答えた。


「じゃあ、帰ろ!」


 ユウカが手を差し出す。

 私はブランコから立ち上がり、ユウカの手を取る。


「うん、帰ろうか。」


 私はそう言って、歩き出した。

 2人並んで歩く。

 夕暮れの住宅街を歩きながら、私とユウカはおしゃべりをしていた。


「そういえばアヤって部活とか入る?」


 そんな話題がユウカから出た。私は少し考えて答えることにした。


「……うーん、まだ決めてないかな。」

「じゃあ、入るとしたら何がいい?」


 ユウカもまだ決まってないみたいだ。


「うーん、運動系は苦手だし……文化部がいいかなぁ」


 私はそう答えた。


「そうだねー……」


 ユウカも考えているようだ。

 そんなことを話していると、何かおかしなことに気が付いた。


「いつもの分かれる場所につかないね。」


 そうなのだ、歩いても歩いても…

 ぜんぜん、いつもの場所が見えない。


 道の両脇にある住宅地の家は新しい。

 道の幅も広い。

 いつもの道のように見える。


 だけど初めて来た道だった。


 それは、まるで夢の中を歩いている感覚だ。

 どこかで見たような、初めての道が無限に続いている。


 …ユウカと私が二人とも道を間違えている?


 私にとって、あの小さな公園は初めての場所。

 ユウカが道を間違えると、私も道を間違える。


 …いいや。そんなことはない、はず。

 ユウカは小さいころから、この住宅地にいるらしい。

 迷うはずはない。


 それに、あの公園への道はいつもの道から、たいして外れてない。

 私だって迷うはずない。


「ユウカ、やっぱりおかしいよね」


 私はユウカにそういった。

 何か話してないと、嫌な雰囲気だ。


「うーん。おかしいなー。」


 ユウカも迷っているようにそういった。

 そして、周辺をキョロキョロと見まわしている。


「私、このあたりの道は全部知ってるはずなんだけど。」


 ユウカはそういって、首をかしげる。


「これは、知らない世界に迷い込んだってことかな?」


 ユウカがふざけたように言う。


「いやいや……」


 私は、そういうことしかできなかった。


「まぁ、とりあえず歩いてみようよ!きっと戻れるよ!」


 楽観的なユウカに、私はつい笑ってしまう。

 2人並んで歩きだした。


 しばらく、住宅地を歩いていた。

 新しく建ったばかりの家々が立ち並ぶ、綺麗な街並み。

 今ではそれが心細く見えた。


「ねぇ、ユウカ。」

「ん?なに?」

「さっき、公園でいっていた噂をもっと詳しく教えて?」


 私は、見慣れない住宅地を並んで歩きながら、ユウカに聞いてみる。


「うーん。私も知っているのは、あの公園から知らない世界に迷い込むってだけなんだよね。」


 ユウカは歩きながら、そんな心細いことをいった。

 と、その時私の隣にいたユウカの足が止まった。


「あっ!」


 ユウカが叫んだ。


「どうしたの?」

「その家に入ってみよ?」


 ユウカは、私の手を引いて歩きだした。


「えっ?ええと?」


 私は、ユウカに引っ張られるがままに歩き出した。


 とある家だ。

 周りの家々と変わらない。

 二階建ての一軒家。

 

 白い壁で、広いガラス窓がある。

 窓にはカーテンがしてあった。

 表札はない。


 玄関には、門がなくてそのまま道から家の出入り口に入れる家だ。


 私は連れられるがままに、ユウカと二人。

 その家の玄関にいた。

 ユウカは、家のチャイムを押そうとしている。


「ちょ、ちょっと、待って。」


 私はユウカを止めた。


「なに?アヤ?」


 ユウカは、いつもの調子で私に話しかけてきた。


「あの、この家で何をするの?」

「えっと、この家の人がいるかな、って?そう思ったの。」


 ユウカはそういった。

 でも、私にはユウカの話すことが、よくわからない。


「どういうこと?この家は知り合いの家?」

「うーん。知らない人の家!」


 ユウカはにっこりと笑いながら、そういった。

 ……訳が分からない。


「知らない人の家に尋ねるの?」


 私は、ユウカに聞いた。


「だって、この家の人が私たちを呼んでるんだもの。」

「????」


 私は、なんていえばいいのかわからなかった。

 だけど、ユウカを信じるしかない。

 ユウカは、家のチャイムを押した。


「ごめんくださーい。」


 ユウカは、いつも私に話しかけるような調子でチャイム越しに呼びかけた。


「……」


 返事はなかった。


「ごめんくださーい!」


 もう一度、チャイムを押してユウカが呼ぶ。

 やっぱり、返事はなかった。


「……いないね?」


 私がそう言ったとき。

 ガチャリ。

 玄関の扉が開いた。


「あっ、こんにち……えっ?」


 私が挨拶をしようとしたとき、気が付いた。

 扉が開いた先には、誰もいなかった。

 玄関の扉が勝手に開いたのだ。

 自動?

 

 …いや、オートロックには見えない。

 ごく普通の扉。


「あっ、じゃあ。お邪魔しました!」


 隣でユウカがそれだけ言って、扉を閉めた。

 それから、ユウカは私の手を引いた。


 ユウカに引っ張られながら、私はユウカに聞いた。


「ねぇ?今のって何?」

「さっきの人?」


 ユウカはそういった。


 ???人…?

 ユウカは、何を言ってるんだろう?


「ユウカ?玄関には誰もいなかったよね?」

「えっと?うーん。そっかぁ。」


 ユウカは、よく分からないことを言った。


「何か見えたの?」


 私は、ユウカにそういった。


「ん?…何も。だけど、出口が分かったよ!」


 ユウカは、強引に話を変えようとしている、そう感じる。


「ユウカ、出口って?」

「この知らない世界からの出口。」


 ユウカは、そこまで言ってから、走るのをやめた。

 道の真ん中で、止まる。


「アヤ、今まで一緒に歩いてたけど。」


 ユウカは私を向いて話を始めた。


「どこか、おかしいって思わなかった?」


 ユウカは、いつもとは違う表情だった。

 真剣な顔で私を見ている。


「今、私たちの歩いている住宅地のすべてがおかしい、かな?」


 私は答えた。



「…えっとね。出口はね、入り口と同じところにあるの。」


 ユウカは、そう言った。

 そして、私の後ろを指で指した。


 私は、ユウカが指した先を振り返って見た。

 そこには、あの小さな公園が見えた。


 でも、さっきまではなかったような?

 見落とした?

 いや、そんなはずはない。


「えっ?あの公園?」


 私は聞き返した。

 今歩いている道は、おかしいけれど……

 いきなり公園が出てくるのも、おかしいような?


「そうだよ!だから行こ!」


 ユウカは、そういって私を引っ張る。

 私とユウカは再び歩き出した。

 2人並んで歩く住宅街を歩きながら、私は考えていた。


 うーん。

 この状況をどう説明したらいいんだろう?

 何が起きているのか、一度、ユウカに聞いてみてもいいのかな……。

 いや、やめておこうかな。

 でも、たぶん、聞いてもはぐらかされて終わりそう。

 

 そんなことを考えていたときだ。


「アヤ!」


 ユウカがいきなり声をあげた。

 驚いて私は立ち止まってしまう。

 でもすぐに気が付いた。


 もう、公園の入り口についていたからだ。


「アヤ、さっきみたいにブランコに乗ろうよ。」


 ユウカが急に言い出した。


「えっ、今?」


 私は少し驚いた。

 でも、ユウカは笑ってる。

 いつもの明るい笑顔だ。

 そんなユウカにつられて、私も思わず笑ってしまった。


 きっと、何か考えがあるんだろう。

 私はそう思った。


 私たちはブランコに乗った。

 2人並んで座って、ゆらゆらと揺れる。

 夕焼け空が、私たちを照らしている。


「アヤ、もう少しだよ。」


 ユウカは、遠くを見るような顔でそういった。


「なにが?」


 どこかいつも違う様子のユウカに、私は聞いた。

 ユウカは何も答えなかった。

 ユウカはブランコに揺られながら、公園を見ていた。


 そのあともしばらく、私とユウカはブランコに揺られていた。

 その間、私はなんていえばいいのか分からない。

 ユウカも無言だった。

 

 そして、ユウカはブランコから飛び降りた。


「さて!公園から出よう!」


 いつものユウカだ。


「うん。」

 

 私もそう答えて、ブランコから降りた。

 公園を出た。

 ユウカは、私の隣を歩いてた。


「ああ、この道!」


 私は、感動するあまりそういった。

 私たちのよく知る住宅地。そして道だ。


「戻ってこれたでしょ?」


 ユウカは自慢げにそういった。

 だけど、ユウカがどうやってそれを知ったのか。

 あの家はなんだったのか。


 何て話しかければいいんだろう、そう思っていると

 二人が別れる場所に到着した。


「じゃあね、アヤ。」

「さようなら、ユウカ。」


 私たちはいつものように、そこで別れる。


「アヤ。詳しいことはまた、いつか。」


 ユウカは、別れる直前にそう小声でいった。

 私にはそのユウカの言葉が聞こえていた。



 家に帰った後。

 いつものようにお母さんとお父さんと過ごして、私は自分の部屋に戻っていた。


 私は、自分の部屋にあるベッドに腰を掛けていた。

 そして、今日あった不思議なことを考えていた。

 常世町の不思議な噂。

 ユウカの不思議。

 すべては謎だ。


 私は、スマートフォンを手にしていた。

 ユウカに聞いてみようか?


(…明日、聞いてみよう。)


 私は、スマートフォンを枕元に置きなおした。

 目覚ましアラームをセットして、寝ることにした。


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