指先
折原 一
指先
とある会議室。私は上司から、暗殺対象について話を聞いていた。
「いいか、ターゲットはこの男。ジョージ大統領だ」
「はい」
一通り作戦を聞いた後、私は気になっていた質問を投げかける。
「今回の警備はとても厳重です。これでは凶器を持っていくことはできないのではないでしょうか?」
「いい質問だ。そこで我々が開発した新兵器を使うんだ」
上司はアタッシュケースを取り出し、開けて中身を見せる。
「これは……」
「義手型拳銃、通称『指先銃』だ」
アタッシュケースの中には、右腕が入っていた。
「これの使い方は簡単だ。手を銃の形にする。そして照準を合わせ、親指を曲げる。するとその動きに反応して、人差し指の先端が発射される。これなら怪しまれることもないだろう」
上司は私の目を見て、真剣な面持ちで話した。
「この作戦は、右手を失った君だけができる仕事だ。結果次第では、この兵器の正式採用が決まるだろう」
「つまり、二つの意味で責任重大なんですね」
「そうだ」
裏の世界で兵器を売る、よくある話だ。それも大統領を殺した銃となれば、拍がつくのだろう。
「この作戦を君に一任する」
「了解!」
そして当日。
大統領は舞台で演説をしている。話は徐々に熱気を帯び、最高潮を迎えた瞬間、観客全員が手を上げて騒ぎ出した。
「今だ」
それに乗じて、指先を向ける。満足そうに手を振っている大統領の頭を狙い、親指を曲げた。
瞬間、サイレンサー付きの銃は歓声に紛れて発射され、見事大統領の頭に命中した。
血を吹き出し倒れる大統領。響き渡る悲鳴。ざわめく観客。それに紛れて、私はその場を逃げ切った。
作戦は完璧に成功した。武器の有用性も認められ、裏の世界では高値で取引され、様々な国がこぞって使いだした。
結果を出した私は昇進し、部下を従えて暗殺をするようになった。
しかし、仕事の一つで失敗してしまい、部下と一緒に逃げることになる。
人のいない路地裏を早足で歩きながら、部下は私を睨む。
「……あなた、裏切ってないでしょうね」
「やめろ、こんなときに疑心暗鬼になるな」
「でも俺の作戦は完璧だった! 裏切者でもいないと説明がつかない!」
私は部下を指さす。
「お前が裏切者の可能性もあるだろう」
その瞬間、私は撃たれた。思わず身体が後ろに倒れる。
「……な、なんで」
「やっぱり裏切者だったんだ! 俺に武器を向けるなんて!」
その瞬間、私は理解した。自分がやってきたことを。因果応報というべきか。
部下の欠けた指先を見ながら、私はふと考える。
人を指さしてはいけない。親に言われたことはちゃんと守るべきだったなと、そんなことを考えながら、私の意識は消えていった。
指先 折原 一 @tnkkn
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