Stage04~実技試験は春風と桜 !!~

 実技試験が着々と進行をしている。学園長の伊集院ユキヒトは一人、一人の試験を厳重に審査をしていた。


 今年は才能ある子が沢山いる。と試験中だが、彼は沢山の才能を観て、楽しんでいた。


 そして、今日一番の驚きは、偶然通り掛かった。作曲の才能にあふれる青年「早乙女ハルキ」が学園の試験に参加していることだった。


「彼もうすぐじゃないかな」


「学園長、試験は厳重に審査をお願いします」


「アキ〜僕はそんなことしなよ ?」


 ユキヒトは早乙女ハルキの試験を楽しみにしていた。もちろん自分が見つけた才能が、こうして、再開できた喜びもあった。


 しかし、そこで水を差したのは、学園時代の仲間、朝日奈あさひなアキトだった。彼は昨年までは、ユキヒトのマネージャだったが、今年からは専属の秘書になっている。そのせいか、アキトの口調は少し、硬い印象だ。


「おっ出番だね」


 センターは西園寺カゲロウ。中学生ながらも、芸能界では、知らない人はいないマルチタレント。


 幼い頃から数々のコンクールに受賞している。音楽名家、巴イブキ。


 曲が始まった。課題曲は試験前から伝達済みだ。全員ダンスや歌詞把握している。この日のために練習は当然していだろう。練習をしたからこそ、差が出る。


「西園寺カゲロウと巴イブキは流石だね」


「あぁ、二人ともドリライが初めてとは思えない。自分の魅せ方がわかっている。けど、早乙女ハルキは…」


「うん、一番下手だ」


 ハルキは作曲の才能があるが、他の分野はまだまだ。歌は緊張で声が震えている。ダンスの足取りも重い。普通なら、失敗だらけで、自信を失うだろう。


「下手だけど、とても楽しそうだね」


 そう、ハルキはステージ上で楽しんでいる様に見えた。音楽を身体で表現している。


「僕の経験上手い、下手関係なく観客のために全力な姿は応援したくなるんだよ」


「しかし、これだと転びそうだ」


 アキトの言う通り、他の二人と比べ、ハルキは圧倒的実力不足。二人の歌とダンスを合わせるのに精一杯だ。


「まっ、これが試験の課題の一つでもあるからね」


 今回のチームドリライの審査項目は、チームの一体感、ドリライパフォーマンス、失敗のカバーだ。


「さて、そろそろかな」


 試験官達はドリライバンドからGENSOUが抽出される。西園寺は宝石、巴は音符、早乙女は桜。各々のGENSOUがしっかりと反映されている。


 ドリライの目的は観客の夢を叶えること。GENSOUをはっきりと会場に反映するのは、一番の基本だ。


 GENSOUがないことは、観客の夢を叶えることができない。


「このチームはどんな、ドリライパフォーマンスをするんだろうね」


「他のチームは派手なドリライパフォーマンスが多かった。けど、失敗も多かったからね」


「そう、試験の本質は時間だ。それを理解をしてない受験者が、パフォーマーになるのは、不可能に近い」


 最初から完璧なドリライパフォーマンスは求めない。まずは、観客の夢が霞がかかっても、夢を叶えさせることが第一だ。


「… !」


「桜と春風これは…」


「懐かしいね、このドリライパフォーマンス」


 音楽のサビの瞬間、三人はGENSOUを掴み取ると、周りを中心に桜が舞う。桜とステージ中に暖かな風が吹く。それはまるで、春を彷彿とする。


「こんなことがあるんだね」


「僕も正直驚いているよ」


 ユキヒトは思わず笑みを溢した。アキトもハルキ達のドリライパフォーマンスを見て、目を見開き驚いた様子だ。今目の前に広がっている、桜と春風はユキヒトの学園時代の記憶を掘り起こす。


 自分たちが学園時代の時も、春をテーマにしたドリライをした。あの時はダンスも歌も未熟だった。しかし。このドリライが、ユキヒトの一番の思い出だった。


「チームとしては未熟だけど、いいね」


ユキヒトは懐かしさに浸りがながら、全員の特徴をこの短時間で見極めていた。


 西園寺カゲロウは、得意のダンスで軽やかに、春風の中で踊る。足を上げるたびに桜が舞う。その姿は踊り子だ。


 巴イブキは周りの桜の量を少なくしている。派手さがない分、彼女の歌声に注目が浴びる。


「早乙女ハルキ彼は二人のサポートか」


「あぁ、普通自分を魅せることが、多いけど彼は違うようだ」


 ユキヒトは数々のパフォーマーを見てきた。その中で自分の見せ場を無くしてまで、ドリライパフォーマンスをするのは多くない。


 だが、この行動は自分の見せ場が、無くなることを指す。しかし、ハルキはそれだけでは、終わらなかった。


「アキ見てよ、観客にも春が来たよ」


「なるほどね」


 知らない間に会場中は、綺麗な桜舞っていた。試験官達は子供の様に桜の花弁を掴んでは、離す。ただ観るだけでは、終わらず、実際に手に触れて体験することで、ドリライを更に楽しませる。


 これが、早乙女ハルキの武器だろう。


「パフォーマンスで終わらず、観客を楽しませるドリライね…」


「チームドリライは個人の考えが多くある。だから、楽しんだよ」


 ひらひらと、舞う桜を掴んで、ユキヒトはドリライを見続ける。ランダムのチームでも、この一体感なら、最後までドリライが可能だろう。


「「あっ」」


 いよいよ、ラストスパートに差しかっかた頃、盛大に早乙女ハルキが、大きくバランスを崩す。このままだと転倒する。


「…!!ぶねぇ」


 ハルキは小さな声で呟いた。残念ながら、試験官たちは、彼の呟くは聞こえてしまったが、転倒は防げた。


「危なかったかったね、今のは」


「ヒヤヒヤしたよ、それで失敗を防いだ。上出来だよ」


 転倒前、ハルキは咄嗟にGENSOUを掴み取ると、周りの柔らかい風が、身体を押し上げる風に変化し、転倒が防げた。その後、曲も間奏に入って、最後の振り付けもしっかりと決めた。


「うん、これは皆将来が楽しみだ」


「荒削りもあるが、これは試験だ。才能は育てれば良い」


 緊張感のあるドリライだったが、ユキヒトはハルキ達を見て満足していた。他の試験官たちも楽しそうに試験の様子を話していた。


----------------------------------


 長い入学試験の審査を終えた。ユキヒトは大きく伸びをした時だった。扉からノック音が聞こえた。来客の予定はない。ユキヒトは不思議に思う中ノックの主に返事をした。


「どうぞ〜」


「失礼します」


「おや」


 部屋に入室したのほ、ユキヒトに似た銀色の髪と琥珀色の瞳、違うとすれば性別。実の妹、伊集院コユキだった。


「学園長、早乙女ハルキを合格にしたのですか」


「うん、したよそれに不満なの ?」


 コユキは表情を曇らせる。どうやらハルキの合否に不満があるようだ。実技試験は在校生なら、自由にドリライを見ることが可能だ。


 恐らく、コユキもハルキ達のドリライを見て、わざわざ、学園長であるユキヒトに直接、合格の理由を聞きに来たのだ。


「えぇ不満です。実力も西園寺カゲロウ、巴イブキより差がありすぎます。合格の理由はあの人に関係があるからですか ?」


 コユキの淡々と発言する言葉にユキヒトは、眉間にしわを寄せた。コユキの言う通り、パフォーマーの演出は人によって好みはある。


 しかし、合否にそれは全く無関係。ましてや私情を挟むことはもっての外だ。実の妹ながらも、怒りが湧き出た。


「発言には気をつけろ伊集院コユキ、僕はもう現役じゃないから、とやかく言う権利はない」


 ユキヒトは引退した身。今後のドリライを導くのは、若い世代だ。しかし、思い出を汚すのは誰であろうと許さない。ユキヒトの冷たい視線がコユキに向かれる


「僕は学園長だ若い世代を導く責任がある。文句があるなら、この学園を出ても構わない」


「何故 !そこまで !」


 コユキは怒りに任せて、机上を叩き音が響く。時計の針が動き、ユキヒトは冷静に答えを出した。


「お前は分かっていない。上は見れても、下を見ない人間にお前は一生僕を超えられない」


 ユキヒト似てコユキには、才能がある。現に彼女は学園最強のチームのリーダーをしている。しかし、上しか見ていない人間はいつか、足元を掬われる。


「お前は今年で三年生だ。答えを見つけなさい」


 コユキは顔をしかめて下を向いた。今は納得しなくても良い。しかし、彼女はもう三年生だ。遅くても、卒業までには答えが見つかることを祈り、話は終わった。


「…失礼しました」


 俯くコユキを見届けた後、ユキヒトは大きくため息をついた。決して、妹が嫌いじゃない。学園時代の時は直接応援に来てくれていた。それなに、ここまで仲が悪くなったのは、過去影響だ。


「ねぇ、君はどうやって人付き合いをしていたの ?教えてよハル」


一つの写真立てを持ち上げる。それは、学園時代のチームの集合写真。


 ユキヒトの一番の宝物だ。学園時代は皆輝いていた。しかし、大事にした物程、壊れた時の悲しさは尋常ではない。


 過去には戻れない。後悔は山のようにある。しかし、ユキヒトが出来ることは、若い世代を導くことだった。


----------------------------------


【伊集院コユキ】

伊集院ユキヒトの実の妹。

早乙女ハルキが気に食わない様子。

シーズン学園最強を誇るチーム【グリモワール】チームリーダー。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る