Stage03〜一番のお荷物は俺〜
進路を変えて、早数か月。肌寒い秋から一気にコートが必須になる季節が来た。特訓の甲斐があって、歌やダンスは良くなった。そう信じたい。
けど、今日の試験に合格しないと意味がない。この日のために練習したんだ。合格する。絶対合格する !そう意気込んで、シーズン学園の門を潜り抜けた。
「会場でっか」
学園内に入ってから、何となく察したが、どの建物もデカい。某テーマパークを連想してしまう程、どれもスケールが大きい建物が沢山だ。流石名門校だ。
入学試験は、A、B、Cと会場が分かれている。俺はA会場だ。
「入試者ですね、受験票を拝見します」
「お願いします」
会場の入り口には、受験生が受付をしていた。周りを見ると、有名な私立中学校の生徒や、モデルのような、整った顔の生徒が多くいた。
「早乙女ハルキ様、受付完了です。こちら名札となっています。試験中は首から下げてください」
「ありがとうございます」
説明は自由席なので、適当な場所へ座ろう。にしても、受験票があるのに名札があるのか。人が多い。この臨場感は足取りが重くなる。今から俺は、この受験生達と合否を争う。
練習は沢山したのに、また心臓の鼓動が速くなる。まだ、試験始まってないのに落ち着きがない。
「今回も緊張しているんですか」
声の方向に振り向くと、黒髪に眼鏡、大人しそうな姿。そして、言葉遣いにあの時の出来事が、思い出す。
「ドリライの時の人 ?」
確かな確信が無く、疑問形になってしまった。しかし、その答えは正解だった。彼女は柔らかく、笑みを浮かべる。
「お久しぶりですね、貴方もこの学園に入学するんですね」
人違いじゃ無くて、よかった。しかし、偶然が重なるものだ。伊集院さんのドリライの後にまさか、此処で再開するとは、思わなかった。
「あぁ、俺あの時のドリライで、進路変えたんだ」
「なるほど、今日は貴方のライバルですね」
そうだ。ここは入試会場ということは、彼女もプロパフォーマ志望なんだ。彼女は俺よりも以前にドリライを知っている。
経験が足りないのは、分かっている。馬鹿にされると思ったが、彼女の言葉意外なものだった。
「そうですか、本日は共にに頑張りましょう。私の名前は
差し出された右手に思わず、目を見開く。今から入試をする中で、握手。しかし、差し出された手は何かの縁だ。
「俺の名前は、早乙女ハルキよろしくな、巴」
互いに握手をすると、少し緊張が解けた。だが、良い空気は、突如崩壊した。
「ちょっと、仲良しこよしの馴れ合い、やめてくれるかしら ?」
水を差した人物は、女性の様に綺麗な顔立ち、潤いのある金髪が似合う男性だった。
「あ…えっとごめん ?」
「これだから、素人は嫌いなのよ」
彼のプロ意識 ?が高そうだ。集中していた所を邪魔をしたのは、申し訳ない。しかし、そこまで言う必要もあるのか ?と疑問に感じた。
それにしても、周りの皆は彼に釘付けだ。肌もきめ細かい。薄く自然な化粧は、彼を更にに引き立っている。
「あーあーマイクテースト !」
キーンっと大きな、ハウリングが会場内に響き渡り、思わず肩が上がる。びっくりした。だが、それ以上の出来事が起きる。
「お待たせ〜今からシーズン学園入学試験の説明を始めるよ〜」
軽い口調で始まった説明に受験生は、ステージ中央を見る。徐々に会場は動揺の渦が出来る。
「説明はこの !伊集院ユキヒトがするね〜金の卵の皆よろしくね」
「伊集院さん!?」
なんと、今年の春にプロパフォーマーを引退した伊集院さんだった。会場は彼の紹介に歓声の声が溢れる。暫くの間姿を現さなかったのに、何故この学園に居るんだ。
「驚くのも無理はないか、今年から僕が学園長をするんだ。まぁ、それは今はどうでもいいっか!」
良くない。圧倒的説明不足だ。試験前なのに色んな邪念がまとわりつく。ダメだ!ダメだ!今は集中。まずは試験のことだけ考えろ。
「じゃっ、今年の実技試験の説明ね、今年はチームドリライをすること!」
チームドリライ!?と言うことは、今日初めましての人といきなり、チームドリライをするのか?
「会場の皆〜嘘じゃないよ、チームドリライは最低二人組、今年の試験は僕が考えたからね」
この人が考えた試験形式なのか、去年はソロでドリライすることがルーティンだった。しかし、元トップが考えた形式だ。きっと、何か理由があるのだろう。
「観客の夢は本来ドリライ中に決まる。けど、それは難易度が高い。だがら今回は、夢の内容は伝えるね」
そうか、観客の夢はパフォーマーを観て、叶えてほしい夢を叶えるもの。つまり、ドリライパフォーマンスをすることだ。
だが、ドリライ初心者の受験者に一日やそこらでは、不可能だ。
「夢のテーマは春!春を連想するドリライパフォーマンスが試験の課題だよ」
だから、あらかじめ夢を教えることで、ドリライパフォーマンスのイメージを、掴みやすくする為だろう。
「んで、チーム編成は今皆んなのメアドにチームメンバーの詳細送ったから、確認してね」
すると、メールアプリには、実技テストチームメンバー編成の詳細のメールが届いていた。どんな人なのか、不安が襲う中、メールを見る。
「巴イブキ、
「早乙女さん、チーム同じですよ」
なんと、チームメンバーの一人は巴、数ある人から知人も引き当てたのは、大きい。しかし、現実はそう甘くない。
「最悪、アンタ達と同じチームなんて」
彼の言葉に俺は、この先に不安が増幅した。彼の名札を見ると、確かに西園寺カゲロウと記載されていた。
この実技試験、俺はどうなっちまうんだ?
----------------------------------
此処はシーズン学園、実技試験待機場。午前の筆記試験と面接が終了した。そして、問題の実技試験を迎える。
「ドリライの進行はまずは、皆様の得意分野を話し合いましょう」
巴はノートとペンを取り出し、各々の得意分野を書き出した。
西園寺はダンス、巴は歌。俺は得意分野がない。そう、俺が一番のお荷物だ。その時点で西園寺は眉間に眉を顰めた。
「何となく察した。試験のセンターは私で文句無いわね」
「私もそれで良いと思います」
「文句なし」
試験のセンターは西園寺、メインボーカルは巴、俺はサブ的な役割に徹する。今の実力はそれが妥当だ。
「さて、次はドリライパフォーマンスね」
チームドリライは息の合った、ドリライパフォーマンスが必要だ。しかし、今回は試験。限られた時間の中で、どれだけのクオリティを引き出せるのかが、鍵だ。
「課題の春をイメージするパフォーマンス…桜の花をドリライパフォーマンスに入れるのは、どうでしょうか ?」
「それは賛成よ他には 」
巴が提案した。桜を引き立つ様なパフォーマンス。尚且つチームでパフォーマーする以上、全員の見せ場が必要だ。そして、短時間でそれを可能にするものは、これしかない。
「なぁ、皆」
巴、西園寺に俺の提案を話す。二人は一度考えた後に提案を受け入れた。西園寺は素人意見を引き入れないと思った。
しかし、巴の時と同じく、理由や内容が良い提案なら、提案を取り入れてくれた。最初の印象は怖いかった彼も、チームとなれば話は別だ。
実技試験まで、時間がない。今できる最高のドリライを試験官に届けてみせる。
----------------------------------
【チームドリライ】
2人〜編成される、ドリライパフォーマンスチーム
【シーズン学園】
日本でトップを誇るプロパフォーマー育成学校。
伊集院ユキヒトが卒業した学園でもある。
【実技試験形式】
・チームドリライを行うこと。
・ドリライパフォーマンスを最低1回行う。
・今回の実技試験は、観客の夢の内容は固定とする。
夢のテーマは「春」
※観客役は学園の教員とする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます