第3話 ジクロロ
「はあっ、はあっ、はあっ」
両手を膝につき息を切らすナナホシの前には、付近のどれよりも一回りも二回りも大きな建物があった。
体全体を使って大きな門を開けたナナホシは、玄関ドアの前で数秒立ち止まったあと、ひっそりとそのドアを開けた。
玄関にぽつんと立っているナナホシは、不安に満ちた表情のまま誰にも聞こえない程の弱々しい声量で挨拶をする。
「た、ただいまー...」
しかし、その挨拶をしっかりと受け取った人がいた。
「お゙が え゙り゙な゙ざ い゙ッ!!!」
長い廊下の奥から、大柄の男が全力で走ってくるのが見える。ナナホシの実の父、ジクロロだ。
その両目は溢れんばかりの涙を撒き散らしており、廊下を濡らしていた。
(あちゃー、これが嫌だから急いで帰ってきたのに一足遅かったか...)
ナナホシは「は〜」とため息をついている。これから起きる出来事を察し、いわゆる諦めモードに入っていた。
ジクロロは数秒でナナホシの元へ辿り着くと同時にスっと落ち着いた雰囲気に豹変した。まだ頬を涙が伝っているのに、彼の目はまるで鷹の目のようで、不思議な雰囲気を醸し出していた。
「ナナホシ。またこんな早い時間まで友達と遊んでたのか?お父さん言っただろう?朝になると禁足地から街へ野犬が迷い込んでくるんだ。」
ジクロロは、ナナホシの肩にポンと手を置いて優しい声で警告をした。
(嘘ばっかり。野犬なんて見たことないのに、なんでこんな嘘つくの!)
喉まで出かかったこの言葉をナナホシは必死に飲み込んだ。
少しの間、二人がお互いの目を見つめ合う気まずい時間が流れた。しばらくして、ジクロロはナナホシの肩から手を離し、壁にかけてある帽子を手に取った。
「あれ、お父さん出かけるの?」
ナナホシはきょとんとした顔で質問をする。寂しさと、少しの期待を混ぜ合わせた複雑な表情をしていた。
「ああ、これから2ヶ月ほど禁足地の方へ行くんだ。前々から言ってなかったかい?心配しないでも必ず帰ってくるさ!!」
ジクロロはたくましい筋肉を見せつけながら、笑顔でそう言った。
ジクロロが禁足地に長期滞在するのはよくある事だ。ナナホシからすると少し寂しさもあるが、その間彼の目を気にすることなく遊ぶことができるし、彼が長期滞在から帰ってきたあと必ずプレゼントをくれるのが、彼女は何よりも大好きだった。
「また長期間一人にさせてしまうね、本当にすまない。この街やナナホシのためにも、どうしてもやらざるを得ない仕事なんだ。代わりと言ってはなんだが、何か買ってきて欲しいものはあるか?なんでも言ってくれ!」
玄関ドアに手をかけたジクロロが振り向き、申し訳なさそうな表情でナナホシに質問をした。
「心配しないで!わたしはもう慣れっこだよ!それと、綺麗な緑のワンピース!」
ナナホシは笑顔で答えた。
ジクロロは一瞬驚いたような表情を見せ、すぐにナナホシとよく似た笑顔でニコッと笑った。
「ありがとね、さすがお父さんの娘だ!いいセンスしてる〜!超取っておきのを買ってきてあげるから、今日はもう寝なさい」
二人は最後にハイタッチを交わし、玄関ドア越しに別れを告げた。
「いってきます!」
「いってらっしゃい〜!」
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