エピローグ

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 ヴュステ首都は、陥落した。

 城内に撒かれた油は、あっという間に城に火を点けた。アルトゥム軍は、奴隷にする市民も城も手に入れることはできなかったのである。

 手ぶらで帰国したベルトヒルト国王を待っていたのは、さらに手痛い返報だった。

 落ち延びた侍女シュタムの報告を聞き事態を重く見たルドニーク王国が報復に出たのである。

 これによって、ベルトヒルトは滅び信用を失ったアルトゥムもまた王国として形を成しえなくなった。かといって、アルトゥムがなくなれば農業がなくなり、他の二国もまた滅び、共倒れである。そしてまた、ヴュステがなくなれば塩がなくなりそれもまた共倒れなのだ。

 生き残ったヴュステの民たちはこう述べたという。

 国王陛下と王妃様たちが救ってくださったせっかくの命、こうして生きていかないのはもったいない。だから、ヴュステは王国としてではなくこれからはヴュステ十二氏族として生きていく。

 塩の利権は、十二氏族が全体として守っていく。アルトゥムとは、これからも持ちつ持たれつでやっていきたい。

 しかし、今までの空の国、という名称は捨ててもらいたい。それは、我々の国を滅ぼした国の、国王陛下の、王妃様の命を、多くの兵士たちの命を奪った国の名前だ。そんな国とは、やっていきたくない。

 アルトゥムはそれを受け入れ、以後海の国と自らを名乗るようになった。



 十二氏族の歴史を綴る筆文族はこう書き記している。



 上位女官 フレイア・イール・ベアトリス 死因 服毒 享年 十九 場所 宮殿 大広間


 宰相 ゲオルグ・プラトー・ワースティタース 死因 戦死 享年 二十八 場所 宮殿 玉座の間


 国王 セグヴァリデス・リェス・ヴィノグラート・エリミアⅢ世 死因 戦死

 享年 二十歳 場所 宮殿 玉座の間


 王妃 カウルティーア・スノトラ・ヴィノグラート・エリミア 死因 溺死 享年 十八 場所 城門 側溝



 死亡者 女官侍女十数名 兵士千五百六名 騎士五百二名



 その死者のすべての名前までも、筆文族は克明に記録したとされている。

 


                                    了

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砂漠の涙 青雨 @Blue_Rain

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