第三章 1
年が明けて、白縹の月となった。
新年は国王会議の月でもある。
三国の国王が集まって、それぞれの専売利益についてを話し合い、持ちつ持たれつの関係をそれによって意識しあうためのものだ。
去年は、ヴュステ及びアルトゥムに国王の訃報があったために国王会議はなしとなっていた。
そのため国王会議は一年ぶりとなる。
名前は国王会議だが、話し合いに国王は自ら出席するわけではない。名代の長たちが臨席して、それぞれ会議となるのである。
ヴュステからは今年は猫の目族の長と、巨人族の長の息子が行くことになった。
相変わらず、アルトゥムによって向けられた陰謀の矛先をどう背けるか、打つ手を見出せないままのヴュステである。
このまま戦争になっても、ヴュステが勝つだろう。なんといっても、三国では一番の軍事力と戦力を持つ国だからだ。
しかし、それでは困るのだ。
ヴュステは、アルトゥムに農業生産の輸入を頼り切っている。麦も米も、アルトゥムの助力なしではヴュステは食べていくことができない。
それは、アルトゥムも同じだ。大陸と貿易をしているとはいえ、塩の輸入はヴュステに頼っているという現実を無視できないアルトゥムは、ヴュステと戦争になったら困ったことになる。だからこそ、ベルトヒルトはヴァリデスを傀儡にしてまで塩の権利を手にしたいと思ったのだ。
まさに膠着状態のこの両国のこの緊張状態の今、国王会議で最悪の事態が起こった。
「奸賊め……!」
血気はやった巨人族の若者が、なにを思ったかアルトゥムの長の一人にいきなり斬りかかったのである。
会議の場は大混乱になった。
掴み合いになるアルトゥムとヴュステの長、宙を舞う書類の山、怒鳴りあう声と声、ルドニークの長がその場をまとめ、なんとか騒ぎが静まれば、斬りかかった方は巨人族なれば五人がかりでようやく押さえられたものの、斬られた側は半死半生の態、まさにこれは国と国との大問題となること必至であった。
会議は一旦お開きになり、長たちはそれぞれが帰国してこの話を故郷に持ち帰り、今年の国王会議は散々なものに終わった。
「愚か者!」
国王ヴァリデスは開口一番そう怒鳴った。
空気がびりびりと震える。
「敵に開戦の機会を与えてしまったのだぞ」
「陛下、あまりお怒りにならぬよう。この者も、悪気があったわけでは」
ゲオルグがとりなすと、ヴァリデスは苦虫を噛みつぶしたような顔になり、頭を下げる巨人族の若者に、
「下がってよい」
と言った。
「しかしどうしたものですかな」
長の一人が言うと、誰もが口々に言った。
「このままでは戦です」
「しかしそれでは困ったことになる」
「それはあちらも同じだ」
「どうにもならない状態のまま、時間ばかりが過ぎていくことになりますぞ」
「ヴュステは馬鹿にされたままになる。それは看過できない」
ヴァリデスは言った。
「誇り高い砂の民は、そんなことは許さない」
「しかし戦になれば民は確実に飢えることになります」
「誇りだけでは食っていくことはできないのです」
「ではどうするというのだ」
ヴァリデスの強い言葉に、一同は押し黙った。
答えは出ない。
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