第二章 8
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雨季がやってきた。
七番目の月、白群の月だ。
「先王の喪が明けたので、するべきことが山のようにある。儀式における妃の役割は、重要だ。お前がするべきことは、すべて俺が教えてやる」
祭祀のことを教わるティーアは、ヴァリデスに尋ねた。
「……先王の時はどうされていたのですか」
「十二氏族の長の妻たちが交代でやっていた」
「……」
ヴァリデスの母は、彼が五歳のときに亡くなっている。父王は再婚することもなく、以来独身を貫いた。
「殿のお母君という方は、どのようなお方でしたの」
儀式の練習を終えて、ティーアはごく自然に気になっていたことを聞いた。ヴァリデスは、父の話はよくするが母の話はあまりしない。
「母上か。よく覚えていないが、美しいひとであったと記憶している。身体の弱い、はかなげなひとであった」
彼はなにかを思い出すような目になって空を見つめた。
「金の髪が長い、笑顔の印象的なひとであったよ」
絵があるぞ、と言われて、ティーアは図書室に行ってそれを見てみた。本と絵の好きな、優しいひとであったから、それにちなんで本のある場所に絵が飾られているのだという。
その一幅の絵は、日陰にひっそりと掛けられていた。
紫の瞳がはっとするような、切れ長の目元が涼やかだ。美しい金の髪が風にそよいでいる様が見てとれる。ヴァリデスのあの目は、この方に似たんだな、と思った。
「父上は、俺がいてそののちの跡目が複雑なことになることを恐れて再婚することを拒んだ。色々と不便なことも多かったし長たちも大分勧めたようだが、頑として受け入れなかったんだ。だがそれは、やはり母上のことを想われていたことも大きかったんだと俺は思う。愛していたんだ」
そんな父を見て大きくなったヴァリデスは、自然とひとを愛する心をもった青年に育った。フレイアと出会い、そしてティーアを愛した。
「そういうの、憧れますね」
「俺たちの子供にも見せてやりたいな」
「はい」
ちょっと恥ずかしくなって、ティーアは顔を伏せた。
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