第二章 5
大切なものを扱うかのように、彼はティーアを抱いた。
自分の身体の知らない部分を、それによってティーアは知った。まだ知らない快楽をも、知った。
いざ一つにならんとする時、ヴァリデスは彼女の上でこう言った。
「いいか、今から、痛いことをする。話に聞いたことでしか知らないが、相当に痛いと聞く。覚悟はできているか」
ティーアはかすれた声でこたえる、
「は、はい」
そしてヴァリデスの一部が自分のなかに入ってきて、その言葉通り激痛に貫かれて、ティーアは唇を噛んで敷き布を掴む。枕を掴み奥歯を噛んで何度もその衝撃に耐え、早く終われ早く終われと念じ祈る思いで目をぎゅっと瞑る。
夫は容赦なく侵入してきて、まだ続くのかまだ終わらないのかと絶望する頃、
「入ったぞ」
と耳元で囁いて止まった。
ああよかった、と安堵していると、彼の動きがまた激しくなった。え、どうして、と混乱のうちに動揺していると、今度は違う快感が波のように押し寄せてくる。
そうこうする内にヴァリデスは果て、昇ろうとしていた月はあっという間に宮殿の尖塔に差し掛かっていた。
汗に滲んだ彼の胸に抱かれながら、ティーアは髪を撫でられていることに気がついて、そっとため息をついた。
「身体、つらいか」
ヴァリデスは呟くように彼女に尋ねた。
「いいえ……思ったよりは」
「そうか。……水、浴びるか」
「殿、まだ青藍の月でございます。水は冷とうございます」
「む。そうだな。事後は、水を浴びるものなのだ。そういう場所では」
「そうなのでございますか?」
「湯の場合もあるがな。時期にもよるが」
ふふ、ヴァリデスの胸のなかで、ティーアが微かに笑った。
「なんだ」
「殿も、そういった場所に行かれるのですね」
「ヴュステの男子は、十六になると娼館に連れていかれる。この国の娼婦は、月に三回の性病検査を受け大陸一安全だというのでアルトゥムからもやってくる客がいるくらいだ。 俺は十六の命名日の夜にゲオルグに連れていかれた」
「フレイアさんが言っていました。娼婦には公務員の資格が与えられ、嫌いなお客は断れる権利を持っていると」
「そうだ。娼婦だけではない、男娼もいる。男だけが楽しむのでは不公平だという俺の先祖のお触れのおかげだ」
「まあ」
二人ははじけるように笑った。それからヴァリデスは、
「もうよそう、他の男と女の話をするのは」
と言って、ティーアに深く深くくちづけして、そうしてまた夜に潜り込んでいった。
そうして夜が明けていった。
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