第二章 4

 国王の命名日、十九日がやってきた。

 朝から花火が打ち上げられ、酒樽が開けられ、酒場は朝から繁盛し、食堂は大賑わいであった。市場には商人と客がごった返し、通りには人が溢れた。

 宮殿は朝から大忙し、てんやわんやの大騒ぎであった。

 女官も侍女もあちらからこちらへの立ち働きで目が回る慌ただしさ、フレイアも休むことなくそれに駆り出された。

 また、お祭り騒ぎにつきものの喧嘩騒ぎが首都のあちこちで勃発して、足長族が忙しく動き回り、ゲオルグも一日中よく働いた。

 夜は夜で宴である。

 国王は宮殿の一同の働きを労い、明日は国民の祝日であるからゆっくりと休むようにと言い渡し、宴のお開きを宣言した。

 ゆっくりと湯につかり、さて休むかと寝所に戻れば、一足先に入浴を終えた王妃が寝室で自分を待っている。

「ティーアか。今日は一日ご苦労だった。ゆっくり休んでくれ」

「と、殿」

 緊張したその声に月明かりを透かして見てみれば、いつになくその身体は強張っているようである。

「どうした」

「お手を、出してみてください」

「手を?」

 こうか、と右手を差し出せば、

「両手です」

 と言う。仕方なく左手も差し出すと、ティーアはその掌のなかに自分の白い手をぽんと置いた。

「差し上げます」

「うん?」

「わっ」

「わ?」

「わたくしを、差し上げますっ」

「――」

 熱いものが差し迫って、ヴァリデスはたまらなくなってティーアを掻き抱いた。

 二人はベッドに倒れた。

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