第二章 3

 ちょうどその頃、フレイアは宴の片づけを終えて、自分の部屋へ帰るところであった。 フレイアは女官のなかでも高位の者なので、一人部屋をあてがわれている。ふと、あちらから人影があるので目をやると、知った顔である。

「ゲオルグ様」

 知らず、笑顔になっていた。

「貴女でしたか」

「今、お帰りですか」

「ええ、警備が終わりましたので」

 共に歩きながら、ゲオルグは部屋まで送りましょう、と言った。

「今晩は兵士も酔っています。不貞な輩が出るやもしれません」

「ではお言葉に甘えて」

 ヴァリデスと恋人であった時代から、ゲオルグとは親しかった。だから、話も合う。

「王妃様、楽しそうでしたね」

「すっかり女官の方々と打ち解けられたようで、安心しました」

「あの一件以来、みんなおとなしくなってしまって」

 フレイアがくすくす笑う。それを眩しげに見て、ゲオルグが言う。

「ああ、笑いましたね。貴女は笑っているのが一番だ」

「――え?」

「陛下がご婚約されて、貴女は一時笑われなくなってしまって。でもこうしてまた笑うようになって、私はほっとしています」

 そう言っている内に、フレイアの部屋に着いた。

「さあ着きましたよ。しっかりと鍵をかけて」

「あ、はい」

「あなたが誰のものでも、遠くから見ているつもりでした。陛下のものでも、他の誰のものでも」

 おやすみなさい、と言い置いて、ゲオルグは廊下のむこうに消えていった。

「あ……」

 フレイアは、その背中をずっと見つめていた。

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