花菜の日常


結衣と杏奈に背中を押されて、沙耶に自分の気持ちを正直に伝える覚悟を決めた。


今更遅いって分かってる。だけど、何もせずに後悔するのはやっぱり嫌だ。


「久しぶり…」


もう二度と会えないと思っていたのに、こうしてまた話せているなんて夢のようだ。


「久しぶり、えっと、元気だった?」


「うん。ごめんね急に呼び出して…」


急に呼び出したのに、嫌な顔せずに来てくれる。

相変わらず、沙耶は優しい。


「それはいいんだけど、どうしたの」


それなのに私は、自分の気持ちに嘘をついて、逃げようとした。


沙耶のためと言って、これ以上拒絶されるのが怖かった。


全部言い訳だ。


「ごめんなさい」


「え、なに、頭上げてよ」


頭を下げられるなんて思っていなかったのか、焦った声が聞こえてきた。


「私、嘘ついた」


「嘘?」


「沙耶と別れたくない」


「…」


何も言わない。


「…沙耶はもう、私の事好きじゃない?」


「…」


そっか。


それが沙耶の気持ちなんだ。


「そうだよね。変なこと言ってごめんなさい。忘れて、」


やっぱり、手遅れだったんだ。


「…私と一緒にいることで花菜が変な目で見られるのがいやなの」


またそれ…


「私は周りになんて思われようが構わない。沙耶と居られればなんだっていい」


「でも、」


「私は沙耶がいたらそれでいい。それだけで、幸せなの。周りの目なんてどうでもいい」


どうしたら伝わるだろう。私の気持ちが。


「変な目で、見られてもいいの…?」


「今更、気にしないよ。そんなとこよりも、沙耶といられない方が嫌。沙耶と別れて毎日が苦しかった。どこにいても、いないって分かってるのに沙耶の姿を探してた」


外を歩いていても、不意に探してしまうのは沙耶の姿だった。


「花菜…そっか、そうだったんだ。私が…」


「え?」


「花菜の為とか言って、私が…誰よりも私が、周りの視線を気にしてた。怖かった」


…そりゃそうだよね。


女子と付き合ったことは今までないって。私が初めてだって言ってた。


だから、そんな目で見られることも初めてのはずなのに。


「沙耶…気づいてあげられなくてごめん」


「花菜が、花菜が謝ることじゃないよ」


「私のこと…もう好きじゃない?」


「好き…だけど、」


沙耶は周りの視線が怖いんだ。


それなら…やっぱり寄りを戻さない方がいいのかもしれない。


いや、



──自分の気持ちを隠すことだけが優しさじゃない

と思うよ。


── お互い好きなんて奇跡みたいなものなのに、勿

体ない


「…もう一度やり直せないかな、」



今度は間違えない。

もう二度と、間違えたりなんてしない。


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