結衣の日常

「え?うん。私は男の子が好き!」


何を今更改まって、

「あんたは聞かなくても分かるわ」


「…ふふ。そっか…そうだよね」


花菜が嬉しそうに笑ってる。


「何があった教えてくれない?」

私にも力になれることがあるかもしれない。


「…沙耶は、私が変な目で見られて、苦しむのが嫌なんだって」


変な目で…


自分とは違う好奇心から来るものなのだろうか。

…それとも、軽蔑、か、


「姉さんが変な目で見られる…?なんで!?」


「なんでだろうね。同じ色を好きになっただけなのにね」

そう言った花菜の目は少し悲しそうだった。


「同じ色?」

杏奈はなんの事かよく分かっていないみたいだ。


同性を好きになることは決しておかしなことでは無い。ただ世の中には自分とは違う人のことを理解できない人もいる。


私は異性が好きだから同性を好きにはなれない。

だから、周りの人の視線、言動にどれだけ苦しめられてきたのか分からない。


分かってあげられない。


「私はもうそういうのには慣れてる。というか、多分…麻痺してる状態、」


「麻痺…」


「なに、どういうこと?」


杏奈はまだ理解していないみたいだ。いや、聞いてもきっとピンとこないと思う。自分とは違う人とむしろ仲良くしたいタイプだから。


「何か言われたの?」


少なくともこの学校にはいないだろう。常に私たちと一緒に行動しているし、一番仲のいい私たちでさえ花菜がレズであることを今知ったんだから。


「普通に友達同士で手を繋いだりハグしたりするじゃない?…だから、女子はまだ分かりにくいの」


確かに、友達と戯れているのか、それとも恋人としてイチャイチャしているのか、一目見ただけでは分からない。


外でキスでもしない限り…


いや、花菜に限ってそれは無いな


「じゃあなんで、」


「沙耶は誰かと付き合うことが初めてだった。私と手を繋ぐのと友達と手を繋ぐのとでは違う感覚だってよく照れてた。それなんだと思う。」


「…顔に出やすい人だったんだね」


それで、分かっちゃうんだ。


「明らかに友達と接する顔ではなかった。私は、ほんとに私のことが好きなんだって思えて嬉しかったけど、すれ違いざまに今のレズかな。って聞こえて来る度に沙耶の顔は硬直した」


「…」


その人は、純粋にただ気になって言っただけなのかもしれないし、批判的な意図で言ったのかもしれない。


その人がどういう思いでそう言ったのかは分からない。


だけど、本人からしたらいい気分ではないのは確かだ。



「私は、苦しんでる自覚がなかった。だって沙耶と一緒にいれればなんだって良くて、幸せだったから」


「その気持ちを沙耶さんに伝えた?」


花菜の事だ。きっと伝えてない。

自分より相手の幸せを願う子だから。


「どんな理由であれ、私といる沙耶は辛そうだった。だから、沙耶が別れたいと願うのなら私は止めない。いや、、止められない」


さっき、沙耶さんは優しいって言ったけど、

「優しいのは花菜も同じだね」


「え?」


「自分が犠牲になってでも、相手を思いやれる。でもね、自分の気持ちを隠すことだけが優しさじゃないと思うよ?」


口で言うのは簡単だと思う。

だけど私の気持ちだけは伝わっていて欲しい。


「お互い好きなのに別れるってなんで!?お互い好きなんて奇跡みたいなものなのに、勿体ない」


黙って聞いていた杏奈が急に大声を出した。

理解していないなりに、いや、出来ないからこその発言なのかもしれない。


「もう一度話し合ってみたらどうかな。お互いが納得する形で、」


「…そうね、そうするわ、」



今、本音を伝えないときっと後悔するから。


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