第2話  僕がウサギを飼う理由

 月の欠片を拾った夜、僕はウサギを飼うことになった。

「ウサギ飼ったんだ」と驚いた美智は、すぐに何でと尋ねて来た。

猫でも無く、犬でも無く、なんでウサギ。と

「実は深い分けがあって、聞く?」

「いや言いたいんでしょう」


その日僕は満月があまりに綺麗で、夜の散歩に出かけた。

お気に入りの高台のところに来たときだった。

何だか光り輝く破片を見つけた。

それを拾うとその物が光っていた。

とは言っても綺麗とはほど遠い、デコボコして、ざらざらした、よく分からない物体だった。

いったい材質は何なんだろうと思っても、分からない。

ただとても軽いと言うことだけは分かる。

まあ取りあえず僕は、それを持っていたショルダーバックに入れて、また歩き出した。

すると道の真ん中に誰かがいる。見るからに怪しく、僕は本能的にかかわらない方が良いと判断したので、そのまま行き過ぎようとした。

「あのー、もし」と声をかけてきた。

僕は無視する。

「あのー、もしもし」その怪しい影は性懲りもなくもう一度言ってくる。

仕方なく振り返ると、ちょうど街灯の光で顔がてらされた。

そこにいたのはタキシードを着たウサギだった。

タキシードのウサギって、童話の中だけじゃ無いんだ。

と思ったが、そんなことは言っていられない。

「あー、ちょっと急いでいるんで」と足早に行き過ぎようとしたら、

ぴょんぴょん跳んで僕の前に来た。

「すみません。お急ぎのところ本当に申し訳ありませんが、ちょっとだけ」

「いやー本当に」という僕を無視して、ウサギは続ける。

「実は落とし物をして捜しているんですが、心あたりはありませんか」

「落とし物?」

「ええ、実は月の欠片を落としてしまって」

「月の欠片?」

「はい、私こういう者で」とウサギは名刺を出してきた。

そこには月管理会社、餅つき部、第一課、餅つき係 ウサギとあった。

「えーっと」と僕が言いよどんでいると。

「実は私、月で餅つきをしておりまして、杵が勢い余って月にあたってピーンと割れてこちらに落っこちてしまいました。そしたら、上司が怒る怒る。殴りかからんばかりで、いや殴られたんですがね。この首筋のところ赤くなっているでしょう」

「いや毛があって、わからないし、そもそも首ってどこ」

「ひどいな、見て分かりませんか。ここ、ここ」ウサギは頭を上げて、首と主張するところを見せた。

「いや、ちょっと」

「まあ、いいです。月の世界はチョーブラックで、あんなにホワイトに見えるんですけれど、ブラックなんですよ。」

「あー」

「だから見つけないと、首なんですよ。見てください月を、餅つき係の私がここにいるので、今はウサギがいないんですが、あんまりもたもたしていると、解雇されちゃんです」

そう言われて僕は月を見た。すると本当に、月にはウサギ模様が無くなっていて、ただのっぺりとした月が見えるだけ。

「ああー、もう時間が無い。本当に知らないんですよね」

「あっ、ああ」

本当に、このウサギ絶対に僕を疑っている。

明らかに疑っている。

でも今更言い出せない。

「えっ」ウサギが僕の顔をのぞき込む。

思わず僕は目を背けてしまった。

ウサギが僕をにらむ。

「本当に拾っていないんですよね」

「もちろん」と僕の声が震える。

とその時なんかの着信音が鳴った。

ウサギはベストのポケットから電話を出すと電話に出た。するとうウサギは電話なのにすみません、すみませんをくりかえし、頭を下げまくっている。

仕舞に、

「課長、それだけは待ってください、何とかします、もう少しだけお時間をください」と気の毒になるくらい小さくなっていた。そして僕でも分かるくらいの大きさでブツッと電話が切れた。

「あー、待ってー。お願い、私を、私を見捨てないでー」

「電話、切れてますよ」と言うと、ウサギは僕をにらみつけると上を指さした。

月を見るとウサギの後任のウサギが、餅つきをしていた。

さすがの僕も気の毒になって、ショルダーの中の物体をウサギにみせた。

するとウサギがきれた。

「ざけんじゃねーよ。あるじゃねーかよ。持ってるじゃねーかよ。どうするんだよ。

首だよ首」

「あー、でもブラックの、パワハラ上司から解放されてよかったじゃ無いですか」

また余計なことを言ってしまった。

「そいう問題じゃねーよ。この落とし前どうつけるつもりだよ。このご時世、生きていけねーよ、責任とれやー。ああー」そう言うと、どうでもよくなったのか、僕から月の欠片をふんだくると、足で踏みつけて、粉粉にしてしまった。

そしてもう一度僕の方を向いて。

「で、にいちゃん、この落としまえ、どう始末つけるんじゃい」

「はあ」

「はあ、じゃねーよ、どう始末つけるんだって聞いてるんだよ」とだんだん柄が悪くなって。

でうちに居着いちゃったって訳。

「が、このウサギ」と美智が言う。

「う、うん」

「嘘だー」

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