第18話
僕は今日、当日券で入る予定。來海は前売り券で入る予定だったけれど、チケット売り場までついてきてくれた。
「よかったね!チケット買えて!」
「よかった。少し列が出来てて少し心配だったけど…」
「まあ、まだ出来たばっかりのアイドルグループだから、完売することはないと思うけど…………。いや、僕は完売して欲しいよ!」
來海は誤解されないように両手を大きく振りながら訂正する。
「これから大きくなっていくよ。だって、こんなに魅力的なグループなんだもん。マスカレード・アマリリス。」
僕はチケットを握りしめながら、初めてを噛み締めている。そう、こんなに魅力的なグループ。僕が好きになった初めてのグループ。大きくならない訳がない。
「何?急に改まって?」
「あっ…いや…なんでもないよ!」
「僕も大きくなって欲しいと思ってるよ!でも、大きくなり過ぎてイベント行きにくくなったら嫌だけどね!」
会場の外にテントで作られたチケット売り場。ほんの少し都会から外れた会場は周りに緑も見える。木々を揺らす小風が気持ちいい。さあ、これからどうしようか。開場まで一時間ぐらい。もうすぐ十三時になろうとしているのに、お昼ご飯だって食べてない。
「蒼さん、これからどうしますか?僕はグッズとか見に行きますけど」
「今日はそんなにお金持ってないし、グッズはやめておこうかな。ここら辺、来たことないし、少しぶらぶらしようかな。」
「そっか〜……ならイベントの後、時間ある?」
イベントは十四時から。かかっても、そう遅くはならないだろう。
「大丈夫だよ。」
「やった!じゃあ、連絡先聞いてもいい?」
「いいよ!」
こんなに仲良く喋っているのに、そういえば連絡先知らなかった。知っているのはフルネームと『優しい』ことぐらいかな。
「じゃあ、またイベント終わった後に」
來海と解散した後は会場の周りを歩いてみたり、近くの建物に入ってみたり、文字通り、ぶらぶらしていた。マスリリスのポスターや旗など、僕には目新しいものばかりで、気づいた頃には開演時間が迫っていた。お昼はコンビニでサラッと済ませて、僕は会場に入った。手荷物検査とか、入るまでに戸惑ったのは内緒の話。
「いや〜すごかった〜…」
僕は会場の出口に向かう流れに乗りながら、そう呟いていた。久しぶりの新鮮な空気が開けっぱなしの出入り口から入り込んで、僕の頬に勢いよくぶつかる。外は会場に入った時より薄暗くなっていた。出口を抜けると一気に現実世界に連れ戻された気がする。僕には初めて見るものばかりのキラキラした世界は、僕の何かを動かしたような気がする。その動いた何かは僕にはわからない。でも、そんな気がする。ライブ会場に後ろ髪をひかれながら帰路に着こうとした時、スマホの通知音が鳴った。
『蒼さん会場出ましたか?』
すっかり忘れてた。僕は会場から次々と出てくる流れに飲み込まれながら九十度に進み、道の端っこで返信する。
『出ました。どこにいますか?』
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