第14話
どれだけの時間が経ったのだろう。僕は寝ることもできずにベッドの上に横たわったまま。街は一気に静けさを増している。よい子は寝ている時間だ。街もようやく休憩時間になったため、星の明かりはさっきよりも見えるようになったように感じる。夜空のてっぺんにはもう少しでまん丸の月も上がっている。月明かりと夜の静けさは眠れず、もがいている僕の気持ちを落ち着かせる。
「のど、乾いた…」
起き上がった僕の身体。真っ暗のままの部屋。差し込んだ月明かりは僕の姿を映した。部屋のドアを開けても、ドアの先は真っ暗だった。母さんはもう寝てしまったのであろう。一歩一歩真っ暗な階段を下りる。生まれてからずっと住んでいる家の階段。踏み外すことなんてない、そう思っているけれど、慎重になってしまう。ようやく着いたリビングのドアを僕はゆっくり開ける。リビングの電気をつけると、月明かりとは対照的な目を覆いたくなるどの眩しい光が襲いかかかる。
「うわっ」
少し後ろによろめいた僕だったが、その眩しさはあっさりと慣れていった。キッチンに入り、コップに水を汲む。キッチンに立ったまま、僕はその水を一気に飲み干した。身体は水分を欲していたのだろう、身体に水がしみわたるように感じる。僕はもう一杯水を汲み、コップを持ってリビングのソファに座った。音もない静かなリビング。僕はそれに耐えられず、テレビのリモコンに手を伸ばした。電源の赤いボタンを押すと甲高い女の人のナレーションがリビングに響いた。
「今日はアイドル特集! トップバッターはこのグループ!」
アイドルなんて全く興味のなかった僕には知らないことばかり。それでも、静けさを吹き飛ばすにはちょうど良かった。僕の目線はボーっとテレビに向いていた。
「トップバッターは仮面アイドルとして一躍話題のこのグループ、マスカレード・アマリリスの皆さんです!」
赤い眼鏡をかけた司会者が手招きでスタジオに呼び込むと、目元を仮面で隠した十数人の女の子たちが入ってきた。黒のロングスカートと黒のジャケット、宝石をあしらわれた黒の仮面。気品でクールな雰囲気を感じるが、僕は少し疑問を持った。
「仮面アイドル?アイドルって『かわいい』を売りにしているんじゃないの?」
全くアイドルに無知な僕には新鮮だった。僕の周りにいる人にアイドルが好きな人がいたが、あの子がかわいいだとかあの子もかわいいだとか僕には全く興味が湧かなかった。今の僕は今までのアイドルを見ている感じとは違った。強いて言えば珍しいもの見たさでテレビを見続けていた。「変なアイドル…」心の奥底ではそう思っていたのかもしれない。
そんなこと思っていると、変なアイドルのキャプテンという人と司会者の会話が終わり、パフォーマンスの時間になったそうだ。
「それでは聞いていただきましょう!………」
司会者の威勢のいい掛け声と同時にカメラが切り替わった。薄暗いスタジオに『変な』アイドルは綺麗に整列してうつむいている。曲が始まると同時にスタジオが明転し、彼女たちのパフォーマンスが始まる。
「…………………」
かっこいい。僕の『変な』という第一印象は一気に打ち崩された。アイドルらしくない力強い良いサウンドと歌詞。たくさんいるのに寸分の狂いのないダンス。その中でも群を抜いてかっこいいセンターの存在感。そして、寄り添い、ともに戦おうとする歌声。ぽっかり空いていた僕の心に満ちていった。
「何⁉ このアイドル! かっこいい!」
パフォーマンスが終わったときには『変な』アイドルの虜になっていた。僕はリモコンを強く握りしめてテレビを見ていた。コップに注いだ水のことなんてもう覚えてない。
「マスカレード・アマリリス! かっこいい!」
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