第54話
素晴らしい目覚めとともに、一日が始まる。夏祭りは二日目に突入した。ちなみに、私が適当に夏祭りと呼んでいる祭りは、正確には加護復活祭と言い、大抵は略されて復活祭と呼ばれている。
昨日のことを思い返しながら、支度を進める。本当に楽しかったし、ネイビーの可愛らしい姿が見られて大満足だった。明日の作戦も昨日のように上手くいくと良いんだけど。
——そうだ、少しでも成功率をあげるために、聖女やロテス教についておさらいしてみるのはどうだろう? 思い立った私は、朝食を取った後、書斎に赴き、ロテス教の本を探し出した。
ロテス教の存在を初めて聞いた時はゲームの裏設定を知ったようで、わくわくしたのを覚えている。よしっ、じゃあ改めてロテス教や復活祭、聖女について調べることにするか。私は久しぶりに分厚い本を開いた。
ロテス教とは、ロテスと呼ばれる神様を信仰する一神教で、この国に長く根付いている宗教だ。その歴史は長く、建国時にはすでに原型があったそうだから、かれこれ600年ほど続いていることになる。
国の黎明期、争いの絶えない時代を支えたのがロテス教の聖人であった。聖人とは聖属性を持った男性のことで、女性は聖女と呼ばれている。そんな成り立ちから国教となるのは当然のことであった。
聖属性は唯一、人を癒すことができる属性であり、怪我も治せれば病気も治せる。部位欠損すら元通りにしてみせ、死んだ直後であれば生き返らせることができるなど夢のような魔法だった。
ただその強大な力の代償か、聖属性は各時代に一人いるかいないかといった程の希少性であり、ロテス教では人類に与えられた加護と考えている。
当然、何十年も聖属性持ちが現れない、そんな時代もあった。ちょうどそのタイミングで、他国とのいざこざや数多くの災難が重なり国中が疲弊しており、後に暗黒時代と呼ばれる時代だった。
絶望が国を支配していたとき、一人の聖女が生まれた。彼女は各地で疲弊した人々を癒し、その力と名声をして国を救った。そのことから彼女の誕生日をロテスの加護が復活した日と定め、今後また加護が途切れないようにその日を祝い、ロテスへの感謝を示したのが復活祭の起源らしい。
だから復活祭の最終日の夜には、聖人や聖女による祈りの儀式があり、それを持って復活祭は終わりを告げる。
ただそんな暗黒時代の中、発展したものが一つある。医療技術だ。聖人や聖女に頼り切りになっていた現状を反省し、今後彼らが長い間現れなくても問題がないように、ロテス教が率先して、医療の術を身に着けていったのだ。
どうやら
そのため今の聖女、つまりセリの扱いは最終手段、ありていに言えばお飾りである。もちろん現在の医療技術でも手に負えない病気や外傷もあるが、それらは天命であると受け入れることにして、むやみに聖魔法には頼らないのが現在のロテス教の立場である。
聖女が大々的に活躍するのは、災害や未知の伝染病、戦争など一斉に大きな被害を受けたときだけと定められており、普段は身近な人にひっそりと使うだけに留めている。
他にも、身分の高い貴族は、膨大な喜捨金を支払ったり、便宜を図ったりすることで、その恩恵にあずかることができる。
つまるところ、聖女の存在は前世の天皇に近く、権限をもたない象徴のようなものなのだ。属性は遺伝しないため、聖女の血にもあまり意味はなく、一代かぎりであるのが違う点と言えるかもしれない。
文献を調べると、聖女たちが政治的に利用されていた時代もあったそうだが、現在はそういった動きはない。なぜなら、聖女たちが望まぬ相手と行為をすることで、聖魔法の効力が下がることが度々確認されたからだ。
逆に、両想いの相手と結ばれることで効力が上がることも確認されており、むしろ自由恋愛を推奨されている不思議な存在である。まあ、だからこそ平民である主人公とも普通に結婚できたのだろうが……。
こんなものかな、と心の中で呟きながら私は本を閉じた。改めて調べると本当に聖女は奇妙な存在であることが分かった。それに、
昨日はネイビーと祭りをエンジョイしつつ、しっかり他の目的も達成していた。ゲームで見た場所がどこだったかを思い出し、大体どこらへんでイベントが始まるかを確認することができたのだ。
もし昨日のうちにアランと出会うことができていたら、声を掛けて明日一人でいるように仕向けようとも思ったが、まあ仕方がない。決戦の日は明日だ。
すでにネイビーたちには、友人と出かけると連絡してあるので問題ない。後は、作戦通りに事を実行するだけ。私は興奮とも不安ともとれない感情を抱えながら、明日を待った。
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