第51話
『じゃあ誰を……』とエリーが言いかけたところで、こんこんとノックの音が応接室に響く。それに続いて、老齢の男性の『お嬢様、お時間でございます』という声が聞こえた。
窓から外を見てみれば、赤と青の混じる幻想的な空が広がっていた。もう夕暮れ時か、ずいぶん長い間会話していたものだ。
エリーは話を遮られ不服そうに顔をしかめたが、私としては嬉しいことだった。ただでさえ、いろいろとコントロールできてない現状、エリーが参加するとさらにカオスな状況になる。だから、エリーには少し待っていてもらおう。
「今日はここで終わりだな。今後もしエリーに頼ることがあったら、俺の方から連絡するから」
「……分かったわ」
ネイビーやエリーの執事と一緒に、彼女を玄関まで見送る。彼女も忙しいはず、次に会うのは夏休み明けになるだろう。それまでにはエリーにどう協力してもらうか考えておこう。
ディナーも終わり、ようやく一人の時間となった。ああ、ノート出しっぱなしだったか。まあ、ちょうどいいか。まだ眠くはない、折角だから次のイベントについて復習することにしよう。
ターゲットはセリ・ロテス。現在ただ一人の聖属性の持ち主であり、国教であるロテス教公認の聖女である。聖属性は攻撃魔法を持たないが、唯一人を癒すことのできる属性だ。そのためセリは、というか聖女は、この国で神聖視されており、貴族と同程度の影響力を持つ。
ゲームの中での設定では、非常におっとりとした性格で、癒しの象徴のような人だった。
その豊満な体つきと天然さ加減が絶妙にマッチしており、私の心の中の少年心はくすぐられたものだった。今世ではまだ話したことはないが、傍から見ている分にはそんなにゲームの中と違うようには見えなかった。
さて、そんな彼女と夏休みにあるイベントが何かといえば、そう夏祭りである。この国では神に祈りを捧げるという目的で、国を挙げて三日ほど祭りが開催されるのだ。実態は前世のものとほとんど同じで、屋台や出し物が催される一般的な祭りだ。
そこでのイベントの流れは次の通りだ。まず、祭りの最中にセリが怪しい人に連れ去られそうになっているのを目撃するところから始まる。見かけた
聖女であるセリは神聖さを保つためか、ずっと祭りに参加することができなかった。しかし、ずっと教会から様子を眺めていると、いつしか自分も参加したいと思うようになる。そしてとうとうその気持ちが抑えきれなくなり、教会を抜け出してしまう。
しかし、聖女として俗世から隔離されて育てられてきたため世間の常識に疎く、お金の概念すら知らない彼女は周りから浮いてしまう。教会の人たちに見つかってあわや連れて行かれそうになったときに、たまたま貴方に会ったのだ、と。
そのことを聞いた
実は今回のイベント、かなり勝算があると私は踏んでいる。アランは基本的に人に頼られると断れない性格の持ち主だということは、今までの付き合いからして痛いほど分かっている。だから抜け出してきたセリがアランに会いさえすれば、セリの願いを聞いてくれるはずだ。
ただ今まで失敗していたのはこういう風にどこか私に油断があったからなのではないかと思う。だからこそ今回は油断せずに成功するパターンだけじゃなくて、失敗する原因について考えなくては。
多分セリが教会を抜け出すのは間違いないと思う。というか、そこに関して干渉することは不可能に近いのでそこは祈るしかない。
問題は
ならそこから先、どうしたら失敗するか。まず考えられるのが、アランがセリと会わないことだ。ボーイミーツガールが物語の基本、そこをクリアするのが第一の課題だ。
次に失敗するとしたら何があるかな。今までのことを思い返しながら考えていると、突然脳裏に電撃が走ったようにその原因について思い当たる。
これまで二度にわたり私の計画を邪魔した原因、それはキナだった。ゴブリンたちをけしかけた時も隣にいたのはリオンじゃなくてキナだったし、エリーを助けに行こうとしてた
もし今回もアランがキナと一緒に夏祭りを楽しんでいたら? そこにセリが入り込む余地は果たしてあるのか。
よくよく考えたら男の子が一人で祭りにいる状況ってなんだ? ゲームしているときは別に何にも思わなかったけど、夏祭りって普通友達とか彼氏彼女と一緒に行くとこだよね。そこにソロで参加ってメンタル強すぎん? いや、結局セリと回ることになるんだからいいのか?
やばい、頭がこんがらがってきた。一旦話を整理しよう。今回のイベントでは、アランが一人でセリと出会う必要がある。ならば、私の仕事はきっと一緒にいるであろうアランとキナを引き剝がした上で、セリと合わせることだ。……ちょっと難易度高くない?
どうすればそんな都合よくできるのか……うん、分からん。ちょっと眠くなってきたし、こういうときは未来の自分に任せるのがいい。ノートをしまって、ベッドに入ると急激に眠気が増して、私はすぐに意識を手放した。
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