第49話
夏休みに入り一週間が経った。ただ、休みに入ったからと言って、一日中休めるわけではなかった。公爵家嫡男としてパーティに参加したり、勉強したりする必要があり、そこそこ忙しい毎日を送っていた。まあ結局廃嫡されて五つ下の弟が継ぐことにはなるんだけど、それまでは頑張る所存ではある。
それに、夏休みにもイベントがある。リオンやエリーのもあるんだけど、それはもう無視して、せめて聖女のセリのイベントだけは上手くやろう。ノートを見返して、どう事を運ぼうか頭を悩ませているところに、ノックの音が聞こえた。
「ルイス、お客様が来たよ」
「そうか、分かった。今行く」
今日は特に来客の予定はなかったはずだ。アポもなしに来る人は限られている。大方の予想をつけながら、ネイビーに着いていく。応接室にいたのは予想通りの人物だった。
「やあ、エリー。あまりにも来ないものだからてっきり忘れてしまったのかと」
「あら、貴方は暇そうで羨ましいわ」
「はっ、まさか」
そんな軽口を叩きながら、エリーの正面に座る。ふかふかのソファはしっかり私の体を支えてくれた。エリーは見たところ元気で、あの事件を引きずっている様子はなく、ひっそりと安心する。
ネイビーには、紅茶を持ってきてもらった後に外に出てもらう。話す内容が内容だからね。エリーのお付の人にも悪いけど、外で時間をつぶしてもらう。そうして部屋に二人きりとなったところで、エリーが話し出す。
「今日は変装はいいの?」
「ああ、もうエリーにはばれてるし面倒だから」
デブのふりをしているのは、あくまで学園の中だけで家の中まではしていない。今日も相手がエリーだったから特に何もせず対応しに来た。それを聞くと、彼女はどこか満足そうに微笑んだ。
「今日は時間がたっぷりあるから、全部話してもらうわよ」
「ええっと、俺がお告げを聞いたことは言ったよね?」
「そうね。卒業パーティのときに魔王が復活する。で、倒すにはアランが誰か娘と仲良くする必要があると」
あんな状況で言ったことをよく覚えているものだ。でもよくよく考えてみると、そのこと以外に言うことが見つからず、正直にそう言うことにした。
「そうそう、ぶっちゃけそれ以外に言うことはないんだよな」
「はあ?」
何を言っているのかしら、とでも言わんばかりの鋭い目を向けられる。でもそれしか言いようがなくない、と私は声を大にして言いたい。だってこの世界にエロゲっていうかそもそもゲームそのものがないんだよ? どうやって説明すればいいのか分からないよ。それにエロ要素とか恋愛要素を全部省いたらそれが本筋になるはず。私の真剣な態度が伝わったのか、エリーは一つため息をつくと、表情を変える。
「はあ、分かったわ。この際、魔王が復活するのはいいわ。でもどうしてそこでアランが出てくるの?」
そうだよな、当然の疑問だと思う。私はアランが主人公だから特別ってことを知ってるけど、エリーからしたら別になんてことないただの平民なんだから。だからと言って、納得のいく説明ができるわけでもない。よし、ここはゴリ押しでいこう。
「エリーもアランの凄さは知っているだろ? それに俺だってお告げを聞いただけだから全部分かるわけじゃない」
「確かに魔力量には目を見張るものがあったわね。……はあ、まあいいわ。じゃあ、次、女の子と仲良くするって具体的にどういうこと?」
来た。一番聞いてほしくないところ。前世みたいに私が女子だったら開けっ広げに話しても良かったんだけど、今は男。エリーに対して、馬鹿正直にセックスすることだよって言ったらどんな目で見られるか分からないし、私も気まずい。できるだけ婉曲な言い回しで伝わるといいんだけど。
「その、チョメチョメするってことだ」
「チョメチョメ? どういう意味かしら?」
う~、分かって聞いているんじゃないよね? そんな純粋な目で私を見ないでほしい。真面目に話している内容がエロゲってだけで、ちょっときついのに更に追い詰められた気分になっちゃうから。仕方ないので私はどう言い繕えばいいか必死に頭を回転させた。
「じゃあ夜の営みなら分かるか?」
「ああ、房事ね。それがどう関係するわけ?」
私が恥ずかしい思いをして、やっとこさ言ったのにエリーは全く恥ずかしがる様子も見せず、平然と聞いてくる。そんな反応するなら最初から直球で言えば良かった。にしても、関係か。エロゲだからとしか言いようがなくない? そもそもそれが目的と言っても過言ではないんだからさ。
「そこはほら、愛の力みたいな感じで」
「愛の力?」
実際ゲームでも好感度が低い状態、つまり行為をしていない状態で最終局面を迎えると魔王に負けるというバッドエンドがあった。まあ、エロゲよろしく触手やらなにやらで良い絵がたくさんあったから見に行ったけど、エリーに言うつもりはない。これで、納得してくれると良いんだけど。すると、エリーは顎に手を当てて考え込む。
「一度、情を交わすと
なるほど、ゲームの設定はそんな風に解釈されるのか。でも言われてみれば確かにネイビーがどこにいるのかなんとなく分かる気もする。それが
「ちょっと待って」
「えっ?」
急にエリーが立ち上がるものだからびっくりしてしまう。何か気になったところがあったのかと考えながらエリーの言葉を待った。
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