第28話
今日は初日ということで特に授業をすることもなく、校則の説明や学生証などの配布があっただけで解散となった。続々と教室を出ている人が出ていくのを横目に見ながら主人公の動きを注視していた。ヒロインのうち誰が話しかけるのか気になっていると、逆に自分に話しかけてくる人がいた。振り返ると、その眩い金色が目に入る。その美しい髪の持ち主はヒロインの1人であり、私の婚約者であるエリザベートだった。
「ねえ、ルイス。どうしたのかしらその体形? この一月で何があったわけ?」
そうか、エリーは昔の私を知っているんだった。この一月は学園に向けて準備で会っていなかったから、順当に太ったと思われているようだ。昔からの私を知っているエリーすらも騙せるのならこの魔法は上手くいっているっぽいな。腕の細さや頬の肉付きをごまかす程度の魔法しか使っていないおかげで魔力の消費も抑えられているし、このまま運用できそうだ。ちなみに実際に太らないのは、いざ国外に追放されたときに俊敏に動くためだ。何事も体が資本だからね、むやみに太りたくないのだ。
もちろん、そんなことを馬鹿正直に言うことなどできないのでとりあえず、適当な言い訳をする。
「少し食べ過ぎてしまっただけだ。気にするな」
我ながらルイスの口調が板についてきたように思える。もしかしたら私役者の才能とかあったりして。そうだ、追放された後はどっかの劇団に入るなんてどうだろう? ルイスはチビだけど顔は悪くないし、何かしらの役はできるかも。なんて、妄想をしていたせいか続くエリーの言葉を聞き逃してしまった。
「どうして……」
「えっ? すまない、もう一度言ってくれないか?」
「何でもないわよ! とにかく痩せるまで私に話しかけたりしないで」
声を荒げてそう言ったエリーは足早に去ってしまった。何か気に障ることを言っただろうか? まあ、考えようによっては疎遠になるのは良いことかもしれない。どうせ破棄される運命にある婚約だ。それなのに私に付き合わせるのも可哀想というものだろう。
気持ちを切り替えて主人公であるアランを眺めていると、1人話しかける影があった。リオンちゃんだ。あの子は物怖じしない性格だし、そういうことしそうなイメージはある。確か、あの子のイベントが一番早く来るはずだったよな。まずは、そこでイベントを起こして主人公の反応を見ることにしよう。
あれ? よくよく考えてみたら、私は今まで主人公がどのルートに入るか重視してたけど実際はそれを気にする必要はないんじゃない? イベントが被っていたらそうもいかないけど、私が関与するイベントは被ることないからとりあえず片っ端からイベント起こせばいいかも。それに実はこのゲーム、ハーレムエンドがあるらしいんだよね。ネタバレは好きじゃないから具体的な攻略法とかは調べなかったから分かんないけど、この世界でそれが見れたら面白そうだし、うん、その方向で行くのが良さそう。
と言っても私にできることは案外少ない。ヒロインをピンチに陥らせたり、嫌がらせをすることが私の主な役割になるわけだけど、その他のイベント、例えばヒロインが主人公にお弁当を作ってくるだとか一緒に魔法の練習をするだとかそういうイベントには関わることはできない。シナリオが分かっているだけましか。大筋から外れるようであれば私がそれとなく誘導すればいいか。人を操るにはもってこいの魔法だって持っているし、できなくはないだろう。考えていたよりも楽な道のりかもしれない。そう思う学園初日だった。
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