第27話





 多少のざわつきはあれど、スムーズに教室への移動は済んだ。階段状になっている教室はちょうど、兄貴の大学を見学しにいったときの講堂によく似ていた。案内をしてくれた眼鏡をかけた男の先生に適当な席に座るよう促される。辺りを見渡せるように後ろの席に着くと、見事に私の周りから人が消えていった。覚悟はしていたもののこれが毎日続くかと思うと気が滅入った。前世の頃はあんなに友達が多、お……数人はいたから、一人に慣れるのには時間がかかりそうだ。そんなことを考えていると、前の先生が話し始めた。


「皆さん初めまして。まずは私の自己紹介から行きましょうか。数学を担当しているクロードと申します。どうぞよろしくお願いします」


 クロードと名乗る先生への反応は酷いものだった。性がない、つまりは平民である彼に対して選民意識の強い貴族の子どもたちは蔑みの眼を向けていたためである。しかし、そんな雰囲気に気圧されることなく、彼はため息をついて続けた。


「はあ、この反応では先に学園の規則を確認した方が良さそうですね。——このカロメア王立学園は平等をモットーに掲げており、身分による差別は禁止されています。もちろん意識を根本から変えるのは難しいでしょう。しかし、あまりにも露骨で度が過ぎる振る舞いがあれば貴族であっても退学が視野に入ると思ってください。また、基本的に教職員の指示には従ってください。ここではたとえ平民であっても教師である我々の方が立場が上です。ここまでいいですか?」


 クロード先生は一息でそう告げるとかけている眼鏡を外してレンズを拭く。その姿は泰然としていてこういった対応に慣れきっていることが分かる。柔らかい物腰でずいぶんはっきりと物を言う先生なんだなと思った。そうでもなければこの学園で教鞭などとれるはずもないか。そんな風にきっぱりと否定されたことがないのか、子どもたちはざわめくも、表立って非難する奴は現れなかった。それをしそうな筆頭であるルイスがしないのだから当然と言えば当然だが。


「何もなさそうなので、続けます。これから確認のため点呼をします。名前を呼ばれたら返事をして下さい。敬称は省きますので、悪しからず。——では、ルイス・ロベリヤ」


 身分は関係ないとしつつもそこは私からなのかと少し拍子抜けしてしまう。まあ実際問題、学園だけ平等なんてするのは難しいのだろう。貴族と身分とは切ることのできない関係なのだとこの15年でよく分かっていた。ゲーム内でもルイスの問題行動が咎められなかったのは、そういうことだろう。そんな考察をしながら、とりあえず無難に『はい』と答えた。


 そうとなれば私の次に来るのは彼女だろう、そう考えた瞬間『エリザベート・サンセマム』という声が聞こえた。『はい』と声の聞こえる方を見れば、そこにはやはり期待通りの彼女がいた。家に来るときはしていなかった縦ロールまでしていてそのお嬢様ぶりを加速させていた。そうそう、ゲームの中の彼女はいつも縦ロールだったから違和感あったんだよね。彼女は私と同じで、金髪だけどその色は一寸の燻りもなく輝きを放っていた。ヒロインの中で同級生なのは彼女を含め3人だから、残り2人のヒロイン、そして主人公の点呼を待つ。


 それから数人の名前が呼ばれた後、ようやく待望のそれを聞く。リオン・シャスタ、確か子爵家の子で、その身分の低さからルイスに目を付けられた1人だったはず。スレンダーなその体躯と快活な性格が良く合っていて、誰にでもフレンドリーに接する明るい女の子だ。暗めの茶髪をショートにしていて、いかにもスポーツ系女子って感じで可愛いのだ。


 それから少しして、最後のヒロインの名前が呼ばれた。セリ・ロテス、彼女が同級生として最後のヒロインだ。ロテスとはこの国の国教である、ロテス教から来ている性であり、もともと彼女は平民、それも孤児院出身という設定がある。属性が聖であることが判明し、教会に引き取られたという過去を持つ。その清廉潔白さを表すかのような真っ白で長い髪はストレートで、その神々しさに拍車をかけていた。彼女は、聖女の名に恥じない大らかな性格で、何もかも包み込む母性の塊のような子だった。後、何とは言わないがかなり大きいものを持っている。


 最後に呼ばれ、はきはきとした声で返事したのが今話題の英雄、そしてゲームの主人公であるアランだ。ゲームでは名前を設定することができたが、デフォルトではアランになっていたため特段驚きはなかった。改めてアランを見たことで思うところがあった。ゲームの主人公って自分で平凡とか普通とか言う割に全然そうじゃないよね? アランもゲーム内で、自分のことを普通の青年とかのたまっていたくせに、高身長でイケメンで? 挙句の果てには魔力も高いとかどうなってんだ? 私も生まれ変わるなら主人公の方が良かったんだけどどうしてくれるのさ? 


 はあ、まあいいや。案外この体にも愛着が湧いてきたし、ネイビーにも会えたからね。それにこういうマインドの方が却って嫌がらせとかもしやすいかも。よっし、そう考えたらやる気が出てきた。まずは、アランがどのルートに入るか見ていくことにしよう。


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