学園入学

第25話





 ついに私も15歳、ゲームが始まった時のルイスの年齢に並んでしまった。私は学園に通うために王都の屋敷に戻ってきていた。ママは領地での生活が性に合ったのか、王都には戻らず弟と一緒に領地に残ったままで付いてきたのはネイビーだけだった。馬車から降りて、久しぶりに王都での我が家を眺める。


「こっちに来るのは10年ぶりか」

「私は初めてだ。でも、お屋敷はあんまり変わらないように見えるね」

「確かに」


 そんな風に話しながら屋敷に入ると、パパが待ち構えたように突っ立っていた。


「ルイス、久しぶりだな。大き……うん、立派になったな」

「そこまで言ったら最後まで言ってくださいよ、父上。それに久しぶりも何も、先月だって顔を合わせていたじゃないですか」


 私は結局160ぐらいにしか伸びなくてネイビーにすら身長が負けていたままだった。目の前にいるパパは180を優に超えるほどなのにどうしてと嘆かざるを得なかった。そんなパパは一月に一度くらいは領地の方に帰ってきたので、あんまり久しぶりに会った感じはしなかった。抗議の意を込めてじーっと顔を見つめるも、豪快笑い飛ばされてしまった。


「ははは、まあ小さいことは気にするな。さあ入れ、今日はパーティだ」


 やたらとテンションの高いパパに連れられて屋敷の中に入る。正直長旅の疲れもあり、すぐにでも部屋で休みたかったが、パパの嬉しそうな顔を見ていると言い出すことはできなかった。ネイビーに先に部屋へ荷物を持っていってもらい、すぐに食事を取ることになった。その時間は楽しくもあったが疲れる時間だった。





 そうして王都に戻ってから数日が経ち、学園が始まるまで後一月ほどになった。領地での使用人たちは一定の信頼を得られたと思っていたが、こっちの方はまだまだ全然で、顔を合わせるだけでさりげなく避けられてしまう始末だった。そんな居心地の悪さはあったもののネイビーはいつも通り接してくれたおかげでそこまで辛くはない日々を過ごしていた。


 ネイビーに部屋を掃除してもらいながら、私はある情報を手に入れるために新聞を読もうとしていた。ゲームと同じなら大体このくらいの時期だったと記憶していたが、果たしてどうか。ゲームと合っていてほしいのかそれとも違ってほしいのか半々くらいの気持ちで新聞を広げると、ある意味期待通りの記事がそこにはあった。


「やっぱり設定通りか……」

「ん? ルイス何か言った?」

「いやなんでもない」


 私が広げている新聞には王都に突如現れたワイバーンを一撃のもとに葬った少年の姿があった。わざわざ高価な写真まで使っているのだからその話題性は相当なものだろう。


「あ、それってワイバーンの記事? すごいよね、私も買い出しに行くときとかにたまに耳にするもん」


 いつの間にか背後に回っていたネイビーが記事を覗き込んでそう言った。市井にも広がっているのは流石ゲームの主人公だけはある。


「そうか」

「へえ、この子若いって聞いてたけど15歳だったんだ。じゃあ、ルイスと同級生になるかもね」

「ああ、そうだね」


 これで確定した。やはり、この世界はゲームの通りに進んでいるのだと。ゲームでは、田舎で暮らしていた主人公が商人である父親に付き添って王都まで出向いていたところ突然ワイバーンが出現するところに立ち会う。そこで、持ち前の正義感からワイバーンを撃退したところ、その功績が認められ学園に特待生として入学を認められるというのがゲームの設定だった。そうでもなければ、田舎者で礼儀が整っていない主人公が貴族もいる学園に入学することなどできないからね。だって、平民はその試験内容に礼儀作法が入ってるから。


 ここには、その青年の名前は載っていなかったがその姿はまさにゲームの主人公と全く一緒だった。ああ、やはりゲームは始まってしまうのか。ゲームとか前世とかはもしかしたら私の思い違いかもしれないと少し期待していただけあって残念な気持ちはあったが、頭を振ってその思いを吹き飛ばす。むしろ確定しただけましだと思えばいい。ゲームの通りに私が振舞うことが世界を救うことにつながり、ひいてはネイビーやヒロインたちの幸せにつながる。今一度それを再確認し、学園までの日々を過ごすことにした。









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