第23話







 朝目が覚めると、ベッドの中に自分以外の体温があることに気づく。その持ち主を確認しようと横を向けばネイビーの顔が見えた。昨晩のような蕩けきった顔でなく穏やかな寝顔がそこにはあった。そこでようやく昨日自分が何をしていたのかを思い出す。——そうか私、ネイビーと一つになったんだ。まるで自分が自分じゃないような感覚だった。今でも明瞭に思い出すことのできるネイビーの体温、響く嬌声、柔らかい体、どれをとっても最高の体験だった。


 ゆっくりと手を伸ばして隣に眠るネイビーの髪の毛を梳く。こんな風にぐっすり眠ってくれているということはそれぐらいには信頼されているということだろうか? ネイビーの寝顔をじっくり見ながら極上の時間を過ごしていると、その目がゆっくりと開いていくのが分かった。起こしてしまっただろうかと不安になったが、ネイビーがこっちを見て微笑んでくれたのでもうどうでもいいや。


「おはよう、ネイビー」

「はい、おはよう」


 どちらともなく近づいて唇を合わせる。幸せの味がした。しばらくその味を堪能してから離れる。そうしていると、じわりじわりと夢心地だった気分が現実に戻っていった。


「あっ、そうだ!」

「急にどうしたの?」


 私は重大なことを思い出し、慌てて飛び起きる。そういや、昨日は結局止められなくて何度もネイビーの中に出しちゃったんだった。創作を見ているときはちゃんと避妊しろよ、とか思っていたのにいざ自分のときとなれば全く自制が利かなかった自分の理性の弱さが憎い。私に続くように体を起こしたネイビーの肩をがっしりと掴みながら私は覚悟を決めた。


「もし赤ちゃんができてもちゃんと責任は取るから」

「えっ? ——ああ、まだルイスは知らないのね」


 最初きょとんとしていたネイビーは徐々に事情を理解したのか慈愛に満ちた表情で私を見る。そうして彼女はこの世界の性事情について教えてくれた。聞けば、体液には少なからずその人の魔力が含まれていて、特に貴族のような魔力量の多い人は体液に含まれる魔力も多くなるのだそう。そして、他人の魔力と自分の魔力が反発しちゃうため、魔力量が多い人は特別な儀式をしないと子供を孕ませたり逆に孕んだりすることはできないのだそう。


 それを聞いて妙に納得した。コンドームとかつけなくても避妊できるなんて、エロゲらしい設定だと思ったからだ。それに、妊娠するリスクとかあったらネイビーもこんなこと承諾したりしないよな。なんて冷静に考えていると、横から『でも気遣い嬉しかったよ。もし万が一できちゃったときはよろしくね』と囁かれて私の脳は焼き尽くされてしまった。何このあざと可愛い生き物? どうして私のことをこんなに苦しめるの?


 放心状態になった私が我に返った時にはすでにネイビーはベッドにおらず、昨日すぐに脱がしてその辺に置いていたネグリジェに身を包んでいた。もしかしてさっきまで裸だったんじゃない? くっそ、見逃した。昨日あれほど見たはずなのに、全然満ち足りることはなく、むしろもっと欲が深まったようにも感じる。


「すぐに部屋を片付けたいんだけど、その前に二人ともお風呂に入らないとね」


 確かに部屋はいつもの面影もないほどに荒れているものの、体の方が酷い状態だった。そこで、私はとっさに良いことを思い付き、勇気を出してネイビーを誘った。


「じゃ、じゃあさ一緒に入るか?」


 少し顔を赤らめながらもしっかりと頷いてくれたので、誰にも見られないようにそそくさとお風呂まで直行し二人で入る。昨日ぶりに見るネイビーの裸は美しく、いつまでも見飽きることのない芸術品のように見えた。途中我慢できずに一度だけネイビーのおっぱいに触ってしまったのだが、『そういうのは夜だけね?』と可愛く注意されてしまい、それ以上は何もできなかった。


 お風呂場で別れ、朝食を取った後部屋に戻ると、先ほどまでの惨状は見る影もなくすっかりいつも通りの部屋に戻っていた。掃除をしたネイビーも息の乱れ一つなくまるで今までのは夢かのように思えたが、少しだけ漂う性感を刺激する甘い香りが昨日のコトを証明していた。


 注意を引くためかネイビーが一つ咳払いをして話を切り出した。


「こほん、さて、これからのこと何だけど」

「これから?」

「そう。昨日発散させることはできたけど、ルイスは男の子だもの。また我慢できなくなる時が来ると思う。だからその時は、また私が相手をしてあげる。いつかくる本番に向けての練習も兼ねてね」


 少しだけ震えた声。相当な勇気をもってそれを言ってくれたことが分かった。またネイビーとできるならそれに越したことはないと思ったが、その一方でただ与えられるものをそのまま受け取っていいものか分からず、質問する。


「それは、大丈夫なのか?」


 それは何とも背徳的な誘いで、私にとっては万々歳だけどネイビーにとって負担が大きすぎるんじゃないか。そんな疑念を払拭するようにネイビーは答えた。


「だ、大丈夫。ルイスのためなら頑張れるから。それに」

「それに?」

「こんな風にさせちゃったのは私のせいかもしれないし」


 ん? そんなことはないと思うけど、そっちの方が都合がいいから黙っておくことにして、その言葉に甘えよう。こんな健気な子のお願い聞かない方が無粋と言うものだ。……そう、据え膳食わぬは何とやらって言うし。ふふふ、あの柔らかい体をまた味わえると思ったら興奮して鼻血でも出してしまいそうだった。エロゲの悪役だけあってか性欲に際限はなさそうなので、そういうことなら毎日でも頼んじゃおっかな?


「じゃあ、ま……」

「あ、でも流石に毎日とかはやめてね? あれが毎日だったら私の体がもたないから。ごめん、遮っちゃって。何だった?」

「な、何でもない」


 腰をさすりながらそう言われたら何も言うことは出来なかった。何度も何度もした自覚はあるから文句を言うことなどできるはずもなかった。って言うか、よく考えたらこの後私告発されるんだよね? ゲームの中のルイスも最初はこんな感じで接されていたのに、調子に乗って毎日やっちゃったりしたからそういうことになっちゃったのかな?


「ど、どうしたの? 急に落ち込んだりなんかして」

「ううん、ホントに何でもないから」


 いつこの関係が崩れるか分からないけど、それまでネイビーのことはきちんと労わることにしよう。まあ、それはそれとして、ゲームの再現のためには多少、そう多少はネイビーとそういうことをしなくちゃいけないからね。そう、それは仕方ないことなの。と、誰にするでもない言い訳を考えながらまたネイビーと体を重ねられることを楽しみに待つ今日この頃であった。



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