第20話





 この前のパーティは本当に疲れた。エリーの家の見栄のこともあるから出席しないわけにはいかなかったけど、それでも人前に出るのはなかなか辛いところがあった。この体は無駄にスペックが高いので、ひそひそ話なんかが余裕で聞こえてくるんだよね。そういう悪名もゲームのルイスとして大事だろうけど、だからといってノーダメージってわけではなかった。


 昨日ようやく屋敷に帰ってこれ、ぐっすり眠ることができた。今日は特に急いでやらなきゃいけないこともないし、休養も兼ねてのんびり過ごそう。ネイビーのこともそろそろなんとかしなきゃな、なんて思いながら起き上がろうとすると下半身に何か違和感を覚える。なんだろ、何か濡れてる気がする。えっ、待って待って、この歳になってお漏らししちゃったの? ちゃんと寝る前にトイレにいったのに。


 ばっと布団を上げて状況を確認すると、どうやらズボンまでは濡れておらず被害は下着に留まってくれたようだ。とりあえずシーツとかを交換する必要はなさそうで一安心だ。これならネイビーにばれずに一人で処理できそうで助かった。さっさとこの気持ち悪い下着を着替えようと、下着に手をかけて中を見ると衝撃的なものが目に入った。ルイスのアレには正直もう慣れたのでそれではない。てっきりただのお漏らしかと思ったら何やら白いものが自分の下着についていたのだ。——は、なにこれ? 普通の尿とは違う変な臭いも若干しているような気がする。もしかしてこっちの世界特有の何かやばい病気なんじゃないかと思って私は慌ててネイビーを呼んだ。


 呼んだ後、とりあえず下着を着替えた。ホントはお風呂に入りたかったが四の五の言っていられない。着替え終わったと同時にドアが開き、ネイビーが入ってくる。息が荒いところを見るに走ってきてくれたようだった。


「はあはあ、何、ルイス? どうしたの?」

「ネイビー、落ち着いて聞いてほしいんだけど、俺、病気かもしれない」


 そう言うと、ネイビーは少し怪訝そうに聞き返してきた。


「病気? 頭でも痛いの?」

「いや、そうじゃなくてね。とにかくやばいの」

「やばい?」

「そう。だから医者を呼んでくれ。ああ、やっぱりストレスがいけなかったのかな。そうだとしたらどうしよう」

「ルイス、落ち着いて。何があったの? 具体的に言ってくれないと分からないよ」


 そうか、考えてみればネイビーもこっちの世界の人間か。なら何か知っているかもしれない。そう思った私は今朝起こった事細かにネイビーに説明した。




「ね? 病気だと思うでしょ?」

「ルイス、そ、それはね……」

「うん? 何か知っているの、ネイビー」

「知っているというかなんというか、うーん」


 どうしてだか言葉を濁すネイビー。普段と違い煮え切らない態度が不思議だったが、知っていることがあるならとにかく教えてほしかった。


「知ってるならはっきり教えてくれ」

「……分かった。後から文句言わないでね」

「……ん? 別に言うつもりはないけど」


 そう前置くとネイビーは私に近づいて耳元で囁くようにその正体を告げた。


「それはね、夢精って言うの」

「夢精?」

「そう、男の子が、その、エッチな夢を見たときとかに寝ているうちに、その、射精、することなの。——射精は分かる?」

「射精? あ、ああ!」


 なるほど、射精、射精ね。うん、知ってる知ってる。あの男子が精子を出すあれだよね。そうだよ、なんで思いつかなかったんだろう。エロゲとかでさんざん白濁液って言われてたじゃん。知識としては知っていたんだけどそれが自分事になってなかったというか、急に知らないことが起きて焦りすぎていたんだろう。


 しかもそれをネイビーに指摘されるなんて、最悪だ。恥ずかしすぎて顔を上げられなかった。そんな私を見かねて『あの、ルイス。別に全然おかしなことじゃないからね。ルイスも男の子だもんね』とネイビーが慰めてくれた。自分の顔は見えないがきっと真っ赤になっていることだろう。


「ネイビー、今のことは全部忘れろ」

「——それは、難しいかも……あっ、そうだ! 闇魔法で忘れさせればいいんじゃない?」

「こんなことでネイビーに負担をかけたくない。だから、頑張って忘れて。お願い」

「——う、うん。頑張るよ」



 その日は恥ずかしくて、ネイビーの顔がまともに見られなかった。ああ、どうしてあの時気づけなかったんだろう。それにネイビーにも恥ずかしい思いをさせてしまった。これじゃ、ますます計画から遠ざかってしまうではないか。ネイビーがあえてそのことに触れずにいつも通り振舞おうとしていたのが余計に私の心をえぐった。




 そんなことがあった日の夜、ベッドに横になることで朝の失態を思い出してしまい悶絶していると部屋のドアがノックされた。


「誰?」

「ネイビー、だよ。……入ってもいい?」

「いいけど、何か仕事って残ってたっけ?」


 そうして入ってきたネイビーはどこか決意を固めたような顔をしていた。そうして告げられた言葉は私が予想もしていないものだった。










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