幼少期 メイド編
第1話
「おはよう、ルイス。今日はいよいよ、儀式の日よ。昨日はぐっすり眠れたかしら?」
「おはよう、ママ。楽しみでちょっと眠れなかったかも」
あれから、更に時は流れ私は5歳になっていた。いやあ、子どもの頭ってすごいな。あれだけ意味不明だった言葉もすっかり分かるようになったのだから。この5年で随分この世界に慣れ親しんだと思う。
元の世界で死んでしまって、この世界に転生したこと。それについてはもう文句はない。未練がないと言えば嘘になるが、二回目のチャンスをくれたと思えばむしろ感謝すらしている。ただ一つだけ文句を言わせてくれ。どうして私は男の子になっているんだ、と。
いや、あのね、確かに私はいわゆる普通の女の子じゃなかったかもしれないよ? 小さい頃からきれいなお姉さんが好きだったし、きわどい恰好をしたお姉さんがいたら目が釘付けになったりしたよ。女子の『〇〇君、格好良くない?』みたいな話よりも男子の『このキャラめっちゃエロくね?』みたいな話の方が断然興味あったし、共感できたのも認める。でもさあ、これは流石にひどくない? 二分の一を外すなって。
まあでも、なってしまったものはどうしようもないと飲み込んだ。そうするだけの時間はあった。考えようによっては、これからは堂々と女の子を好きになっていいわけだし、スキンケアとか面倒なことも減るだろうからいいことかもしれない。
それに、転生して悪いことばっかりだったわけじゃない。まず、この家はかなりのお金持ちなのだ。私の認識がちゃんとあっているかは怪しいけど多分この家は貴族だ。部屋には高そうな絨毯が敷いてあるし、調度品だって高級っぽい、それに使用人だっている。まあ貴族じゃなくてもかなり裕福なのは間違いない。
それに何より、この世界には魔法があるのだ。それに気づいたのはいつの頃だったろう。私の尊厳と言う尊厳が破壊された頃だからもう随分と前のことだ。もう考えないようにしているが、赤ちゃん時代はまさに地獄だった。おっぱいを飲むのはまだよかった。でもおしっことかするようになってからは本当に最悪だった。
初めのころは死にたいぐらい恥ずかしかったけど、時間が経つごとに慣れた。慣れるしかなかった。ちゃんと気を持って、その処理を受けていると不思議なことが起きたのだ。粗相をしたばかりの私の前で使用人の人が何か唱えているのを聞いていると、急に体が水に包まれるような何ともいえない感覚がした。しばらく経ってそれから解放されると体がさっぱりしていたのだ。それに気づいたときには思わず神に感謝した。流石にこの歳で他人に触られながら下の世話までされるのはきつかった。
あれが高度な科学とかじゃなければ魔法だろう。いや魔法に違いない。魔法があるという事実があったからこそ私の精神は持っていたと言っても過言ではない。さもなければ私の精神は粉々に砕け散って、塵も残らなかっただろう。
そんなわけで私の心を救ってくれた魔法を一刻も早く使いたかったが、使い方が分からなかった。だからこの世界のママに聞いたら5歳になるまでは使えないとのことだった。何でも5歳になれば、神様が魔法の属性を授けてくれてそれでようやく魔法が使えるようになるそうなのだ。どっかで聞いたことあるような設定だったけど、そう言うことならと5歳まで待った。そしてとうとう今日がその儀式の日なのだ。
今日は朝ご飯は抜いて、朝から使用人にお風呂に入れてもらい身を清める。慣れたことではあるものの、まだ恥ずかしいという気持ちは残っているから、あの魔法で清めればいいじゃんと思わなくもなかったが、そこはぐっと我慢して終わるのを待った。お風呂が終わって、案内された部屋には水晶を持ったいかにもな格好の聖職者がいた。
「では、この水晶に手をかざしてください。水晶の色が変わって、自分の属性が分かりますから」
何の属性でもいいから早く魔法が使いたい。いや欲を言うなら派手な奴がいい。そんなことを考えながら、促されるまま手を前に出す。何色に変わるか興味深く見守っていると、水晶がどんどんと黒く染まっていく。だいたい予想はつくものの目の前の聖職者の発言を待つ。
「こ、これは……闇属性です。……あ、はは、め、珍しいですね。で、では私はこの辺で。神のご加護があらんことを」
矢継ぎ早にそう言うと水晶を持ってさっさと退出してしまった。しかし、私の意識はそこにはなかった。闇属性? はて、どこかで聞いたような。そうして顔を上げると鏡の中の自分と目が合った。……あ、ああー! お前、どこかで見たことあるかと思えば、あのエロゲーの悪役じゃねえか⁉
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