良薬心にうまし②

「透明人間?でも、透明ではない」


 何やらキラキラと光る枠で人間の形が見えた。中は透明なのに、人の形をした枠だけの人。枠がラメのように光っている。お姫様が着るようなドレスに、頭にはティアラような形が見えた。


 そして、髪はふわふわのロングヘアー。



「ん?ただの枠から声が聞こえる?」



「わたくし、あのじいやに取られたの」


「え?」


「あなたはじいやに何かを取られなかった?」


 ひなは声の主がお姫様だという事を確信した」



「取られた覚えはないけど、取られたというより、抜き取られた………取られたーーー‼︎」




「私が、こんな姿になってしまった理由を、ずっと考えてたの。いろいろ聞き回ったりもしたわ。わたくしは、あのじいやに取られて変わってしまった。この世界は、罠だらけ。もう二度と戻る事はできないのよ。でも、あなたはまだ、間に合うわ。取られたものを、取り返さなきゃ」



「え…………?」


あーもう分からない………

あんなじいさんの所に戻ったって、太刀打ちできるのか…………


「そもそも取り戻すってどうやって?



 取り乱すひなを宥めるように問い正す透明なお姫様。



「あなた、今幸せ?」


「幸せ………?ん………このへんてこりんな世界に紛れ込まなければ、幸せだったと思う」


 

「それは本当なの?嘘をついてたりしてない?」


「嘘?嘘なわけない………」




「わたくし、調べ尽くして分かった事があります。あのじいやが美味しそうに食べているものは、心の中の嘘。嘘が餌だという事が分かったの」



「え……?透明なお姫様………私、大好きなバスケ部の強豪校に進学して、これからきっとどんどん勝ち進んでいく。両親だって、きっと喜んでる」



 ひなは自分が今幸せだという事を証明したかった。



「それは、本心ですか?嘘をついている人は、ここには来ないはずですよ」



 ひなははっとした。幼少期からミニバスのチームに所属し、シュートを決めて点を取るたびに両親が喜ぶ顔が嬉しくて、もっと頑張ろうって練習に励む日々だった。でもいつしか練習の厳しさに耐えられなくなり、心が折れてバスケを辞めようと決意し、両親に伝えた時の事を思い出した。


 あの時ひなは、両親が悲しんでいるように見えた。だから、もう一度頑張ろうって思った。


 やめて欲しくないって言われたわけじゃない…………

両親が悲しむ顔を見たくなかった…………


「全部、自分で決めたんだ。でも、自分のためじゃなかったんだ」



「もし、わたくしの事を信じられないのなら、試してみるといいです。あのじいやに向かって、言うのです」



この透明なお姫様………

信じるとか信じないとか…………

もう訳がわからない………

あのじいはんのところに行くのも気が引ける…………

でも、嘘をついてた事だけは分かった………




「時間がない。わたくしのようになりたくないのなら、急ぐのです。早く‼︎」



 ひなは、無言でうなずき、透明のお姫様に背を向けて、走り出した。



あーもう‼︎

何が嘘で何が本当か分からない‼︎

でももし透明になったらどうなっちゃうんだろ…………

とにかく今はあのじいさんを探さなきゃ‼︎



 元来た道を戻り後ろを振り返る事もなく、じいさんを探した。

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