良薬心にうまし①

「うんめぇ。うんめぇ。心髄まで食い尽くしてやろう」


「見てられない。エグすぎる」



 目を逸らして下を見た。

 強制的に入ってくる視界の中の胸元は、特に変わった様子がなく、ひなは混乱するばかりだった。じいさんが喰い散らかしているヘドロの塊から、ポタポタと液体のようなものが落ちるのが見えた。


「うわぁ…………こんなことしてる場合じゃない。早く逃げなきゃ」

 


 おもりが乗っているかのように重かった足は、途端に軽くなり、ひなは一目散に逃げ出した。



 進む速さは遅くとも一刻も早くここから脱出しなければならないという思いでいっぱいだった。

 

 と言っても、どこに逃げたら良いのかわからないままとにかくあのじいさんが来た方とは逆の方向へ走り出した。



 すると、急に小さな光が現れ、ひなと同じ方向へ向かっているようだった。


「何の光?」


 ひなの光少し先を行く光は逃げ道を知っているかのような素振りで、ひなをそそのかしているようだった。



「もしかして、出口を教えてくれているのかも」



 光はさっきよりスピードを上げて進み出した。



「待って!足が思うようにいかない」



 小さな光が進んでいく先に出口が見えた。それはまるで、洞穴からの抜け道のようだった。


 ひなは息を呑む思いで駆け抜けた。

 


「やっと抜け出せる」



 どんどん出口が近づくにつれ、ここから出られるかもしれないという期待を胸に、喜びが増していくひなだった。

 


「あと少し早く……早く……」

 


 思うようにいかない自分の体に喝を入れながら、進み続けた。


 

 外から光が差し込み、うっすらと生い茂る木々が見えた。


 その瞬間………



「駄目。こっちへ来たら駄目よ」 


 

 誰かの声が聞こえた。



「何?今度は誰?」


 

 急ブレーキで立ち止まった。



 「こっちへ来たら、ニ度と戻れなくなるわよ。すぐに戻って」


「え?」



 周りを見渡す限り、誰もいない。



「今ならまだ間に合うから、戻って‼︎」


「だから誰なの?」


 ひなは、もう一度もと来た道を振り返り、誰もいないことを確かめ、出口の方を見てみると、


なんと…


 

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