スリルという名の制裁①
ポツンポツンと音が聞こえる。
水たまりに吸い込まれるように雫が落ちる。
雫が水たまりに落ちる度に振動が起きて、その振動がひなを呼び起こすように音を立てていた。
「ん……痛たた…………腰が…………」
どうやらひなは腰を打ったようだった。
気付いた時には薄暗い洞窟のような場所で目を覚ました。
「ここ、どこ?」
照明はどこにも見当たらないのになぜか薄暗く肌寒い、冬の始まりのような匂いがした。
「これは夢?いや、夢じゃない」
ひなはなぜここにいるのか過去を思い出そうとしてもなかなか思い出す事ができなかった。
その場所から一歩も動けずに立ちすくんでいた。
しばらくすると上の方から青い光のような物体が降りてくるように見えた。ゆっくりと降りてくる光をひなはビクツキながらも目を凝らして見上げた。
「犬?いや犬ではない。人?人でもない…………はっ!犬みたいな人‼︎」
ひなは混乱しながらもこの犬みたいな人に会った事がある事だけは思い出す事ができた。
「でも待って。見覚えはあるのに……ん~……誰?」
ひなは、少し前に起きた現実だけごっそり抜き取られるかのような感覚になった。
「上がったら下がると言いましたよね?」
案内人は何か見下したような言い方で近付いてきた。
「上がったら下がる……あっ‼︎ジェットコースター‼︎そうだ‼︎思い出した‼︎さらと別々の方向に向かって、それで、ありえない高さとスピードだった。でもなんで?なんでこんな所に。ジェットコースターはどうなったの?さらは?他のみんなはどこに行ったの?」
「ここは、あなたの心の中です。皆様それぞれ各々の心の中に落とされました。存分に楽しんでください。では」
と青い光をまとった案内人は空中に浮いたまま消え去ろうとした。
「ちょっと待って‼︎どういう事?心の中って。こんな真っ暗、ありえない‼︎」
「ありえない?」
「そう。ありえない‼︎だって毎日充実してる。好きなバスケに明け暮れて家族にも恵まれてこんなに幸せなのに、心の中がこんなに暗いなんて意味が分からない」
「ふん」
鼻で笑う案内人は呆れた口調で言い放つ。
「あなた、本当に心の底から幸せだと言うのですね。じゃあなたは自分の心の中を見た事があるのですか?ただ湧き出てくる感情と心の中が必ずしも一致するとは限らない。そうではないですか?」
何言ってんだこの人……
いや、犬……
妙にイケメンな犬……
ひなは何も言えずに黙り込んでしまった。
「犬とは失礼ですね」
「はっ。心が読まれてる」
「まだこのアトラクションは始まりに過ぎません。出口でお待ちしておりますね」
と言い残して一瞬にして消え去ってしまった案内人。
「置いてかれた」
混乱する頭の中。
どういう事?……
出口はどこ?…………
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