仕事人ほど紛れてる②


「うわー、何これ!外の見た目と全然違う」


 ひなは目が点になった。中に入るや否や二人は外観とのギャップに驚きを隠せず周りをキョロキョロと見渡していた。


「なんか、近代的……」


 とさらもキョトンとしていた。


 見た事のないようなデザインの壁で空間が包まれている。まるでいつかの遠い未来にタイムスリップしたかのような錯覚になった。



 先に並んでいる乗客たちで混み合っていたのでなかなか人気があるアトラクションのようだった。




 順番が近付いてくると案内人が現れた。

 


「ようこそ、モダンコースターへ」

 


「え?犬が喋った!」 


 二人は顔を見合わせた。


 着ぐるみのような風貌の割には生身の人間に近いような出で立ち。二足歩行の犬みたいな人。変わった案内人だった。



「すごくすごく犬でもあり人間でもある」


「うん、しかも妙にイケメン」


 二人が犬みたいな人をガン見しているとその犬みたいな人がまた喋り出した。


「このモダンコースターは上がったら下がる仕組みとなっております」



 乗客たちからは馬鹿にしたような笑い声が聞こえ、その場がざわついた。



「上がったら下がるのは当たり前じゃないか」

 


 呆れた口調で言い放つ、一人の乗客。



 犬みたいな人がアナウンスを続けた。


「こちらの二列のコースターは上がるパターンと上がらないパターンのどちらかになっており、そのどちらかを選ぶ事ができます」



 また乗客達からの笑い声が聞こえてきた。



「どうやらこのアトラクションはジェットコースターみたいだね。さらはどうするの?」

 

 とひなが聞く。するとさらは、



「う~ん。私は上がらなくていいなら、上がらない方がいいかな」


「え?ジェットコースターなのに上がらない方を選ぶの?」


どうしよう……

うーん……

別々になってしまうな………

一人は心細いな…………………

 

 と悩んでいると、


「上がるパターンも、上がらないパターンも、出口は同じです。ただ戻るまでの時間と労力の差があるのは当然ですよね」


 と犬みたいな人のアナウンス。


「それなら二人別々でも帰りは出口で会えればいっか」


「だね」


 軽めの判断で決断した。

 



「それではどちらかに座って下さい」 

 

 二列のコースターの左側には上がる方、右側には上がらない方というデジタルの表示があり、左側にはひなが右側にはさらが乗った。



 あいにく右側には乗る人が少なく、空席のまま順番が進むシステムになっている。


「皆様、ご準備はいかがでしょうか?今ならまだ間に合いますよ」


「今ならまだって…もうこっちを選んだんだからこっちでいい」


 とひなは少し恐怖を誤魔化し気味に言った。さらも、


「私もこっちでいいかな」

 


「本当にいいんですね?それでは参ります」

 


 モダンコースターのレバーが下がりゆっくりと動き出した。進めば進むほど照明が少なくなり、段々段々暗くなっていく。



 さらの顔がギリギリ分かる位に暗くなったら、二股に分かれたレールの上を左側と右側に分かれて進み出した。



「さら!また後でね」


「出口でね」

 


 進むコースター。


 上へ上へと上がっていく。ひなの心拍数もどんどん上がっていく。ひな自身が自分の鼓動の高鳴りに気付いた時、照明は全て消えて真っ暗闇になった。


 

 暗闇の中を少しずつ上がっていくコースター。見えないせいか恐怖度が増していく。

 

 と、そこで異変に気付いたひな。


「あれ?なんかこれ、いつまで上がっていくの?もうこれ、とんでもない高さなんじゃないの?」

 

 そう。このモダンコースターはすでに建物の高さを越えていた。

 

「どうなってるの?」


 暗闇と異常な心拍数が重なったせいか何が何だかわからなくなり、脳がバグったその瞬間だった。コースターは急加速してさらに上昇し始めた。


 ひなは意識が朦朧としてしまいコースターのバーを掴む力がなくなってしまった。その数秒後、いきなり急降下が始まった。



 何度も何度も急カーブを疾走するモダンコースター。ジェットコースターは苦手な訳ではないひなだったけれど、こんなトンチンカンなコースターは初めてでとてもじゃなく体が追いつかなかった。

 


「もうダメ………」

 


 意識が遠のいていくひなだった。


 尋常じゃない造りのモダンコースターは容赦なく進み続けている。スリルを味わうどころではない。


 三百六十度回転でも凄まじいスピードで疾走するあまりの速さと、経験した事のないハードなコースターの中で、ひなはとうとう意識を失った。

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