めおと

 数字わずか誤まるに、管轄人から誤差へ合うほど小さく棘される。あんまり気かからない傷心ゆえすぐ瘡蓋であった。

 噂が巡った。あの上司ひとり立ち戻り、ふたりが独りひとり別れた。噂では、角みじんない円満にて、巣立つものは片ついた、夫婦する縁切れた、それで独りとなったそう。十文太がさきの瘡蓋そば、新た深い傷させられる衝撃がする。

 俯く目さき指輪にぶく映すのに、そこ滑る光沢の輝度ばかり鮮やかとし怪しい。こういうことがある、輪へ聞かせるようぽつり言い、平静を努める。そのうちには、ほかの勤めが終いである。

 傷心ひどく、あたか滲出液に傷口ねばっこく、やがて膿むよで怖くなる。子をどうでもよく忘れつ、帰れば妻だけ凛と迎え来る。子を持て、この深手だと、もう急の処置とも成らない覚えする。すれば、ふたりより別れた上司ら円満いたったこと、さらに恨めしくなった。

 備えられる食膳済まし、あと妻から机挟みあった。

「嫌なことが続くんですか」

 出会う瞳が普段にしては、心配称えよく開いている。でも普段あえて避けるような動向する夫で、妻を精読できているとは怪しい。より皮肉が、断絶へ近寄った伝心網この期につき復旧されることであった。

 あくまで世間かたる言いぐさし、上司が離縁したを述べる。言いよう奏功すか、心配なく目据えなおす妻、よそ事いう気楽さ示してくる。

「夫婦など破綻のためできたものですね」

「そうかな」

「縁ですから」

「切れるものと」

「いえ、切れるほど途端なく、例えならほどけるんでしょう」

「解くか」

「そう、じっくりと」

「俺たちとてかな」

 こころ持ち挑みかかったつもりたる十文太を、妻つうじる是非あかさず、ただ隣人談するよな軽口あっさり。

「そうでしょう」

「そういう時流かな」

「きっと久遠ある宿世ですよ」

 歯の立たない十文太なんの意地したか己すら未知なまま、突く動かされ、悪戯らしさ若干わすれず言う。

「ならいっそ俺たちなんかも独りひとり立ち直ろうか」

「そうしますか」

 真で受けたか、交わしたとも、難なくする妻やはり一片しろ悟らせない。

「君、離縁したい」

「私に訳ありません。あなたの次第です」

「うん、僕も同じことだ」

 深い首肯に口したもの言霊らしく、傷心やすめる。もう寝てしまえば塞がる見通し成る。夫がするこの見通し良い双眸から、なに察したか妻には、ふたり他がなくなったあの見合い席での微笑がなん年ぶりかしている。

「契機あるまで、ふたりぐずぐだ夫婦でしょう」

 夫婦うち解くなか、夫あの栄枯を相克さした見合い写真が懐かしくなり、笑み冴える。妻これまた通じ、その微妙ちがった笑みへ疑義してくる。

「いや、なぜにか思いだす」

「なんです」

「はじめ俺が君を跳ねっかえりだと推量した」

「でしたか」

「君が知らないとこだ」

「で、どうです」

「推したまま、今昔ともども君だ」

「わたし日ごとあなたを分からなくなりますよ」

 それから、けれど機嫌いいなら満足ですよ、と字面よか意を受け、ここへ嫌味おぼえない。妻が発ち、洗う食器の打音する。手伝おうか、十文太のすれば、いいえ結構、で淡白へ戻る。夫婦だんまり、たま交わす言が他愛なし。それ露草より垂れ、水面おだやかする波紋よう推移のち途切れた。

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