私の彼女はイケメン彼氏役

学生作家志望

彼氏役

夜の街を外灯が照らす、ポツポツと等間隔に。


私はその光の中に溶け込んで、出ては光の中に溶け込むを繰り返した。


いつもならば光など気にする暇もない夜の街。あなたといれば、歩いていても退屈なんてしなかったのにな。



「さようなら」



なんでそんな残酷な言葉をあなたは言ってしまったの。


私にはその答えがいつまでもわからない。


私はその理由を彼に聞いた。すると、涙を頬に垂らしながら彼が言った。



「もう限界なの、私。」



「限界?ごめんね、そうだよね。私が今度はそっち側になるから、」



「そうじゃない。周りの目が怖いの。みんなから否定されているような、そんな気がして。」

「だって変でしょ?この髪型。マッシュなんて私に似合うはずがない。」



最近流行りのマッシュ、男子がよくやってる髪型。それを、彼は無理してやってくれた。私が、少しでも男の子に近付いてほしいといったから、こんなことに。



「男の子らしい私服とか、アクセサリーとか、でも私気づいちゃったんだ………」

「本当の男の子はこんな、ギラギラなアクセサリーとか真っ黒の服とかそんなものあんまり着たり付けたりしない。全部、ただのイメージだったんだ。」



なんの意味もない。確かにそうだったかもしれない。結局、他の人たちから見たら男を演じている、ただの女。キモいなんて言葉を平気で吐くやつも山ほどいた。


私だったらそんなの耐えられない、でもそれを1年間も我慢して1人、耐えてくれた。私はそのおかげで、彼を大好きになった。



「もうやめよう。こんな関係。」



私たちは、女子同士のカップル、同性カップルだ。


付き合った初めは、友達みんなに関係を秘密にしていたが、それが次第に辛くなり、片方がマッシュのかっこいい男子を演じることにした。


髪型が変わって、最初は違和感があったが、次第にそれにも慣れて、それどころか、さらに好きという気持ちが高まっていった。


そんな中で、ついに限界が来たのだ。



「待って、お願い。私が今度は男になるよ、かっこいい、男に!」



「さようなら。大好きだよ、楽しかった、ありがとう。」



私がいくら引き止めようとも彼が足を止めることはなかった。私はただ放心状態でその場に立ち尽くすことしか出来なかった。


それから数時間後には、スマホから連絡先が全て消されており、通っている大学にももう来なくなってしまった。



「佐野ちゃん!最近彼氏さんとどうなの!」



いつも通り、明るく陽気な友達が私に話しかけてきた。恋バナが大好物で、大学にいけば毎回こればっか。



私は今までこの子にたくさんの嘘をついてきた。彼が本当は女の子だったなんて、もちろん言えない。全てが偽り。


今更、何があったかなんて本当のことを言えるはずもなく、私はまた嘘をついてしまった。



「うまくいってるよ。」



 ◆

夜の街を歩くことはこんなに退屈なことだったっけ。家に帰るのがあんなに億劫だったのに、どうして今はこんなに早く家に帰りたいと思っているのかな。



2人で食べたスイーツ屋さんも、この時間にはしまっちゃってるみたい。


それにしても、この髪型、変な目で見られたりしてないかな。大丈夫だよね、きっと。


心配事がぷかぷかと水泡のように次々と浮かび上がってきて、ネガティブな感情に心が汚染されていった。


「さなちゃん、ごめんね、無理させて。もしかして、あなたはこんな気持ちだったのかな。」


歩道の隅にポツンと寂しげに立つカーブミラーに、私は1人、話しかけていた。



「あなたみたいなイケメン、なれないや。」

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私の彼女はイケメン彼氏役 学生作家志望 @kokoa555

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