第69話 助け合い

「人々は支え合って生きるものです」


 なんてどっかの誰かが言っていたような言葉を、義弘よしひろ先生は口にした。


「ならば当然、私も含め皆が支え合って生きているはずです」

「それは、まあ」

雛沢ひなざわ君もそれは分かっているようで何よりです。そうですね、例えは心羽みうさんなどとはよく支え合って生きているのではありませんか? もちろん他の家族もそうですが」

「そうですね」


 心奏かなでたち双子の学費や食費、保険料や生活用品にかかるお金。その全部を賄ってくれているのが両親だ。もちろんこうやって成長するまでの間に散々お世話になってきているし、支え合っているというよりはこちらが寄りかかっているくらいだ。

 心羽みうにしたってその限りだし、心梛ここなだって支え合っていると言えるだろう。比重が心奏かなでの方が軽い気がするのは気にしないものとする。


「友達を作る、ということは支え合う人を増やすことだと先生は思います。もちろん、仕事上の同僚や、何なら社会で生きるほとんどの人と支え合っていかなければお買い物も出来ないのが私たち社会人です。でもそういうことではなく、何気ない日常での支え合いや心の支え合いを出来るのはやっぱり友達とか、後は恋人や家族くらいじゃないでしょうか」


 ですから、と先生は続ける。


「この人になら支えて貰っても安心だ、この人を支えて上げたいと思える人が友達やそれ以上の関係へと昇華していくのではないでしょうか。先生はそんな風に思いました」


 我ながらいい考え方ではないでしょうか、と先生は締めくくる。


「先生はこんなことを言ってみましたが、最後に決めるのは雛沢君です。先生の考え方を参考にしてくれても構いませんし、まったく他の考え方でもいいと思います。ですが、雛沢君にはやっぱりお友達を大切にして欲しいので、これだけは言わせてください」


 もしも友達が支え合うための存在ならば、確かに心奏かなでには必要な存在だ。今の心奏かなではあまりに細く、すぐにでも倒れそうなくらいに頼りないから。

 彼女が出来た、なんて言っても心奏かなで自身が成長したわけではない。人としてより成長するために、それは必要な物なのだ。


 だからこそ、義弘先生の言葉は心奏かなでの心に響いた。


「お友達とは、相手に認められてなるものではありません。自分からお願いしてなるものでもありません。支え合えるようになった時、自然となっている物なんです」


 誰から認められる必要は無く、自分がそう願う必要も無く。

 それは役職ではなく状態を指すのだと。だとしたらもしかすると、心奏かなでにとっての心音ここねは既に友人と言えるのではないだろうか。


「一緒にクラス会の準備をして、心配して貰って。それは支え合いと言えるのではないでしょうか。先生には、とても素晴らしい友情だと思えました。なので心奏かなで君に彼女さんが出来てしまったことは、個人的には残念だったりするのですが……。これからも、心音ここねさんと支え合えるように、頑張ってみるといいんじゃないでしょうか」


 はて、どうして残念なのだろうか。

 気になりはしたが、そんな疑問は一瞬で消えてなくなった。


 友達。助け合い、支え合って一緒に歩む人のこと。


 それなら自分にもできるかもしれないと、そう思えた。

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動き続ける心と心の距離を求めなさい シファニクス @sihulanikusu

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