第68話 教師と生徒
「ですが、本当に良かったです」
「そんなに俺が不順異性交遊してるかって気が気じゃなかったんですか?」
だとしたら非常に残念である。
「いえ、そうではなく。見たところ
「落ち込む?」
何の理由があって? 落ち込む理由なんてあっただろうか。
先生が
……あれ? 割と普通に褒めたつもりだったんだが本人に言うと泣きそうな内容だな。
「ゴールデンウィークが始まる前日に、
「にい……あ、
「今忘れてませんでした!? 新嶋さんは雛沢君の子と案内心配してくれていたのに!」
「いや、覚えてましたよ。最近名前で呼ぶことが多くなったから、ぱっと出てこなかっただけです。実際
「そ、それはそうですけど……時々、先生は雛沢君の記憶力の方を純粋に心配してしまうんですよ」
それは酷いと思います。まあ確かに今の発言から心配されても仕方ないような気もするけど。
「そ、それでですね? 雛沢君が噂のことで学校が嫌になっていないか心配だって、相談してきたんです。新嶋さん、雛沢君のことをとっても気に掛けていたみたいですよ」
「
なんでそんなことをするんだろう。
互いを名前で呼ぶようになったり、話をするようになったりはした。それでもそんなに肩入れするような関係にはなっていなかったはずだ。精々が知り合い以上クラスメイト未満の――
「いいお友達が出来たみたいで、先生嬉しいです」
先生の言ったその一言にはっとする。
友達……。
頭の中で反芻するその言葉を深く噛み締めてみると、なんと味のしないことか。
でもそれは友達に味が無いと言いたいわけではない。
あまりに友達と言うものを知らなすぎるのだ。
きっと、
けれど
そういえば、楽しかったの一言でさえ伝えられていなかったな。
そんな人間関係ド底辺者のくせして、ここ数日は彼女が出来たと心躍らせていた? そんな自分を思い出して、思わず恥ずかしくなってくる。
何が来るもの拒まず、去るもの拒まず、だ。あってもいいが無くてもいい? 違うだろ。もっと近くにいてくれることに感謝するべきなんじゃないのか? もっと相手のことを考えるべきなんじゃないか?
「雛沢君? どうかしたのですか?」
「……友達って、なんでしょうか」
「て、哲学ですか? 先生はあんまりそういう分野には明るくなくて……で、ですが雛沢君が気になるんなら明日までには!」
「いえ、そうじゃなくて。純粋に、友達って何だろうって」
「お友達……」
ハトが豆鉄砲くらったよう、という例えはいまいち分かりづらかったのだが、まさしく今先生が浮かべている表情なのではないだろうか。
何を言っているのだろうか、とほとんどやばい人を見るような視線を見受けてくる先生は、そんな視線とは裏腹に唸り声を上げる。
「とっても難しいお話しですね。確かに先生も深く考えたことはありませんでした。哲学でなくても、もしかしたらすぐに答えはご用意できないかもしれません」
先程の戸惑うような表情とは違う、真剣な表情でそういった。
普段は見せない表情だったと思う。この表情を見て、先生も大人なんだなと初めて思えた。
でも、そんな大人でも答えの出せない問いだと分かって、むしろ分からなくなってしまった。
皆簡単に友達がどうとかいう。
友達を作れ、友達と遊べ、もっと友達と仲良くしろ。
そんな無責任な言葉を、何人もの大人に投げ掛けられてきた。時には
でも、先生でも分からないのだ。それは先生が子どもっぽいからではないと思う。大人でも、本当に分からないんだ。
そのことを分かって
少しだけ間を置いてから、意を決したように口を開いた。
「安心して、とは言えません。ですが不安にばかり思わないでください」
「先生?」
「もしかしたら雛沢君は先生のことを頼りないと思っているかもしれません。実際、先生は今雛沢君からの問いかけに答えることができませんでした。それでも、一つだけ言えることがあります」
一体それは何なのか。わらにもすがる思いの
「雛沢君は、一人じゃありませんから」
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