第66話 家庭訪問

心奏かなで~お客さんよ~」

「ん? 分かった! 今行く!」


 下から聞こえた心羽みうの声に、心奏かなでは作業の手を止めて声を張り上げる。


「ま、これくらいでいいか」


 手早く掃除道具を片付け、心奏かなでは階段を下る。

 駆け足で玄関に向かうと、廊下に顔を出した心羽みうがジト目を向けてきて思わず立ち止まる。


「な、なんだよ」

「何で見知らぬロリが増えてるのよ」

「ロリ言うな。あれでも年上だ」

「はぁ? 何あんた、彼女作ったばっかりなくせして年上の女招いたの? ってえ、あれ年上マ? 本気?」

「ちょっと反応遅くないか?」

「いや、驚きすぎてちょっと」

「ああ、あと」

「ん?」


 流石に待たせ過ぎだと思い玄関に向かいながら、爆弾を投下していくことにする。


「あの人、俺の担任だから」

「……はぁ?」


 はぁ、じゃねぇ。見たことくらいあるだろうか。一応学年同じだからな?


「ちょ、待ちなさいって! それってどういう冗談よ!」

「冗談じゃねぇ」


 靴に足を突っ込み、扉に手をかけながらため息交じりで呟く。


「たぶん、お前も知ってるよ」


 どうせインターフォン越しに見ただけで顔がよく見えなかったんだろうな。

 とりあえず、扉を開ける。

 見れば分かるだろうな。


「あ、雛沢ひなざわ君、やっと開けてくれましたね。暑くて倒れそうでしたよ」


 扉を開くと、予想通り義弘よしひろ先生がいた。


「あれ? そちらは、もしかして生徒会の雛沢ひなざわぁ……心羽みうさんですか? そういえば同じ苗字でしたね。お双子ですか?」

「あ、ども」


 義弘先生に訪ねられて、心羽みうは他人行儀にそう返事した。

 ……え? もしかしてマジで分かってない感じか?


「えっと、義弘先生だけど」

「うん、分かるんだけど、こんな小さかったかなって」

「小さっ」

「失礼だろ」

「き、気にしてないです! 私は気にしてないですから!」

「なんか、学年集会の時、もうちょっと大きかったような?」

「だ、台なんて乗ってません! 乗ってませんから!」


 吉岡先生、それ自白しているようなものですよ。


「と、とにかくお邪魔しますね! 心羽みうさんも、お邪魔します! お母様とお父様はいらっしゃいますか!? とにかくご挨拶を!」

「一旦落ち着いてください。完全に不審者の様相」

「うっ、すみませんでした……」


 どうやら想像していたよりも気にしているらしい。義弘先生が変なテンションになってる。

 あと、変態と言うよりは恋人かもしれない。お母様とかお父様とか、あとご挨拶とか。


「そ、それでご両親は?」

「今はいないですね。出掛けているので」

「そ、そうでしたか。それでしたら心羽みうさん、こちらを受け取ってください」

「あ、どもです」

「な、なんでそんな他人行儀なんですか? 先生悲しいです」

「いや、だって休日に男子生徒の家に押しかける先生とか、しかも電話で約束して。普通に犯罪ですよ?」

「違いますよ個別面談、家庭訪問ってやつです! 双子揃って先生を何だと思っているんですか!?」

「「大人の振りした子ども」」

「二人とも酷いですうぅっ!」


 義弘先生、号泣だった。

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