第63話 好きはよく分からない
さて、
こうやって、肝心な時は自分で決められないのは本当に不甲斐ないことなのだけれど、誰かに付き合って欲しいなんて言われた経験は一度も無かった。許して欲しい。
なんて誰にでもなく頭の中で呟きながら、更に考える。
結局自分で決めろと言われてしまった以上、決めるのは自分だ。
……決められないんだが。
扉に着いた鈴が鳴る。カフェにありがちなオシャレな音色が、今だけは死へのカウントダウンのように聞こえてしまった。
いや、誰も死にはしないけど。
死にはしないと分かっているが、目の前に座り直した
ふぅ、と息を漏らし、
……なるほど、可愛いかもしれない。
可愛い生き物なんてこの世に猫と小説の中のヒロインくらいだと思っていたが、そうか、案外近くにいたんだな。
一緒に喋っていて楽しいし、
何かを待つように、気まずげに目を逸らし続ける
「受けようと思う、その依頼」
「い、依頼って……私と付き合うのは、クエスト感覚ってこと?」
「ただのクエストじゃないな、メインクエストだ」
「何それ、それで私が喜ぶと思ってるの?」
刺々しい口調ながらも、
「俺が気に入らないか?」
「気に入らない。心の底から気に入らない。生意気だし。もう少し慌ててくれると思ったんだけどな。あんまり女の子に慣れてないみたいだし、そういうもんじゃないのかな」
困ったような笑顔を浮かべていた。その上目は
「それじゃあ、これからよろしく」
「なんだよ改まって」
「そりゃ、関係が新しくなるんだから改まるでしょ。改まんないの?」
「どういう質問だよ、聞いたことないぞ」
「言葉のまんまの意味でしょうが」
こうして、正式に恋人同士になった。
恋人記念、というわけではないが一緒に寿司を食べたし、その後少し歩いたりもした。何だかそれだけの時間が楽しくて、確かに小説に出てくるような恋人と似ていると思えた。
また今度、と言って駅で別れ、家へと続く道のりを余韻に包まれながらゆっくりと歩く。
どこかぽわぽわとしていて、暖かくて。お風呂に使っているような安心感と温かさが、外界に触れるとゆっくり自分の体から離れて行く。そんな心地よさと心地悪さの境界で、
「これが好き、ってことなんだろうか」
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