第58話 再び

「ってわけで出掛けるんだけど、いいカフェとか知らない?」

「どういうわけよ」


 おかしいな、ちゃんと説明したはずなんだが。

 

 食事中、つい先程のスプリングとの会話を包み隠さず語って聞かせたのだが心羽みうは理解できなかったらしい。心梛ここなに至っては味噌汁を口に付けたまま固まっている。余程分かり難かったのだろうか。


「いやだから」

「違う、経緯は分かったのよ、経緯は」

「じゃあいいじゃん」

「良くないわ。あんた、どうしてその誘いを受けようと思ったのか本音を聞かせなさい」

「本音?」


 本音も何も――


「寿司食いたい?」

「よし、行くのは止めなさい。どうしてもって言うなら私たちと行きましょう」

「いやいや、なんでだよ」


 どちらにしても寿司を食べられるのなら構いはしないのかもしれないが一応理由を聞いておく。


「あんたねぇ……ご飯に釣られてオフ会に行くとか詐欺にあうつもりなの? 馬鹿なの?」

「何で詐欺なんだよ。相手はスプリング、この前も一緒にイベント入った仲だぞ?」

「ばーか、そういうのは大抵一回目は油断させて二回目以降本性を現すのよ」


 一年以上かけて騙した相手が一般高校生とは何とも暇は詐欺師だことで。

 しかし、どうやら心羽みうはインターネット上の関係を過剰なまでに疑っているらしい。どうにかして安心させる必要があるな。

 あと心梛ここな、味噌汁はもう空だぞ。


「言っとくが、場所の指定はこっちがしていいんだぞ? そんな緩々な条件で詐欺なんてしないだろ」

「そうやって相手を油断させる手法なのよ。今回は少しの犠牲でも、これから三回、四回と回数を増やすうちにあんたは蝕まれ、最後には灰も残さず食いつくされるのよ」

「それだと俺は食われる前に焼かれてることになる。じゃなくて、疑い深いにもほどがあるだろ。どうしたら信用してくれるんだ?」

「そうね……」


 少し考え込むような様子を見せた心羽みうは、案外すぐに何かを思いついたようだった。


「私たちも付いて行けばいいんだわ。他の席で監視するだけだから」

「ストーキングするってことか?」

「見守るのよ、悪意ある呼び方は止めて欲しいわね」

「やってることは変わらないだろ?」

「いいえ、ストーキングって言うのは相手から了承を得ないものよ。だからこれはセーフ」

「じゃあ了承してないからストーキングだよ」


 というか普通に嫌だ。

 付き合っていないとはいえ女子と一緒に出掛けるということはデート擬きだ。ラノベの展開の中で憧れないと言えば嘘になる。いや、実際彼女が欲しい、デートをしたいと思うことは無い。羨ましいと思うことも無いが、その場面を自分で再現できるとなると少なからず高揚するのは本当だ。

 ただ、それが双子同伴となると嬉しさも半減だろう。


「もし私だけじゃ不安だって言うんなら心梛ここなも連れて行くわ。これで文句はないでしょ?」


 何で文句が無いと思ったのかは心底疑問だが、まあ、心羽みう一人よりは幾らかましか。

 

 デート擬きが双子と幼馴染同伴になりかけていることはあまり気にせずそう思ってしまった心奏かなでであった。

 これが朝三暮四と言うやつだろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る