第57話 ゴールデンウィーク

『なー、カナデー』

「んー、どうかしたのか?」

『明日暇ー?』

「まあ、暇だな」


 ゴールデンウィーク一日目。怠惰に過ごした一日の終わりにスプリングとゲームをしているとそんなことを聞かれた。


 というか明日暇かどうかを聞くのはなんかずるいな。例えば明日遊びに行かない? と尋ねられたら適当な用事を言って断ることも出来るが、暇だと口を滑らせてしまったら逃げ道がない。既成事実を作られてしまうことでどう足掻いても相手の用事に付き合わないといけない状況を作り出す巧みな話術じゃないか。 

 そのことに気付いたことには時すでに遅し。と言っても、何を誘われても断るつもりも無かったので後悔はしていない。反省はしている。


『どっか適当に出掛けない?』

「どっか適当にって……出掛けるのは良いけど、どこ行くんだよ」

『どこでもいいよ、場所は適当に選んで。目的は会う方だから』


 ますます意味が分からない。直接会わないといけない理由があるということか。しかしその理由はなんだ。


「あー、もしかして新しいコスプレでも見つけたのか?」

『無理無理、暑すぎて外じゃ着れないもん』

「つまり新しいコスプレ自体はしてるんだな?」

『……とにかく、所謂オフ会ってやつだよ。最近外に出て無さ過ぎて。それにまあ、ちょっと相談したいこともあってね』


 間が肯定を現していたが、突っ込みを入れるのは止めておこう。あまり触れられたくはないらしい。


『ってことで、明日の十時くらい。場所は適当に選んでおいて。出来ればクーラーあって、飲み物とかも出るところがいい』

「カフェとかってことか? 俺、そういうのまともに行ったこと無いんだが?」

『カナデの家の近場で探してくれればそれでいいから。私もよく分からないし』

「本当に色々適当だな……」

『いいじゃんかー、面倒なんだよー』


 それはこっちも同じだ、と内心突っ込みながらも実際暇だったのでそれくらいの我が儘は聞いてやってもいいだろう。長い付き合いだしな。


「じゃあ、適当にあてつけておくから。駅もあとで教える」

『んー、三時までに教えて』

「その時間まで起きておいて大丈夫なのかよ……。十時までに起きれるのか?」

『は? 寝ないが?』

「おっと、やばい生活習慣してやがる」


 そういえば生粋のゲーマーだったな。昼夜逆転は標準装備、いざとなったら寝る時間と起きる時間を自在に調整することなど朝飯前なのだろう。たぶん朝ご飯は食べてないけど。


 まあ、カフェについては後で心羽みうにでも聞いておこう。家ではあんななりだが外では優等生を演じ、かつ現代女子高生を謳歌する心羽みうだ。カフェの百個や千個余裕で知っているに違いない。

 流石に盛ったか。


『慣れてるから平気。それにアメリカとか行ったら正常だよたぶん、知らんけど』

「それを人は異常というだよ。まあ別にいいけどな、健康にだけは気を付けろよ」

『かれこれ三年以上こんな生活を続けてる私に今更それを言うかね? 時すでにお寿司……あ、寿司食べたくなってきた。明日の昼寿司ね』

「脈略があるにはあるが唐突過ぎてびっくりだよ。スプリングの奢りな」

『あー、まあそれくらいならいっか。一食一万も行かないっしょ?』

「一皿百円足す税って考えたら二人で九十皿食わなきゃ大丈夫だろ」

『おっけー、そうしよ』


 生活習慣が狂っているだけではなく金銭感覚もそこらの高校生とは懸け離れているらしいスプリングのことを、多少なりとも心配しながらも唐突なお寿司に内心嬉しい心奏かなでであった。

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