第二節 近づく距離

第56話 双子と仲直り

「それじゃあ、いただきます」

「「いただきます」」


 心羽みうが部屋着に着替えるのを待つ間に、心梛ここなは夕ご飯を完成させていたらしい。三人分の食事が並ぶダイニングテーブルで不安気にしていた心梛ここなの前に、揃ってやってきた心奏かなでたちを何も聞かずに、それでいて嬉しそうに迎え入れた。


「そういえばあんた、ネット友達はよかったの? いつもの時間過ぎてるわよね?」

「用事があるって言っておいたから大丈夫だ」


 スプリングには悪いことをした。この一年以上続けて来たことを遂に中断してしまった。でも連絡一つ取ればあちらも問題ない、の一言を返してきた。今までにも心奏かなで側が断ることは無かったが、スプリング側が断ることは何度かったのでお互い様と言うことだろう。


心梛ここなもごめんなさいね、迷惑かけたわ」

「ううん、全然迷惑なんかじゃないよ。むしろ、いざってときに力になって上げられなくてごめんね」

「なに言ってるのよ。心梛ここながいるから、私も色々無理が出来る。こうやってご飯作ってくれたり、優しく出迎えてくれたり。こんなこと、絶対に心奏かなでじゃできないからね」

「悪かったな」


 でも確かに、料理は出来ないし優しく出迎えることだって出来はしないのだろう。

 

 心梛ここなはいつも家族であり続けてくれた。この十年時用の間、ずっと一緒に寄り添い、支えてくれた。心羽みうもろとも世話になった回数は数えきれない。改めて感謝するのも必要なこと、なのかもしれない。


「俺からも、ありがとうな、心梛ここな。今日のこともそうだけど、いつも面倒かけて。これからもよろしく頼む」


 なんてことを言ってみると、二人は驚いた表情で固まってしまった。はて、何かおかしなことを言っただろうか。


「うっそあんた、ほんとに成長したのね」

「何の話だ?」

「び、びっくりしちゃった。まさか心奏かなで君がお礼言ってくれるなんて」

「え、そこ? そこに驚いてるのか?」


 そんなにお礼を言ってこなかったか?


「珍しいこともあるものね。赤飯でも買ってこようかしら」

「そこまでか!? 俺の感謝は正月や誕生日に匹敵するレベルなのか!?」

「そんなこと聞かれても。ねえ、珍しいわよね?」

「うん。あんまり聞かないかも」


 ……恐らくは皮肉を言っている心羽みう、そして何の悪気もなく言っているのであろう天然な心梛ここな。なるほど、二人の方向性が一致すると口論で勝ち目は無さそうだ。


「正直私は嬉しいわよ。間違いなくいい方向に成長してるわ」

「うん。その調子で、もっと人間らしくなろうね」

「俺の人外の気配はどれだけ振り切っていたんだろう」


 多少なりとも世間一般の歓声とは違う自覚はあったが、心梛ここなから見て心奏かなでは大分異質だったらしい。

 あれか。ファミレスで子ども用に配られる間違い探しの一番簡単な間違いくらいには目立ったのだろうか。


 なんかごめん、いい例え出てこなかった。大切なところに色を付けようとしたら色が多すぎて結局大切なところが分からなくなった時くらい分かりずらかった。


 よし、ボケキャラは諦めよう。他に何か人間味あふれる役職は無いだろうか。


「あれね、ゴキブリくらい人間っぽくなかったわ」

「おい、それはただの悪口だ」


 どさくさに紛れてとんでもないこと言ってくれやがって。

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