第42話 距離感

「あ、私にもそれ頂戴」

「いいけど、もう一本買えばいいだろ」

「ばーか、太るでしょ」

「そうか」


 太る、ねぇ。チュロス一本多く食べたところで大差はないと思うのだが。


 色々なアトラクションを乗り回し、小腹も空いて来たのでチュロスとドリンクを買って一呼吸。遊園地と言うこともあって割高ながらも見栄えがいい。写真を撮りたいと言った心羽みうの為に心羽みうが指定した商品を買った心奏かなでは心の中で呟きながらジュースを口にした。


「あ、そっちのジュースも頂戴ね」

「……」

「なによ。あ、自分だけ少ないのが気に入らないのね。私のも上げるから安心しなさい」

「別にそういうわけじゃないが……」

「遠慮しなくたっていいわよ、私が好きで買って貰ってるんだし」


 欲しければ全部くれてやるという意味だったのだが、変に勘違いされてしまった。それを正すのは正すので面倒なので、お互い半分くらい食べたところでジュースとチュロスを交換した。


「ん~、こっちも美味しいわね。普段食べない分、甘いものが体にしみるわ」

「お風呂に入るおじさんか。もっと他の表現ないのかよ」

「うるさいわね。あんたが開いてなんだからいいでしょ。友達相手ならもうちょっと気を遣うわよ」

「ぞんざいな扱いのようで何よりだ」

「なに、嫌なの?」

「別に」

「ならいいじゃない」


 適当に扱われることが嫌だとは思わない。それが日常だから慣れたということもあるし、心羽みうが人前では気を遣っていることを知っているから心奏かなでの前でくらい気を抜いてくれていいと思っているのもある。

 学校では、特に気を張りすぎている気もするしな。


「さ、食べ終わったし次行くわよ」

「分かったから手を引っ張るな。歩ける、自分で歩けるから」

「だってあんた歩くの遅いじゃない。さあ、付いて来て!」

「ちょ、マジで待てって!」


 勢い良く引っ張って来る心羽みうの歩調に合わせて歩き出す。相変わらず何時まで経っても強引なやつだ。付き合うやつの気にも……


「まあ、別に嫌ではないか」


 友人が少なく、きっと心羽みう心梛ここながいなければ部屋にずっと籠りっぱなしの毎日を送っているような性格だ。無理やりにでも外に連れ出してくれる存在は、たぶんありがたい。


 というか、さっきからすごい視線を感じるのだが。いや、凝視されているわけではないがちょくちょくみられるというか、すれ違う人十人中十人が振り返って見てくるというか。

 あれか。心羽みう心奏かなでというあまりに釣り合わないペアに違和感を抱いてしまうのだろうか。そこまで見合わないだろうか。髪も整え、服も選んでもらって多少はましになったと思うのだが……。流石に手抜きが過ぎるか。


 どうやら心羽みうが目指すアトラクションまではまだ距離があるらしく、心羽みうは機嫌よさげな歩調で心奏かなでの手を引き続ける。今なら声をかけてもいいか。


「なあ心羽みう

「どうかした? トイレなら早く言いなさいよ」

「違うわ……なあ、また今度俺にファッションでも教えてくれよ」

「なに? 周りの人たち見て興味でも湧いたの?」

「そうじゃなくて。心羽みうの隣を歩いても恥ずかしくないようにって、心羽みうが言ったんだろ。だから」


 だから教えろ、って続けようとして、心羽みうが突然足を止めたことで軽くぶつかってしまい、止める。


「いたっ。心羽みう? どうしたんだ?」


 見上げてみると、心羽みうは何とも言えないような、笑いをこらえるようなもどかしそうな表情を浮かべて目を細くしていた。


「それ、私以外に言わないでよね。ああいい、どうせ私にしか言わないのは分かってるから。と言うかあれか、むしろ私以外にも言ったほうがいいのか」


 なんか早口でそんな感じのことを言ってきた。

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